第6話 王城の勇者
「おっちゃん! 俺、騎士になる!」
「勇者様が団長を務めるって言う、特別騎士団か? いいじゃねえか。でっかい夢で」
村に戻ったアスノは、王都での経験を刺激に受け、ますます鍛錬に精を出した。
セーラと結婚したいという夢は、セーラと第一王子の婚約発表によって砕け散った。
代わりに、騎士となることで、セーラの側にい続ける選択をした。
「目指せ。騎士団長!」
「でっかすぎねえか? そりゃあ、勇者様を超えるってことだぞ」
「超える!」
「なら、まずは俺を超えねえとな?」
アスノの夢を笑う人間は、村にはいなかった。
アスノが鍛錬を続けていると、村人たちが声をかけてご飯をくれるほど、村全体で応援していた。
「この子、騎士を目指しているんです。ちょっと、手合わせしてあげてくれませんか?」
村に剣の心得がある旅人が来ると、村人たちはアスノを紹介した。
普段、独学と中年男との手合わせばかりのアスノである。
こんな好機はないと、「お願いします」と頭を下げた。
鍛錬が終われば、休息もきちんととった。
たくさん食べて、たくさん寝る。
体を大きくするために、アスノはやれることを何でもやっていた。
十二歳になると、ぐんぐんと身長が伸び始めた。
以前よりも重い物が持てるようになり、以前より速い素振りができるようになり、中年男相手に一本取ることに成功した。
「ついに、打たれちまったか」
「まだ、たった一回だよ」
「馬っ鹿! 俺とお前、いくつ離れてると思ってんだ?」
この頃、アスノにとっての楽しみは二つあった。
一つは、言うまでもないが自分が強くなり、セーラの隣に立つ未来が近づくことだ。
そしてもう一つが、村を訪れる商人や旅人から、セーラの活躍の話を聞くことだ。
商人が村にやってくる日になると、アスノは小銭を握りしめて、村の入り口で朝から商人の到着を待った。
「セーラ……勇者様のお話し、聞かせてください!」
アスノがやってくると、商人は金を受け取り、品の準備をしながらアスノの質問に答えていた。
「勇者様は特別騎士団を率いて、定期的に遠征をしているようですね」
「うんうん!」
「魔王が滅んでも、依然魔物は蔓延っていますしね」
「それでそれで? 勇者様は、どれくらい強くなってますか?」
「直接見たわけではないですが、一振りで魔物を十匹仕留めたとか、睨むだけで魔物の群れを退けたとか、そういった噂は聞きますね」
「かっけー! 俺も、できるようにならないと。まずは、一振りで二匹だ!」
商人は、商品を詰め終えた袋を、アスノに差し出す。
いつの間にか、それが話は終わりだと言う合図になっていた。
もっと話を聞きたかったアスノは残念そうにしながらも、商人に迷惑をかけるのは良くないと、袋を掴んだ。
が、珍しく商人は、その袋を離さなかった。
不思議に思って、アスノが商人の方を見ると、商人はアスノの耳元に口を近づけた。
「忠告だが、勇者様に憧れるのはやめときな」
商人の言葉に、アスノは目を丸くして驚く。
「え?」
「勇者様は、人間じゃねえ。強さもだが、その性格もな。魔物たちの返り血を浴びて戦い続ける勇者様を、王都の上層部はなんて呼んでると思う?」
「……なんて呼んでるの?」
「血の悪魔だ。あまりにも、不気味だからな」
商人がアスノから顔を離すと、喜びをかみしめているアスノが視界に入った。
「どうして、笑っているんですか?」
いっさい怯えを見せないアスノに対し、商人は不思議そうに問いかけ、アスノは満面の笑みで答えた。
「セーラにぴったりだ! そう! 悪魔みたいに強いんだ! 全身を赤く染めるセーラが、綺麗なんだ!」
アスノは、王都の人々も自分と同じセーラの魅力に気づいたのだと思い、なんだか誇らしくなっていた。
そんなアスノを見て、商人は呆れ顔のまま、袋から手を離した。
アスノは商品を受け取り、走って家に戻った。
いつも通り、足取りは弾んでいた。
セーラのことを知れば知る程、天にも昇る心地を感じていた。
「早く、強くなりたい。早く、セーラに会いたい!」
アスノの恋心は、年を重ねるごとに大きくなっていった。
アスノが十三歳になる年。
二つの衝撃的なニュースが、アスノの元に届いた。
「国王様が崩御された!」
王国の頂点の死。
国全体を上げて、大規模な弔いが挙げられた。
アスノの村でも十日間の弔い期間が設けられ、質素な食事と活動の自粛が行われ、日々を弔いで過ごした。
十日間、アスノの鍛錬は中断されることとなったが、国王が崩御したのならば当然だと、アスノは静かに過ごした。
そして、もう一つのニュースは、アスノにとって国王の崩御以上に衝撃だった。
勇者セーラの王家からの追放、および国外への強制退去である。




