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世界征服すれば貴女と再会できますか?  作者: はの


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第14話 現存の勇者

「私は、勇者」

「違う。お前は、セーラじゃない」

「セーラ? ああ、そんな名前だったな」

 

 セーラは、他人の身体に触れるように、自分の腕を撫でながら言う。

 愛しい相手の体を躊躇いなく触るその行いに、アスノの頬は、嬉しさの赤から怒りの赤へと塗り替わる。

 

「お前、誰だ!」

「そのまま返そう。魔王を名乗る、お前は誰だ」

「答えになっていない!」

「……私は、かつて魔王と呼ばれた存在だ」

 

 魔王。

 それは、現在の魔物たちを率いる存在の名であり、アスノが背負っている名前であり、セーラが倒したはずの存在の名である。

 セーラが名乗った魔王がいずれを指すのか、アスノはすぐにわかった。

 

 同時に溢れ出たのは、最悪の想像。

 セーラの体を魔王が奪っている原因。

 即ち、セーラと魔王の戦いの結末はセーラの敗北であり、以降のセーラは魔王に乗っ取られていたという仮説。

 

「まさか、お前……セーラを!」

 

 アスノの仮説が正しいとなれば、アスノが王都で見たセーラも魔王、死者蘇生の法を探していたのも魔王ということになる。

 アスノが魔王になると決意した過去が、汚物で全て汚された気分になった。

 

「勘違いするな。戦いは、勇者の勝利で終わった」

 

 が、その感情を、セーラ自身が否定する。

 否、セーラの中にいる魔王が否定する。

 

「勇者との戦いで、私は確かに死んだ」

「だったら、どうしてセーラの体に!」

「その真意を知る者は、既に体内ない。だが、この体の記憶を掬って知ったことなら、教えることはできる」

「それはなんだ!」

 

 必死なアスノ。

 平然としたセーラ。

 その対極的な表情でのやりとりは、まるで大人と子供のいざこざにしか見えない。

 

「勇者セーラは、私を愛したのだ」

 

 セーラの言葉に、アスノはぽかんと口を開けた。

 愛は、アスノがセーラに向けていた感情の名だ。

 同じ物が、セーラから魔王に向けられていたとなれば、それはアスノにとって受け入れたくない事実だった。

 

「勇者は苦しんでいた。戦うためだけに生まれた、自身の存在に」

「嘘だ」

「そして、私と言う存在を……魔王と言う戦うためだけに生まれた存在を見つけたのだ」

「嘘だ!」

「自身と境遇を同じとする存在に、勇者は仲間意識を覚え、戦いの中でそれは愛情へと変わっていった」

「嘘だ!!」

「事実だ」

 

 アスノはただ、否定の言葉を並べ続けた。

 セーラの本心など、アスノにわかるはずもない。

 しかし、否定を続けることができたのは、自分の欲した未来を守るために他ならない。

 

 自身が魔王となってまでセーラを再び英雄に仕立て上げたアスノという存在に、愛情を抱くセーラという、アスノの夢見た未来を。

 

 アスノの必死の叫びも、セーラの中にいる魔王には届いていなかった。

 冷めた目でアスノを見続け、セーラはただ言葉を続けた。

 

「勇者は、私の亡骸の手を握り、長い間泣き続けた。そして、王都へと戻ってからは、死者蘇生の法を求めた。目的は言うまでもない。私の蘇生だ」

「ああ……。ああ……」

「王都には、あらゆる情報が揃っている。勇者は死者蘇生の法の手がかりを見つけることに成功した」

「セーラ……」

 

 アスノの叫びも長くは続かない。

 セーラの笑顔の裏に苦悩があったとすれば、それに気づくことができなかった自分を恥じた。

 セーラが英雄をやめたがっていたにも関わらず、セーラを再び英雄にしようとした自分を恥じた。

 

 アスノの口は閉じていき、自分の行動が何一つセーラのためになっていたことに気づいて、肩を落とした。

 

「しかし、勇者が死者蘇生の法を求めていることを、当時の第一王子に知られてしまった。第一王子は元々、勇者を好いておらず、勇者の血を王家に入れるために婚姻を受け入れていた。勇者の蛮行は、勇者を追い出すために都合の良い材料として使われた」

「……なんだって?」

 

 空気が変わる。

 セーラの恋愛感情の向きに苦しんでいたアスノは、セーラの一言で苦しみ全てを憎悪へと変えた。

 自分でも、魔王でもなく、第一王子――現国王へ向ける憎悪へ。

 

「勇者は死者蘇生の法を完成させるために、追放される直前に自ら脱走し、その後は魔女の村を目指して彷徨い……ん? どうした?」

「もういい。俺のやることがわかった」

 

 アスノは、視線をセーラからその背後へ、王都へと移した。

 アスノの恨みの対象が現国王へと変わった今、既にセーラと一騎打ちをする必要も、セーラの手で殺される必要もなくなっていた。

 アスノが一歩踏み出すと、セーラが剣を抜いて立ちふさがった。

 

「そこをどけ、魔王。もう、お前に用はない」

「何をする気だ?」

「王都を滅ぼす」

「それは許さぬ」

「……魔王のお前には、人間の国がどうなろうと知ったことじゃないだろ!」

「その通りだ。知ったことではない、しかし、最初に言った通り、私は戦うためだけに生まれた存在だ」

 

 セーラが一歩踏み込み、アスノに向かって剣を振るう。

 アスノは上半身を下げて一振りを躱し、剣を抜き、セーラに向かって振り返す。

 

「なら、王都にいる兵士たちとでも戦っとけよ! どけ!」

「勇者の体に転生したことにより、私には国を守るという本能が増えた。故に今、戦うべき対象は、国を滅ぼさんとするお前だ」

「糞っ!」

 

 何もかも思い通りにならない現実。

 アスノは視線をセーラへと戻し、剣を構えた。

 

「王都へは行かせん。お前は私が止める、魔王よ」

 

 セーラの声が、戦いの始まりを告げた。

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