第12話 過去の勇者
――貴方達の力を貸してください。
アスノの頭の中に、懐かしい声が届いた。
それは、魔女の村を訪れた時の、セーラの声。
――死者蘇生の法を、完成させたいの。
死者蘇生の法は、禁忌である。
本来であれば、協力する人間などいるはずもない。
しかし、ここは魔女の村。
禁忌に手を染めてでも魔法の本質に迫ろうとする、魔法狂いの人間たちの集落。
――私たちは、死者蘇生の法に関与していない。私たちは、お前を村に招いていない。そういうことで、良いな?
――はい!
「やっぱり、来てたんだ」
魔女の村の村長の記憶からセーラの訪問を知ったアスノは、思わず声を弾ませた。
同時に、セーラがいつまでも見つからなかった理由もわかった。
セーラは魔女の村に匿われていた。
魔女の村は、人間の村の中でも異端だ。
禁忌に手を染めることがある一方、世に存在しない魔法を生み出す場所でもある。
国は、その危険性と有用性から、国に危害を与えない限りは干渉を避けているというのが現状だ。
よって、セーラの捜索においても魔女の村を対象外、あるいは形式上の捜索だけで済ませた可能性は高い。
「死者蘇生、本当にやろうとしてたんだ。一体、何を甦らそうとして……あ」
アスノが、さらに深く記憶を辿ろうとすると、突然、魔女の村の村長の頭部がはじけ飛んだ。
鮮血が、周囲を濡らす。
記憶を覗く行為は、対象への負担が大きく、やりすぎればこうなる。
記憶を覗く魔物が恐る恐るアスノの方を向いてきたので、アスノはやれやれといった表情を浮かべて、記憶を覗く魔物の頭を撫でた。
「仕方ない。随分、年を取っていたからね。全員、引き続き人間は殺して。ただし、建物はなるべく壊さないこと」
魔女の村が、地図から消えていく。
魔女が全滅する裏で、アスノは村にあったあらゆる書物と素材を持ち去った。
きっとどこかに、セーラの痕跡が残っていると信じて。
小さな村出身のアスノは、文字を読むという作業に慣れていない。
幸いにも、人間の言葉の読み書きに不自由しない魔物が存在したので、アスノはその魔物たちに解読を進めさせた。
豚の顔の魔物も、その一人である。
「これは、腐ったリンゴを新鮮なリンゴに戻す魔法だな」
「便利だね」
「リンゴしか戻せない上に、すごい悪臭を放つようになるらしい」
「微妙だね」
侵攻をしばらく止めてでも、アスノは読解に明け暮れた。
破壊を楽しんでいた魔物たちは不満がっていたが、現在の魔王が決めたことならばと、我慢していた。
時々、人語を解す魔物が、アスノに進言をしたこともあった。
「我々だけでも、人間の町を襲う許可を」
「駄目。見つかって、狩られるのがオチだよ」
「そんなことはありません! 魔王様はご存じないかもしれませんが、我々の隠密行動は、人間のそれを容易く超えます」
「うん。駄目」
しかし、アスノはにべもなく却下した。
力づくで押さえつけている魔物に、信用などおいていなかった。
「ちっ!」
アスノは舌打ちをしながら去っていく魔物を見て、残された時間の少なさも感じていた。
アスノが魔物を押さえつけることができていたのは、セーラによって大半の魔物が狩られ、魔物全体が弱体化していたからだ。
逆を言えば、アスノが魔王となってから繁殖に励み、数をある程度取り戻した今、魔物たちは着実に力を取り戻していた。
数々の町や村を滅ぼしたという実績を得た今、魔物たちの中に、何故アスノに従い続ける必要があるのか疑問を抱く者も現れた。
「魔王様」
「セーラが見つかったら、俺は魔王を止める。その後は、君が魔王だ」
「!?……はっ」
アスノが魔王であることに疑問を抱くなら、魔物の中から適任を選べばよい。
隣で話を聞いていた豚の頭の魔物に、アスノは将来の魔王の座を約束した。
これで、豚の顔の魔物は、魔物たちの集団が崩壊することを、自分の意思で防ぐだろう。
将来自分のものになる、力を。
「お前たち、解読もすすめろ!」
上機嫌な豚の顔の魔物は、部下たちに指示を下した。
月日が流れる。
僅か一年で、魔物たちは国の三割の土地を掌握した。
国は、周辺諸国との貿易ルートも失っていき、疲弊しきっていた。
明確な打開策もなく、魔物たちの扱いに手を焼いていた。
「……おい、あれ」
「……まさか」
明日に希望を見いだせない王都の人々は、王都の門を潜り抜ける一つの影を見て、目に輝きを取り戻した。
「勇者様!」
「勇者様だ!」
「お願いします! 魔王を、倒してください!」
勇者セーラが、王都に帰還した。




