2 魔竜怪の崩壊
エリナは不敵な笑みを浮かべると、僕らに言った。
「ある程度まで接近できれば、私の霊力で探知できる。それを私の小太刀の技で穿ってみせるよ」
「穿つ――あのチーター女の心臓をくり抜いた技だな」
カサンドラがそうエリナに言った。そうか、エリナはそんな事してたのか。
エリナは微笑む。
「そう。けど、結構近づかないとダメだ。そこまでみんな、頑張ってほしい」
「うん。わたしも白夜の青炎で、みんなをカバーする」
キャルがそう真剣な面持ちをみせた。
と、魔竜怪がひときわ大きな声をあげたかと思うと、いきなり多くの竜が黒炎をまき散らす。狙いなどない、ただ無暗に発射してるだけだ。
「もう、あれには知性はないな……」
「ヒトの子らよ、もう時間がないぞ。あの魔竜怪の暴走自壊は時間の問題だ」
白竜のブリザードが僕らに告げる。僕は頷いた。
「よし、みんな行こう! ――エリナさん、最期の一手、お願いします!」
「任された!」
エリナはにっと笑ってみせる。僕は魔竜怪を睨むと、一気に念力で飛行した。
無数にも思える竜の首が、こちらに反応してる。
黒炎を吐きかけてくるものもいれば、首を伸ばして噛みついて来る竜もいる。
周りの白竜たちが、竜首からの攻撃をかなり迎撃してくれてる。
キャルは僕たちの周囲に白夜の青炎を張りつつ、黒炎を青炎で迎撃する。
カサンドラは火攻域を展開しつつ、鎖剣で竜の首を落とす。
僕は飛行しながら、超振動ソードで向かって来る竜を斬り落としていた。
「クオンくん、右上に向かって!」
「了解!」
僕はエリナの指示通り、右上に飛行する。
「ちょっと一旦、止まって」
空中で制止する。その間も、魔竜怪の首たちはひっきりなしに襲いかかってくる。
それを白竜と僕らは撃退しながら、エリナの探知を待つ。
「……もう少し――あの界隈…。クオンくん、もっと接近して!」
「了解!」
かなり危険だ。けど、行くしかない。
僕は魔竜怪に近づいた。エリナが僕の左後ろで、小太刀を両手に持って構えている。魔竜怪にかなり近づいた時、エリナはそれを振った。
「そこだ! 竜巻念動穿!」
二本の小太刀が一定の感覚を保ったまま、回転して飛んでいく。
その小太刀の竜巻は、一本の竜首の根元に突き刺さった。
その竜巻がそのまま穴を開けて、首を貫通して出てくる。
その二本の小太刀の間に――黒い結晶があった。龍王核だ!
「ギャアオウウウゥゥゥゥッッ!」
無数とも思える全く無軌道に見えた竜首たちが、始めて一斉に悲鳴をあげた。
その竜首が蛙を呑みこんだ蛇のように膨らんでいく。
「龍王核を抜き取ったから、制御が切れた。爆発自壊するぞ! 皆で抑え込め!」
ブリザードの声で、白竜たちが一斉に氷結息吹を魔竜怪に吹きかける。
カサンドラは、僕に言った。
「クオン、首をなるべく切り離すぞ。切り分ければ威力は小さくなる」
「判った」
僕は魔竜怪の蠢く首の間を縫うように飛行した。
そのすれ違いざまに、僕とカサンドラ、エリナは次々と首を斬りおとしていく。
「白夜の青炎!」
キャルは魔竜怪全体を青炎で包み込もうとして、青炎を放出していた。
その青炎の中で、魔竜怪は限界まで膨らんでいる。
「爆発するぞ、距離をとれ!」
ブリザードの声で、白竜たちは飛んで距離をとる。
僕もそこから離れて、魔竜怪を見た。
青炎に包まれた魔竜怪が――爆発する。
けど、その爆発の威力は、白竜たちの凍結と青炎によって拡散を防がれた。
「やった……魔竜怪を――魔龍王グルジオラスを完全に倒したぞ!」
カサンドラの声に、皆が頷いた。僕はさらに続ける。
「後は下にいる魔龍大帝――カリヤだけだ!」
僕は地上を睨んだ。
☈ ☈ ☈ ☈ ☈ ☈ ☈ ☈
突如、上空の一点が光った。と、思うや否や、目の前にいる魔龍大帝が、苦しみだす。
「どうしたっていうんだい?」
イオラが声をあげた。魔龍大帝の身にまとっていた黒炎がしぼみ、消えていく。
「もしや――爆炎波!」
そこにいたスレイルが、巨大な火炎弾を撃ち込む。今までの火炎弾は黒炎に阻まれて本体に着弾できなかったが、今度は魔龍大帝の身体に火炎弾が当たった。
「やっぱり! 上空でクオンくんたちが、魔龍王を倒したんだ! それで『新月の黒炎』の能力が切れた」
スレイルの言葉に、レガルタスが微笑を浮かべる。
「そうか――それなら、ただのデカいモンスターと変わらないって事だな!」
「モンスター退治ね……それって、あたしたちの本領発揮じゃない!」
イオラはそう微笑むと、レガルタスの横に並んで魔龍大帝へと向かっていった。
* * *
別の場所では、アルスロメリアが異変に気付いていた。
「え……? グルジオラス様の気配が――」
巨大な竜の姿で飛行しているアルスロメリアが、さらに上空を見上げている。
「嘘……ウソよ、そんな――」
「どうやら、仲間たちがグルジオラスを倒したようだな。各地から、魔竜大帝の新月の黒炎の効果が無くなったと報告が入っているぞ!」
ランスロットが、上空にいるアルスロメリアに向けて声をあげた。
それを聞くと、アルスロメリアが激怒して黒炎を吐きかける。
ランスロットは慌てて、建物の陰に避難した。
「――こうなったら、お前たちだけでも殺してやる! そしたらあたしは、山中で静かに暮らして、たま~にニンゲンを食い散らかしてやるわ! けど、その前にお前たちだけは、ここで殺す!」
アルスロメリアはランスロットたちの攻撃が届かない上空から、建物ごと破壊して攻撃してくる。
走って逃げ回るランスロットに、ミレニアが言った。
「せめて一瞬でも、動きを止められたら――氷結魔法で翼を凍らせることができると思うんだけど」
「この距離で届くのか?」
「なんとか。けど、動き回ってるから、当てるのが難しい」
ミレニアの言葉に、スーが言った。
「わたくしがミレニアの魔力補てんをしますわ。そうすれば威力は上がり、距離的には届くようになりますわ」
「よし……イチかバチか、それでやってみようぜ。地上に落せたら、オレとランスロットでなんとかする」
ガドがそう声をあげた。
その時、不意に――建物の陰から声があがった。
「……一瞬、動きを止めればいいのか?」
「お前は――」
ランスロットがその陰から現れた人物に、眼を向ける。
それはカリヤの部下の――眼に火のペイントをしたゲイルだった。
「どういうつもりだ? 今さら裏切って、投降しようとでもいうのか?」
ランスロットの言葉に、ゲイルは自嘲するかのように笑った。
「今さら投降なんて気はさらさらねえよ。けど、あの雌竜は――カザンの仇なんだ。オレは、カザンを自爆させたあいつを許さねえ。……それだけよ」
そう言って目を伏せるゲイルを、ランスロットは厳しい表情で見つめている。
が、やがて口を開いた。
「上空のアルスロメリアの動きを止める方法があるのか?」
「……ない、わけでもない」
ゲイルの返事を聞くと、ミレニアがランスロットに声をあげた。
「ちょっと! こいつの言う事を信じるの? 何かの罠だよ、きっと!」
「わたくしも……どうかと思いますわ」
スーがミレニアに賛成する。が、ガドは言った。
「いや、オレはこいつのいう事を信じてもいいと思う。こいつは悪党で信用できないと思うが――カザンとゲイルは、ずっと一緒にいた奴らだったからな」




