第五十七話 第二次魔龍大戦 1 魔竜怪と龍王核
苛立つグルジオラスを前に、氷龍王は冷徹そのものの声色で言った。
「龍王とは世界の理を守る者……お前にはそれが判らないのでしょう。判らぬのも仕方ありません。それはお前が龍王核を奪おうとも、所詮、偽物だからです」
「黙れ、年寄りがあっ!」
グルジオラスが新月の黒炎を吐く。
その業火を見て、いきなり誰かが僕らをコントロールして氷龍王の前まで飛んだ。
キャルの操作だ。キャルが力場魔法で飛んで、氷龍王を襲おうとする黒炎の前に立ちはだかった。
「白夜の青炎!」
キャルが向けた手の先から、白夜の青炎が放射される。黒炎と青炎がぶつかりあい、拮抗している。
そこでキャルが口を開いた。
「ゴメン、みんな――キグノスフィアはわたしに龍王核を預けてるから、白夜の青炎が使えないと思って――」
「キャル・ポッツ――わたしの愛おしい一族の娘よ。お前の優しい思いやり、嬉しく思います。しかし――」
双頭の氷龍王の一つの頭が、その口を開いた。そこから青い炎が放射される。
その青い炎は、新月の黒炎に対抗しているキャルの炎を融合し、黒炎を押し戻していく。火炎を放射してない頭が声をあげる。
「命力を使えば、今のワタシでも白夜の青炎を使うことはできるのです」
「けどキグノスフィア、それでは貴女の命を削ってしまうのでは?」
僕は少し疑問に思って、そう問うた。
キグノスフィアが答える。
「もう既にワタシの命は長いものではありません。それまでに分体を取り戻すことが最も大事なこと。ワタシはそのために此処に来たのです」
キグノスフィアとキャルの融合青炎が、遂にグルジオラスまで到達する。
「グアアオオォォッッ!」
青い炎に全身を包まれたグルジオラスが、唸り声をあげて暴れている。
「グルジオラスに太刀を入れ、その内部に白夜の青炎を打ち込んでください。分体はその事で新たな龍王核を活性化させて目覚めるはずです」
「判りました、キグノスフィア!」
僕らは皆で頷きあった。すると一際大きな眷属の白飛竜が、傍へ飛んでくる。
「グルジオラスに到達するのを、我々も援護する。行け、ヒトの子らよ!」
「ブリザードさん、ありがとう。――よし、行くぞ!」
「「「おう!」」」
僕は念力で最大加速して、一気にグルジオラスへと迫った。
青い炎に包まれているグルジオラスは、それでも爪触手を何本も飛ばしてくる。
しかしその多くの爪触手を、白飛竜たちが防いでくれてる。
何本か僕らに襲いかかったが、それはカサンドラとエリナが斬り払った。
「行くぞ! ――振動ダイナミック!」
僕は超振動ソードを振り上げると、真っ向からグルジオラスの胸に斬り込んだ。
「ウオオオォォォォッッッ!!!」
そのまま一気に腹の方まで切り下る。腹を斬られたグルジオラスが、凄まじい唸り声をあげた。
「今だ、キャル!」
「うん! 白夜の青炎!」
切り裂いたその傷口に、キャルが白夜の青炎を打ち込んだ。
「グオオオオォォォォ――バカな……私の身体が――内部から灼かれるなどと――」
グルジオラスの巨大な躯体の、内部から青い炎が洩れだす。
「ぐっ……うぅぅ――」
呻き声をあげるグルジオラスの胸の部分が一際大きな青い光を放つと、そこから二つの光の球が現れた。
一つは青い光の球。もう一つは白い光の球。
「キグちゃん!」
「マル!」
グルジオラスの体内から現れた氷龍王と海龍王の分体は、光の球の状態でゆっくりと僕らの元へ近づいてきた。
「お……おのれ…氷龍王――おのれ、ニンゲン!」
グルジオラスが、唸り声をあげる。
「分体よ……ワタシの残る生命をあげましょう。これからは――お前が氷龍王です……」
そう言うと、キグノスフィアの巨体が青く光り出す。
と、その青い光が小さくなっていき、人間サイズくらいの青い光球になる。
その青の光球はキグの前まで飛んでくると、キグを包む光球と融合していった。
二つの光球が溶け合うように一つになると、やがてその中から新たな白い龍王が現れた。
「キュウウウゥゥゥ――」
それは人より少し大きなサイズの双頭の白龍だった。
白銀の美しい羽を羽ばたかせ、キャルの元へ飛んでくる。
「キュルルルル――」
二本の龍頭は、甘えるようにキャルのもとに首をすり寄せた。
キャルがその首や頭を撫でながら微笑む。
「キグちゃん――いや、もうキグノスフィアなのかな? 龍王にちゃんと進化したんだね。おめでとう」
「キュルルルルル――」
美しい声で、キグノスフィアは鳴いた。
と、そこにマルの光の球もふわふわと飛んでくる。
「マー」
「マル! よかったな、お前も脱出できたんだな!」
マルが僕の元に飛んできたのを受け止め、僕は言った。
「よし、お前はちょっと収納珠で休んでくれ」
僕がマルを収納珠にしまうと、白竜が僕らの元に飛来してくる。
「クオン、グルジオラスをともに倒そう。それがキグノスフィア様の御遺志だったのでな」
「もちろんだよ、ブリザードさん!」
僕が答えると、その巨大な白竜の顔が微笑んだ。
と、その時、地獄の底から響くような声で、グルジオラスの声が響き渡った。
「グアアガガガガガガアアアアァァァァッッッ――」
様子がおかしい。グルジオラスが内部から生まれる痛みに耐えるかのように、空中で悶え絶叫をあげている。
「一体、どうしたんだ?」
「本来、龍王核は我ら眷属が耐えられるような代物ではない。二体の分体を奪うことで制御していた龍王核が、逆にグルジオラスを内部から喰いつくそうとして暴走している」
白竜のブリザードが、僕らにそう説明した。
と、グルジオラスの首が胴体部に呑みこまれていく。
「や、ヤメロッ! 私を喰うなあぁぁっ!」
だが絶叫も虚しく、グルジオラスの頭は胴体に呑みこまれてしまった。
そのグルジオラスだったものは身体が収縮して球のようになるのかと思いきや、その表面すべてから突起物が出てくる。
その突起物が、いきなり伸びてその全てが頭を持つ長い首となった。
もはやグルジオラスとは呼べないそれは、無数の竜の首でできたボールのようになって、宙に浮かんでいた。
「な……なんだ、あれは――」
「もはや竜でも、普通の生物でもないな……魔竜怪――とでも呼ぶべきか」
ブリザードは恐ろし気な様子を見せながらも、そう呟いた。
「しかし、あの魔竜怪は暴走状態にある。放っておけば、とんでもないことになるだろう」
「暴走? 一体、どうなるの?」
「暴れて破壊の限りを尽くした後――地上の国全体を焦土にするほどの爆発を起こす…と考えられる」
ブリザードの言葉に、僕らは息を呑んだ。
よく判っていた。ドラモグラーの自爆の威力の凄まじさはよく知っている。規模はそれの何百倍と考えれば――
「なんとか止めないと!」
僕は思わず声をあげる。するとエリナが口を開いた。
「あの魔竜怪の中のどれかの首の根元から、凄く強力な霊気を感じる。それが龍王核のある場所だと思う」
「それを奪うか、破壊すれば――魔竜怪の暴走は止まる、という事だな」
カサンドラの言葉に、エリナは頷いた。けど――
「……あんな数の竜の首のどれかって――」
僕は思わず絶句する。が、エリナは眼鏡の奥の眼を、不敵に輝かせてみせた。




