6 氷龍王の到来
そこに現れたのは、元Aランクパーティー『エターナル・ウィスル』の天才魔導士スレイルだった。
スレイルは微笑して、『ワイルド・ウルフ』の面々を見る。
「少し負傷してるようだね――ジージョ!」
「フォッフォッフォ、治癒ですな」
太目のジージョが、身体を揺らしながらやってくる。
と、その横を高速ですり抜けた影が二つある。
「図体でかくたって、アタシには関係ないね!」
そう言いながら駆けていくのは、双刀使いのイオラだ。
イオラは魔龍大帝の膝頭を寸断する。片足が斬られた魔龍大帝の頭が沈む。
と、そこにもう一つの影が急襲した。その屈強な背中は高く跳躍すると、沈んできた魔龍大帝の頭部に回転させた棒の一撃を加えた。
「内撃突!」
眉間に棒の一撃を受けた魔龍大帝が、バン、と弾けて消える。
棒を脇に抱えた男は、地面に着地した。それはエターナル・ウィスルのリーダー、レガルタスだった。
「……手ごたえが薄い。コピーだったのか」
「ってことは、幾らでもこれを生み出せるってこと? 厄介だね」
レガルタスの呟きに、イオラが眉をひそめる。
と、現れたドラモグラーの肩に背後から乗りながら、その首をナイフで掻っ切った隻眼のロンが声をあげた。
「おい! まだこの先に軍隊の負傷者がいるぜ!」
「よし、そっちに向かおう」
レガルタスの声に、エターナル・ウィスルのメンバーが一斉に動く。
スレイルはその去り際に、元Aランクパーティーの戦いぶりに見惚れていたワイルド・ウルフのメンバーに言った。
「この壁は亜次元硬質壁というもので、物理的なものだからあの黒炎を防げる。けど、質量はほとんどないから、力場魔法で操作できるよ。これを使って防御をしながら、なんとか戦いを続けて」
「は……はい…」
そう微笑みながら言うスレイルに、ジェーンは顔を赤らめながら頷く。
「大丈夫、きっと仲間が魔龍王を倒してくれる。そしたらあの魔龍大帝の黒炎は普通に防御できる性質のものになるはずだ。――それまで、持ちこたえて」
「わ、判りました!」
ガイがリーダーらしいところを見せようと、胸を張って答える。
スレイルは一つ微笑むと、頷いて走り去っていった。
その後ろ姿をジェーンがボーッと見つめている。
「スレイル様……」
「あ、あのよ――さっき、オレのことが好き……って、言わなかった?」
ガイが赤くなりながらそう口にするが、ジェーンはそちらを見もせず、両手を組んでいる。
「あれは撤回するわ……」
「「え?」」
「スレイル様、やっぱり素敵! こんな魔法を作るなんて天才だわ!」
ガイとダッカスは顔を見合わせた。
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
爪の生えた触手の猛攻の中を、僕らはなんとか進もうとする。
無数にも思える魔龍王の触手は、縦横無人に襲いかかってきて、僕の飛行だけでは完全に躱しきれない。その躱しきれない触手は、カサンドラとエリナが斬り防ぎ、キャルが燃やしている。
だが、あまりにもキリがなく、魔龍王の懐まで入りきれない。
「ダメだクオンくん、一気に火攻域を白夜の青炎で包んだうえで、ゼロライズと振動体で突っ切ろう!」
――それは多分、今の僕らにできる最大の攻撃法。
逆を言えば、それで通じなければ打つ手がなくなる。
いや、実はそれはいい。通じなくても、その時に新しい方法を考えればいい。
問題はむしろその後だ。
まだカリヤがいる。ここで振動体を使って、反動で動けなくなってしまうと、カリヤを倒すことができなくなる。龍王の身体と八人分の異能を持つカリヤを倒すには、振動体が必要になるはずだ。
けど――
「判った。まずは眼の前の敵を倒そう。僕らの最大の攻撃技――最終ブランケッツ・アタックだ!」
「「「おう!」」」
カサンドラが火攻域を展開する。そしてキャルがその外側に白夜の青炎を展開した瞬間――
「ククク……時間をかけ過ぎよのう」
魔龍王がいきなり、巨大な黒炎弾を地上に向けた放った。
「まずい! 止めなきゃ!」
僕は急降下して黒炎弾を追う。と、僕の横でキャルが声をあげた。
「白夜の青炎!」
白夜の青炎の業火が黒炎弾に襲いかかる。黒炎と青炎の衝突は爆発が起き、なんとか黒炎弾の地上爆撃は阻止できた。
が、次の瞬間、僕らの身体が黒炎に包まれる。
「捕らえたぞ、ハエども!」
魔龍王の黒炎域が、僕らを包みこみ、しかも無数の爪触手が迫っていた。
「しまった!」
黒炎弾は僕らを捕らえるための囮で、その背後から僕らを襲うのが魔龍王の狙いだったんだ。
カサンドラの火攻域が黒炎に焼かれ、僕らの身体が直接黒炎に焼かれる。
「「「「ウワアアァァァッ!」」」」
そこに無数の爪触手が迫っていた。念力で回避行動をしたいが、黒炎がそれを阻んでいる。避けきれない!
「ク――」
爪触手の直撃を覚悟した瞬間――その爪触手の束が、いきなり氷結した。
「え――?」
凄まじい冷凍波が僕らの元に吹いてきて、爪触手を凍らせたのだ。
こんな空中でそんな事ができるのは――
「氷龍王キグノスフィア!」
見ると、向うから氷龍王キグノスフィアの巨大な姿が飛行して接近していた。
白銀の身体に双頭の首。腕はなく鳥に近い白銀の翼を、美しく羽ばたかせながら氷龍王は空を舞っていた。
「ヒトの子たちよ――待たせましたね」
静かな女性の声がする。氷龍王キグノスフィアの声だ。
キャルが白夜の青炎を放出し、僕らを囲む黒炎を払って声をあげた。
「キグノスフィア! 来てくれたのね!」
「あ……あれが、氷龍王キグノスフィア――」
初めてその神秘的な姿を眼にしたカサンドラが、絶句している。
エリナは微笑みながら言った。
「それにしても……美しい姿だねぇ」
キグノスフィアの周りには、多くの白い飛竜が群がっている。
キグノスフィアはその白飛竜に向かって言った。
「お前たちは、地上付近の魔龍の眷属どもを片付けなさい」
「判りました、氷龍王。10体を残して、残りは地上討伐に迎え!」
氷龍王の言葉に応え、一体の白い飛竜が声をあげる。
声で判るが、あれは前に会ったブリザードさんだ。
と、そこに魔龍王が恐ろしく響く声を氷龍王に向けた。
「氷龍王キグノスフィア……こんな処に何をしに来た?」
「暴魔竜グルジオラス――とかいう者ですね。ワタシの分体を返しなさい」
氷龍王は怒りがこもった声でグルジオラスにそう告げる。しかしグルジオラスは、それに反発した。
「私は今や魔龍王だ! お前などに指図されるいわれはない!」
「眷属の身分で随分と思い上がったものですね。あなたは龍王のなんたるかが判ってない」
グルジオラスがその怪異な姿で、氷龍王を睨みつける。
「龍王の何たるか、だと? なんだというのだ!」
「龍王とはこの地上に生きる全ての生物のバランスを保つ調停者のようなもの。人間は時にそのバランスを崩し、自然を破壊し支配しようとする。それを止めるのは龍王の役目ではあるが、人間を滅ぼすとか支配するというのは、我らの役目ではない――あのガイノトラキスだって、そのくらいのことはわきまえていましたよ」
氷龍王の静かな言葉に、グルジオラスは苛立ちをあらわにした。
「古い世代の氷龍王が――知ったような事を!」




