5 新月の黒炎vs白夜の青炎
僕はキャル、エリナ、カサンドラの顔を見て言った。
「みんな、アタック体制になって。上空へ飛ぶ」
「うん!」
キャルが真後ろ、エリナが左、カサンドラが右につく、いつもの体制だ。
そして僕は、全体を軽化して僕の念動力で宙に浮く。
「皇帝陛下、行ってきます」
「頼んだぞ、ブランケッツ」
レオンハルトはそう言って微笑む。隣に立つジュール・ノウは静かに頷いた。
「じゃあ――行くよ!」
僕は一気に加速した。魔龍王グルジオラスは、かなり上空まで昇っている。
すると、その大空全体に響くように、魔龍王の声が轟いた。
「さあ、人間ども! 龍王の罰を受けよ!」
そう声が上がった刹那、上空からとてつもなく巨大な黒炎弾が振って来る。直径50mほどもあるに違いなかった。
その時、キャルが僕の肩越しに右手を伸ばした。
「白夜の青炎!」
キャルの掌から青い業火が放射される。それは振ってきた巨大な黒炎と同等の巨大な火炎放射だった。
青い炎が黒炎弾を衝突し、凄まじい爆発を起こす。
軽い僕らは爆風に吹き飛ばされるが、僕は慌てて念動力でそこに留まった。
「――なに? 何者か……我の新月の黒炎をかき消しただと――?」
訝る魔龍王の声の元に、僕らは雲をかき分けて上昇した。
「エリナさん、ゼロライズだ!」
「任せて!」
上昇飛行する僕らの姿が消える。
僕は見えないながらも、超振動ソードを構えた。
「みんな、一気に行くよ!」
「「「おう!」」」
見えない姿のまま、僕らは魔龍王に急接近した。魔龍王は気づいてない。
僕は超振動ソードを振り上げた。
「ウリャアァァッ!」
僕は咆哮をあげながら魔龍王の腹を斬り上げる。そのまま肩に斬り込んで、その翼を斬り割った。右の翼が切り離される。
「な――なんだとっ!?」
驚く魔龍王の顔に、その顎からカサンドラの炎の鎖剣が貫く。
さらにその右目に、エリナの小太刀が回転しながら突き刺さった。
「くぅっ――グオオォォ……」
「白夜の青炎!」
さらに魔龍王の巨大な顔全体を、キャルの青い炎が包み込んだ。
これで決まるか――しかし、次の瞬間、魔龍王が凄まじい声で咆哮をあげた。
突然、魔龍王が全身から黒炎を放射する。その業火の勢いに、僕らは吹き飛ばされた。
「うわぁっっ!」
僕は念動力で、なんとか空中に留まる。
見ると、カサンドラが僕らの周囲に展開していた火攻域が燃えていた。
新月の黒炎は、カサンドラの火攻域を燃やし尽くした。
「なんて炎だ。けど、カサンドラが火攻域を展開してたおかげで、命拾いした」
「しかし……これでは奴に近づけんぞ」
カサンドラが口にする。ふと気づいたが、エリナのゼロライズが解けていた。
見ると、グルジオラスが自らの腕を翼に変えて空中で羽ばたいている。
「地上に落ちれば、もっと多くの人の力を借りられたのに――」
しぶとい奴だ。僕は思わず声を洩らした。
と、魔龍王グルジオラスが、セロライズが解けた僕らを直視する。
「貴様らか……皇帝を放り出してきたのか?」
「皇帝にはジュール様がついてるんだから、これ以上、手出しはできないわ!」
グルジオラスに、エリナが言い返す。
不意に、キャルが口を開いた。
「あなた……キグちゃんとマルちゃんを食べたの?」
「――分体のことか。フフ……喰った――というのは正確な表現ではないな。我が身に吸収はしているが、二体とも龍王の分体、そう簡単に殺すことはできぬ。しかしその力を我が利用できるように、体内に封じ込め力を吸収し続けている――と、言ったところか」
グルジオラスの言葉を聴いて、キャルは息をついた。
「まだ生きてるんだね……」
「二体を助けよう。何か――方法があるはずだ」
グルジオラスが鼻で笑う。
「お前たちにそんな機会などない。この二体は我が養分として、いずれ完全に吸収する」
「――カサンドラの火攻域を包むように、白夜の青炎を展開できる?」
僕はカサンドラとキャルに訊いてみる。
「やってみるよ」
「うむ――火攻域!」
カサンドラが展開した火攻域の外側を、青い炎が包み込む。
「よし、これで新月の黒炎の中に突っ込めるはずだ。エリナさん、ゼロライズ!」
「承知ぃ!」
さらに僕らの姿は消え、僕は魔龍王を包む黒炎のフィールドに突進した。
魔龍王の残った左の翼が、突然、弾ける。それは多くの触手へと変貌していた。
僕らは黒炎の中を突き進む。が、その僕らを狙って、触手が伸びて襲い掛かってきた。
僕は飛行しながら、それを躱す。
が、正確に狙ってくる沢山の触手に阻まれて、魔龍王に近づけない。
「どういう事だ!? 奴が正確にこっち狙って来る」
カサンドラが声をあげた。と、グルジオラスが笑い声をあげる。
「ククク……黒炎の中は触覚がある。つまり触れているのも同然だ。たとえ見えずとも、触ってるものを攻撃するなど造作もないこと」
「残念だけど、ゼロライズの意味がないってことだね」
エリナが悔しそうに呟いて、ゼロライズを解除した。
「お前たちがこうして、まごまごしてる間に、魔龍大帝は帝都を焦土に変えてしまうぞ? そしてさっきは防がれたが――」
魔龍王の口もとに、黒い粒子が集中しだす。
「もう一度、降伏勧告をする。いいか、何処かに最大級の黒炎が墜ちるぞ。そこは一瞬で全てが焼かれる焦土と化すだろう。降伏せよ、皇帝レオンハルト!」
魔龍王グルジオラスは、完全に勝利を確信した声を天空中に轟かせた。
△ △ △ △ △ △ △ △
地上にいた冒険者『ワイルド・ウルフ』のメンバーは、ドラモグラーと交戦していた。リーダーの剣士、ガイがドラモグラーを切り捨てて息をつく。
そこに戦士のダッカスが現れて、ガイに言った。
「おい、まずいぜ! あのデカブツが、また黒炎を吐いて来るぞ!」
「ヤバいって!」
そう声を上げたのは、女魔導士のジェーンだ。『ワイルド・ウルフ』はBランクパーティーで、帝都を竜軍団が襲撃するという発表を聴いて、避難より残留を決めたパーティーだった。
「やっぱり、こんなお金にならないこと、止めとけばよかったって!」
「何を言うんだ。俺たちの街だぞ! 俺たちが守らなくて、どうする!」
「そんな事言っても飛竜ははるか上だし、あの魔龍大帝とかいうデカブツなんて倒せる気がしないぞ」
そんな事を言い合ってる間に、体高30mはある魔龍大帝がパーティーを見つけた。巨大な眼が、こちらを睨んでいる。
「ね……ヤバくない? 見つかったぽいけど……」
「あいつの黒炎の残り火をさっき少し喰らったが――あの黒炎、気力も魔力も燃やしてしまうぞ。防御しきれない!」
ジェーンとダッカスの言葉をきき、冷や汗を垂らしながらガイが言った。
「に、逃げるぞ!」
そう言ってパーティーは背を向けて猛ダッシュする。しかし上空の魔龍大帝は、その逃げるパーティー目がけて、新月の黒炎を吐いた。
「もうダメだ!」
「最期に言うけど、あたしガイのことが好き!」
「「え?」」
パーティーは脚を止めて、互いを見る。そこに容赦なく黒炎が降り注いだ。
――と思われたが、何か薄黒い壁が黒炎を防御している。
「――ふう、危ないところだったね」




