3 ゲイルとアルスロメリアの結末
ガドの言葉に、ミレニアが口を開いた。
「ガド、昔からって――ゲイルとカザンの知り合いだったの?」
「オレだけじゃない、ランスロットもだ。まだオレたちが駆け出しの冒険者だった頃、一緒にクエストもやった」
ガドの言葉に、スーは細い眼を開いて驚いた顔をみせた。
「そうだったんですの……?」
「ガドと俺が組む前だ。冒険者数人を募って、シンオク地区のアーマードグリズリーを駆除するクエストがあった。その参加者にガドも、そしてゲイルとカザンもいた。ゲイルとカザンは、もうその頃、コンビだった。新人の中では仕事が早く、注目されてるコンビだった」
ランスロットがそう言うと、ゲイルは苦笑した。
「そんな頃もあったな――昔の話だ」
「俺はそのクエストの中で、一際、パワーがあって勇気のあったガドに声をかけて、その後も一緒に仕事をするようになった。ゲイルとカザンは、新人の面倒見もよく、俺たちも最初は冒険に備えての色んなことを教わった」
ランスロットの言葉に、ミレニアは驚いた顔を見せる。
「え!? ゲイルとカザンが、ランスロットたちの先輩?」
「そうだ。だが俺たちがクエストを勧めてランク上昇していく中で――段々、カザンとゲイルが新人いびりや、新人たかりをしているという噂を聴くようになった……俺はまさか、と思っていたが――」
ランスロットの言葉に、ゲイルは苦笑した。
「まさかじゃねよ、そのままさ。……オレたちは気づいちまったんだよ。オレたちには才能がねえってな。ランスロットやガドも含めて、他の新人たちは、どんどんオレたちを追い越していく。だがオレたちは成長できず――光りそうな奴が出ると、新人のうちにたかって、その日の酒代を稼ぐ……そんな風になっちまったのさ」
ゲイルは苦笑したが、その表情には懐かしさを惜しむものがあった。
「自分たちが、どうしようもない奴だってのは判ってたさ……けど、カザンと一緒にその日の酒を飲んでりゃあ――それでよかったんだ。そんな矢先、なよっとしたガキが女二人を連れて現れやがった。気にいらなくて、たかりにいった。が、それが間違いだったよ……」
「それが、クオンだったのね」
ミレニアは納得したように言った。だが、ランスロットはゲイルに、真剣な面持ちを向ける。
「ゲイル……どうしてカリヤなんかの仲間になった?」
「おい! それ以上は言いっこなしだぜ。言っとくがな、オレもカザンもカリヤの下についたのは後悔しちゃいねえ。努力しないオレたちも強くなってハバをきかせられるようになったし、それなりにいい目も見させてもらった――ただよ、竜とかに従ったのは間違いだったぜ……。特に、オレはあの雌竜を許しちゃいねえ」
ゲイルは凄みのある目つきで、ランスロットを見つめ返す。
「いいか。お前らを助けるつもりも慣れあうつもりもねえ。オレがチャンスを作ってお前らがあの雌竜を片付けたら、オレはそのまま姿を消す。お前らに捕まるつもりはねえ」
ゲイルはそう言うと、ランスロットに凄んでみせた。
「どうするんだ? オレは別にこのまま逃げてもいい。お前らやこの街がどうなろろうと知ったことじゃない。だが、あの雌竜を殺るってんなら協力する――それだけの話だ!」
「……いいだろう。ゲイル、お前の協力を得よう。しかしその後、お前が逃亡したとしても――俺たちは必ずお前を捕まえてみせる。俺たちは警察だからな」
ランスロットの言葉を聴くと、ゲイルは不敵に笑ってみせた。
「お前らに捕まるほどグズじゃないぜ。――よし、じゃああの背の高い建物の屋上に、雌竜を誘い出す。ホントに止められるのは一瞬だ。……機会を逃すなよ」
「判った」
ゲイルは微笑を浮かべたまま、煉瓦造りの集合住宅に向かって走り出す。
ランスロットたちも頷いて、それぞれの配置へと移動した。
「クソ! あのハエども! 何処に隠れたんだ、忌々しい!」
上空を飛行していたアルスロメリアは、地上にランスロットたちが見つけられずに苛々していた。と、その時、声がする。
「おい! アルスロメリア!」
それは、集合住宅の屋上に出てきたゲイルであった。
ゲイルは、空中のアルスロメリアに呼びかける。
「アルスロメリア、お前に話がある!」
「あたしに――? お前、何を考えている?」
「実はグルジオラス様から、『万が一、自分が倒されたら、アルスロメリアに渡してほしいものがある』――と言われて、預かってるものがあるんだ!」
ゲイルは大声で、上空の黒い飛竜であるアルスロメリアにそう呼びかけた。
その話を聞いたアルスロメリアが、表情を変える。
「グルジオラス様が? あたしに――? 一体、なんだってんだい!?」
「オレには正体がよく判らん。とにかく、お前に渡すように言われてるんだ! それが逆転のチャンスかもしれない!」
ゲイルの呼びかけに、アルスロメリアはにんまりと微笑んだ。
「グルジオラス様が、カリヤじゃなくあたしに託したもの――フフフ……まさか、龍王核を呼び寄せるアイテムとかね……。あるいは、死んだように見えるグルジオラス様を甦らせるアイテムとか――」
「おい! いらないのか!? いらないなら、オレはカリヤにこれを渡す!」
「待ちな! 今、取りに降りる!」
アルスロメリアが、集合住宅の近くまで下降してきた。その屋上に立つゲイルの、目と鼻の先まで巨大な顔を寄せる。
「さあ、グルジオラス様から預かったものを渡しな!」
「ああ……今、渡すぜ――引導をな!」
そう言った瞬間、ゲイルの眼が光る。キングバイパーの魔能『邪視』であった。
「な――なにしやがるんだ、このクソ虫があぁっ!」
アルスロメリアが突然のことに怒号をあげる。が、その刹那、通りの陰から氷結寒波が吹雪いてきた。
「大凍結烈風砲!」
その凄まじい凍結魔法は、アルスロメリアの片翼を狙って来る。
「く…躱さなけ――う、動けない!」
キングバイパーの邪視が効いて、一瞬、アルスロメリアは動けなかった。
その一瞬を突いて、凍結波がアルスロメリアの片翼を凍らせる。
「バ、馬鹿な――」
羽ばたくことができないアルスロメリアの身体が、空中でぐらりと傾く。
その瞬間、建物の陰から音もなく飛び出してきた稲妻が、アルスロメリアのもう一方の翼を断ち切った。
「ブリッツ・アタック!」
突如として姿を現したのはランスロットだった。
両翼を封じられたアルスロメリアの身体が――地上へ落ちる。
その時、屋上のゲイルがアルスロメリアを追って屋上から飛び降りた。
ゲイルは蛇刃の矛を逆手に持って降下していく。
「カザンの仇だ! これでも喰らえッ!!」
蛇刃の矛が、アルスロメリアの眉間に突き刺さった。
しかしアルスロメリアは眉間に矛を刺されたまま、両目でゲイルを睨みつけた。
「貴様ァ……この裏切り者が! お前の邪視など、いつまでも効くかァッ!」
アルスロメリアは、顔の前で鋭い爪が伸びた腕を振る。
その長い爪がゲイルの腹を斬り裂き、ゲイルの上半身と下半身が分かれて地上に落下していく。
「ゲイル!」
地上にいたガドが叫ぶ。
アルスロメリアは身体を震わせた。
「翼など、すぐに再生してやるわ!」
「そうはさせないよ! ――大凍結烈風砲!」
別の建物の陰から、凄まじい勢いの凍結魔法が吹いてくる。
斬られた翼の切り口が凍り付き、再生が不可能になった。
「なんだって――? この……」
アルスロメリアは魔法の発射場所を探す。
そこには膝立ちで魔法を発射するミレニアと、その後ろで立って支援と回復をするスーの合体技の姿があった。
「この…小娘どもがぁっ!」
アルスロメリアは尾を振って、物理的にミレニアとスーを攻撃しようとした。
しかし、その尾を掴まれる。
「なに――あたしの尾を掴んでるだと?」
「悪ぃな……好きにはさせないぜ」
アルスロメリアの巨大な尾を掴んで離さないのは、ガドだった。
と、ガドの身体が黄金に輝きだす。
「気光体!」
「ニンゲンごときが――超級眷属のあたしに力勝負するなんて、ありえないんだよっ!」
「い~や……ありえるかもな」
黄金に光るガドは、そう不敵に笑うと、巨大な尾をがっしりと掴んだ。
「ウオオリャアァァッ!」




