3 魔龍大帝
カリヤは地上に降りたち竜鬼人の姿に戻ると、クオンに言った。
「クオン、てめぇはこの世界の人間じゃねえ。お前はあの猫耳とよろしくやってりゃ、それで満足だろうが。どうしてこの世界の皇帝だとかを守ろうとしてる? 俺たちを、この世界に無理やり召喚したのは、その皇帝の家臣だぜ!」
カリヤはそう言って、皇帝レオンハルトを指さした。
「お前がこの国に義理を尽くす必要なんざ、ねえだろうが? 俺は別にお前をどうこうするつもりはねえ。お前が手を引くなら、俺が皇帝を倒して魔龍大帝になった時には、お前を優遇してやる。どんな贅沢を言っても構わない。お前の好きにさせてやる……どうだ?」
カリヤはそう言って、薄笑いを浮かべた。
クオンはそのカリヤを静かに見つめている。
「カリヤ……僕はこの世界に愛する人ができた。信頼できる仲間や友人もできた……。元の世界では――僕は世界を憎んでいた。世界は敵だった」
クオンはそう言って、自嘲気味の苦笑を浮かべた。
「けど、この世界に大事な人が――大切な人たちができた。僕はこの世界を愛してる。みんな……守りたい人たちだ。お前は――相変わらず、世界を憎んだままか、カリヤ?」
クオンは静かな瞳で、カリヤを見つめた。
カリヤもクオンを見つめ返している。――が、カリヤは笑い声を上げ始めた。
「ククク……愛だとよ! てめぇの甘ちゃんぶりには、ホントにヘドが出るぜ! けど安心したぜクオン……てめぇは俺に勝つことはできねえ。何故なら――」
突如、カリヤの姿が消える。
「――俺はそのお前の愛する世界を人質にとるからな!」
上空でカリヤの声がして、クオンたちは上空を見上げた。
上空では竜鬼人と化したカリヤが、遠方に眼をやっている。
「クク……どうやら飛竜軍団も帝都に到着したようだ。いいか、クオン。これから、てめぇの愛する街を、人々を破壊し蹂躙する。お前は泣いてすがって降伏するしかない。――俺に従え、クオン!」
カリヤの声が轟く中、カリヤの姿が八人に分裂する。
と、さらにそのカリヤを追うように、魔龍王グルジオラスが上空へと駆け登っていった。
「皇帝レオンハルト! 今から上空より、私が最大級の『新月の黒炎』を帝都にぶつける。一部の能力ある者たちは生き残るだろう。だが! 大半の一般市民は全員、焼け死ぬことになる。―――降伏せよ、レオンハルト! さもなくば、帝都民は全滅だ!」
そう声を響かせて、魔龍王ははるか上空へと駆けあがっていく。
クオンも上昇して魔龍王を追いかけようとした。
「そんなことをさせるか!」
「おっと、魔龍王を追うつもりなら――俺は皇帝と眼鏡女を殺す」
上空へ飛ぼうとしたクオンに、カリヤがそう声をかける。
クオンは踏みとどまり、激しい憎悪の眼をカリヤに向けた。
「貴様――本当に人間の心を捨てたのか、カリヤ!」
「ニンゲンねぇ……前にも言ったが、もう人間の時代じゃねえんだよ」
そう言うと、八人のカリヤの姿が次々といなくなる。
最後に残ったカリヤは、竜鬼人のその口に薄笑いを浮かべた。
「俺が魔龍大帝である真の証を見な」
そう言ったカリヤの姿が黒炎に包まれ、その身体が巨大化していく。
「こ……れは――」
驚愕するクオンの前で、カリヤの姿は完全な黒竜と化した。
その体高は魔龍王とほぼ同じ30mもある巨体で、黒い肌に金色の紋様が浮かんでいる。
その怪異な威容が、帝都の街に八体――巨大なビルのように聳え立っていた。
「ククク……どうだ――この姿こそ魔龍大帝と呼ばれるにふさわしいだろ? さて、竜軍団も到着し、ドラモグラーも暴れ出す頃さ」
眼の前のカリヤが化した魔龍大帝が、そう含み笑いをする。
と、街のあちこちから火と煙――そして悲鳴が上がった。
「カリヤ! 貴様!」
クオンは超振動ソードを翻して、魔龍大帝に斬りつけようとした。
が、その背中から黒い爪つきの触手が何本も伸びてきて、クオンに襲いかかる。
「くっ、この!」
その触手を斬り払おうとするが、その黒い爪は斬れず、クオンの超振動ソードを受け止める。
「その黒い爪は一本一本が黒炎剣と同じ性質だ。お前のその光る刀も受け止める」
「カリヤ――」
歯噛みをしたクオンは、街の異変に気付いて周囲を見回した。
黒い飛竜が大群で飛び交い、黒炎弾を地上に吐いている。それを迎撃しようとする帝国の飛竜軍団は、あまりにも数が少ない。
そして八体の魔龍大帝は、その巨大な口を開き、街に向かって黒炎を放射した。
「やめろぉっ!」
魔導障壁を張るが、それが燃やされて負傷する魔導士たちが見える。
絢爛を誇った帝都の街が――炎を上げて燃えていた。
「クックック……いいザマだぜ。さあ、皇帝さんよ、降伏しねえと、帝都の住民が全滅しちまうぜ?」
「カリヤぁっっっ!!!」
激昂したクオンが、猛スピードで魔龍大帝に斬りかかる。
その突進してくる爪触手を、クオンは回転飛行しながら斬り払う。
触手の迎撃網を抜けたクオンは、魔龍大帝の顔面に超振動ソードを斬り落とした。
巨大な魔龍大帝の顔面が半分に斬られ、クオンはそのまま超振動ソードで身体も斬り割っていく。
その切り抜けが終わった瞬間、魔龍大帝の姿がパン、と弾けた。
「そいつはコピーさ!」
突然、クオンの背後から声がして、魔龍大帝が自身の巨大な爪でクオンを攻撃していた。飛行して躱そうとするが、避けきれない。
「――ぐわあぁぁぁっ!」
クオンの身体に爪があたり、その身体が凄まじい速度で吹っ飛ばされる。
クオンの身体は街の建物に突っ込み、壁を大きく破壊して瓦礫に埋まった。
「クオンくん!」
一部始終を見ていたエリナが、ベランダ際まで出てきて地上を覗き込む。
と、その瓦礫が突如、魔龍大帝に向かって飛来し、魔龍大帝はそれを触手ではたき落とした。
その破壊された建物の中から、クオンが空中へ飛び出してくる。
「フン……身体を硬化させて防いだか」
クオンは超振動ソードを構えながら、カリヤを睨む。
が、魔龍大帝は怪異な顔でせせら笑った。
「いいか、お前はコピーを倒せるかもしれねえが、それを倒した瞬間に俺は別のコピーを瞬間移動で送り込む、魔龍王を追いたければ追いな。その間に、俺は皇帝と眼鏡女を殺す。……どうだ? お前にうつ手があるか?」
クオンはぎり、と歯噛みをした。
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「――くそっ! 上空の黒飛竜の数はとんでもねえし、地上ではドラモグラーが暴れ始めてる。どうしたらいいんだ!」
ドラモグラー二体に、バトルアックスをお見舞いした後に、ガドはそうランスロットに向かって声をあげた。
「上空の黒飛竜はミレニアたちに任せるしかない。俺たちは櫓を死守するんだ」
ランスロットが稲妻の速度でドラモグラー四体を切り倒すと、ガドに向かって言った。スーがその声に、不安げな顔を見せる。
「けれどこれでは……こちらが消耗してしまいますわ」
「――ランスロット!」
その時、櫓の上のミレニアから声が上がった。
「どうした、ミレニア!」
「……なんか――とんでもない化物が…数体も現れたんだけど……」
ミレニアの声が恐怖に震えている。ランスロットはタンタン、と驚く跳躍で櫓の上まで駆け上った。そして周囲を見回す。
「なんだ……あれは――」
ランスロットは絶句した。皇宮に現れた魔龍王以外に、それに匹敵する大きさの黒竜が八体も街のあちこちに現れている。
「あれも眷属……なのか?」
「――違うわよ」
突如、上空からかけられた声に、ランスロットは上を見上げた。
そこには妖艶な美女の姿――凶魔竜アルスロメリアの姿があった。
「やっと見つけたわ……ハンサムな剣士」




