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2 皇帝vsカリヤ


 魔龍王が、その全身に黒炎を立ちのぼらせる。すると遠距離の気力攻撃が、その身体に届く前に燃やし尽くされるようになった。


「直接攻撃に転換!」


 副隊長のラッドがそう号令をかける。向かっていく隊員たちを攻撃しようと魔龍王がその巨大な腕を振るが、その腕が隊員たちに当たることはない。

 逆に、その腕を狙って、隊員たちの攻撃が決まっていく。


「クゥゥッ! このうるさいハエが!」


 魔龍王が咆哮をあげる。その傷は回復していくが、ダメージを与えたことは間違いない。


 一方、帝都軍総司令『暴風双剣』リベリオン・クルーガーは、竜鬼人カリヤを追い詰めていた。

 しかし、次の瞬間、カリヤの姿が八人に分裂する。


「なに……」

「八人がかりでやらせてもらうぜ」


 八人のカリヤが一斉に襲い掛かる。が、リベリオンの疾風のような剣技は、それに怯むことがない。

 一人、また一人とカリヤが双剣に消されていく。そして最後の一人を、リベリオンは追いつめた。


「十字嵐!」


 低い気合とともに、リベリオンが×の字に双剣を振り上げる。

 その双剣の閃きに、カリヤは持っていた剣ごと腕を跳ね上げられ、その黒い身体に×の光線が刻まれた。


「ぐあぁっ!」


 斬られたカリヤが呻いて、顔を上げる。が、次の瞬間、その場にいた全ての者が、違和感を感じた。――その時空が歪む。


「なに――」


 双剣を振り抜く必殺剣の構えに入ったリベリオンを、カリヤの口から吐いた黒炎が襲う。


「ムッ」


 構えを防御に変えたところを、カリヤの黒炎剣がその腹に突き出された。


「ぐぅっ……」


 その黒炎剣が、リベリオンの腹に突き刺さる。黒炎剣はそのまま、リベリオンの命力を吸収していた。


「リベリオン! ――いかんな、奴の異能か」


 レオンハルトが掌を向けて、リベリオンを力場魔法で後退させる。

 黒炎剣から逃れたリベリオンだが、カリヤはそこに襲い掛かった。

 が、カリヤの一撃を、割って入ったレオンハルトが受け止める。


「なるほど……そうやって皇宮警護隊を倒していったのだな」

「ハン、お前もここで死にな!」


 そう言ったカリヤの口から至近距離の黒炎が吐き出される。

 レオンハルトは横に躱すが、そこにまだ黒炎放射が襲う。


「ムッ――」


 その黒炎を切り裂いたレオンハルトだったが、突如、その位置が変わる。


「なに!?」


 驚く間もなく、レオンハルトの背後から黒炎が浴びせられた。

 位置入れ替えでカリヤの一人と位置を入れ替えたところを狙われたのだった。


「ぐあぁっ!」


 黒炎に包まれたレオンハルトが低く呻く。


「むうぅっ!」


 レオンハルトが全身から炎を発散して、黒炎を消す。しかしダメージがあり、レオンハルトはその場で膝をついた。

 

「これが『新月の黒炎』か……そして異能…厄介な――」

「ハン、死ね!」


 動きを止めたレオンハルトに、カリヤが剣を振り上げた。

その瞬間だった。


「――なにいぃぃぃっ!」


カリヤの黒炎を持った右腕が宙を舞っている。

その腕が斬られていた。だが、斬った者は何処にもいない。


 右腕を斬られたカリヤの姿が、竜鬼人から人間に戻る。そして八人の分身が一気に消えた。マスクの中で、カリヤは雄叫びをあげる。


「そこかぁぁぁぁっっ!」


 残った左腕で凄まじい黒炎を放射すると、霊式結界を張ったエリナの姿が黒炎の形であらわになる。黒炎はその結界を燃やし尽くし、エリナの身体を焼こうとしていた。


 しかし次の瞬間、エリナは自分が凄い勢いで押されるのを感じた。

 そこにレオンハルトが割って入っていた。


「レオ様!」


 レオンハルトの身体が黒炎に焼かれる。

 が、すぐに火炎放散で自らの黒炎を消した。が、レオンハルトはそのダメージに膝をつく。


 その隙にカリヤは、力場魔法で自分の右腕を引き寄せた。

 左手で飛んできた自分の右腕をキャッチすると、元の切り口に戻す。


「む……」


 竜の再生力で、切れた腕がくっついていく。カリヤは息をついた。


「チッ……俺の本体を見破るとは――油断ならねえ女だぜ」


 カリヤが呟いた時、エリナは負傷したレオンハルトの傍に駆け寄っていた。


「レオ様! 私のために――」

「フフ……どうだ、惚れ直したであろう?」


 レオンハルトは笑ってみせる。しかしダメージがあるのは、エリナの眼から見ても明らかだった。


「――ぐああぁぁっ!」


 その時、魔龍王に向かっていった隊員たちが、次々と吹き飛ばされて転がってきた。皆、負傷している。


「……陛下――申し訳…ありません――」


 副隊長のラッドが悔しそうに呻く。

 既に倒れたリベリオンは大聖女メルクルディアが治癒を始めていたが、皇宮警護隊も含め、全員負傷者になってしまった。


「ハハッ! ざまあねえな! 皇帝直属の部隊とか言ったところで、魔龍王に勝てるわけがねえ!」

「私を甘くみた罰だ。ここで全員、死んでもらおう」


 魔龍王が愉快気にそう言い放ち、その巨大な口を開く。

 黒い粒子が口の前に収束していき、最大級の黒炎の発射準備が整った。


「――ウオオオォォォォッ!」


 しかしその時、雄叫びをあげて空中から飛来してきた者が、魔龍王の首を切り抜ける。

 その者は一陣の風のようにエリナと皇帝の前に降り立つ。

 それは見るからに巨大な、白く光る刀を持った少年だった。


「――クオンくん!」


 眼鏡の奥の眼をうるませながら、エリナが声をあげる。

 クオンは顔を上げた。


「大丈夫でしたか、エリナさん、皇帝陛下」


 クオンは僅かに微笑した。

 が、すぐに顔を引き締めて、魔龍王グルジオラスを振り返る。


「くそ……首が太過ぎて、この超振動ソードでも斬り飛ばせなかった」


 クオンが悔し気に呟く中、魔龍王が悲鳴をあげていた。


「く――首が斬られた! 傷が再生しない!」

「落ち着け、グルジオラス! 俺が奴のつけた傷を抉る!」


 竜鬼人のカリヤは宙へ舞うと、黒炎剣で魔龍王の傷口を切り取るように、二度その剣を振った。ボトリと巨大な肉の塊が墜ちて、黒炎で焼失する。


「グアアァァッ――い、痛い! この私が痛みを感じるだと! ……許せぬ、許せぬぞ、この虫ケラが!」


 カリヤのつけた傷によって、逆にその傷口を再生させた魔龍王が、大声をあげた。

 が、それに怯むことなく、クオンは魔龍王を睨む。


「その虫ケラの力を――受けてみることだな、魔龍王! ここで決着をつけてやる」

 

 そう言った瞬間、クオンの全身が光を放った。振動体である。

 しかしそれを見たカリヤが声をあげた。


「待ちな! ……クオン、てめぇ、どうして俺たちの邪魔をする?」


 クオンは振動体を解いて、カリヤを睨んだ。


「何が言いたいんだ、カリヤ?」


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