第五十六話 皇宮での戦い 1 帝都軍特別部隊『疾風怒濤』
竜怪人と化したアルスロメリアの黒炎は、全て皇帝の掌の前にある黒い球に吸収された。
「バ……バカな! 超級眷属であるあたしの黒炎を吸収だと!?」
「消失点――次に消えるのはお前だ」
その黒い球がゆっくりとアルスロメリアに近づいていく。
「く、来るんじゃないよ!」
アルスロメリアが黒炎を吐く。が、黒い球の前で渦を描くように収縮すると、その黒い球に吸収されていった。
黒い球は静かに――不気味にアルスロメリアに接近していく。
「く――こ、こんな処で!」
突如、その身体が光り出すと、アルスロメリアの身体が巨大化していった。
その巨大化した身体は、天井を突き破り破壊する。
破壊された瓦礫が、黒い球にどんどんと吸い込まれていき、さらにアルスロメリアは黒炎を吐きかけた。さすがの消失点魔法もそれで消える。
アルスロメリアは20mもの巨体になり、そこで凄まじい咆哮をあげた。
そして壁に向かい、黒炎を吐き出す。黒炎の勢いで、壁が破壊され外の空間が見える。
アルスロメリアは翼を広げると、外に飛び出して行った。
と、その瞬間、建物全体を揺らすような衝撃が走る。エリナが眼を開く。
「こ、これは……」
「我々も戻ろう。恐らく――魔龍王が到着する頃だ」
レオンハルトはそう言うと、目の前にホールを展開した。
二人はホールに入っていく。
「こ――これって……」
皇宮の屋上広場に出た二人は、そこで驚きに眼を見張った。
大勢の警護隊と、ゴライアスが倒れている。
その踊り場に見えているのは――巨大な魔龍王グルジオラスの顔。
そして、その屋上広場に立っているのは――
黒い鬼のような姿をした怪人だった。
「何者……?」
エリナが呟きを洩らす。と、それに応えるように、黒鬼がその姿を戻した。
「カリヤ!」
そこに立っていたのは、黒マスク姿のカリヤだった。
カリヤが口を開く。
「ハン、帝国の精鋭とか言っていたが――大したことはねえな」
「お前がブラック・ダイヤモンドとかいう犯罪組織の首領、カリヤ・ダイヤモンドだな?」
レオンハルトが、カリヤにそう口を開いた。
「皇帝レオンハルトか……偉そうだな。一介の傭兵だった奴がよ」
「フフ……」
レオンハルトは目を伏せて、笑みを洩らした。カリヤが眼を細める。
「何がおかしい?」
「……いや、野心と欲望に満ちた眼だと思ってな。余にもそんな頃があったかもと思ったが――」
「もう、昔の話か? 年寄りは引退しな」
レオンハルトはカリヤを睨みつけた。
「俺は神聖帝国の重圧が許せなくなり、最終的に独立戦争を起こした。別に俺が皇帝だとかになろうと思った訳じゃない……。金にしろ女にしろ権力にしろ、手に入れようと思えば、手に入れることはできた。皇帝になったのは――人間の自由を実現するためだった……そう思い出したのだ」
レオンハルトはそう言うと、後ろにいる大聖女メルクルディアに声をかけた。
「負傷者を治してくれ、メルクルディア」
「判りました。――範囲治癒!」
メルクルディアが両手を広げると、その身体から高貴な輝きがあふれ出す。
その光を受けた負傷者が、少しずつ回復していく。
「魔龍王グルジオラス、ならびに犯罪者カリヤ――余の臣民を傷つけた罪、万死に値する」
レオンハルトはそう言って、魔龍王とカリヤを睨んだ。
その時、皇宮の下方から空中に飛び出す巨大な姿が現れる。黒竜姿のアルスロメリアだった。
「グルジオラス様、レオンハルトの半身の獅子ライガは殺して参りました」
「ほう! よくやった。これで、目の前のレオンハルトを殺せば――真に皇帝をこの帝国から消せるわけだな。――カリヤ、レオンハルトを消せ」
魔龍王は、その巨大な口を歪めて笑みを作る。
するとカリヤが口を開いた。
「俺のことを犯罪者と言ったな……。だが、俺はもうただの犯罪者ではない。俺は――」
カリヤの姿が再び竜鬼人と化す。
そこに魔龍王グルジオラスが、黒炎を吐きかけた。
黒炎はカリヤを焼かず、その身体を包みこんでいる。カリヤは声をあげた。
「俺は……魔龍大帝カリヤだ!」
そう名乗ったカリヤに、レオンハルトは手を向けた。
「消失点!」
黒い球がカリヤに向けて発射される。しかしカリヤは左手を向けて、その掌から黒炎を発射した。
「『新月の黒炎』!」
「なにっ!?」
カリヤの発射した黒炎が、レオンハルトの消失点魔法を燃やし尽くす。
「龍王の黒炎を使えるというのか……」
「てめぇの魔法なんざ、きかねえんだよっ!」
カリヤは黒炎の剣をふりかざし、レオンハルトに向かってくる。
が、急にそこに止まり、顔の前で剣を振った。
金属音がして、三枚の手裏剣が床に刺さる。
見ると、竜鬼人カリヤの胸には四枚の手裏剣が刺さっていた。
「エリナか……小細工しやがって――ハン! テメェの小さな手裏剣の傷なんざ、蚊が刺したほどでもねえぜ」
「エネルギー系を燃やし尽くすことはできても、物体を即燃やし尽くせるわけじゃない。レオ様、物理が有効です」
エリナが飛んできた手裏剣を、胸の前で組んだ手にキャッチしながら、レオンハルトにそう告げた。
「なるほど、剣で斬ればいい――ということだな」
レオンハルトの手に剣が現れる。
その時、宮殿の中から大勢の兵たちが現れた。その先頭に立つ男が口を開く。
「陛下、御無事ですか」
「うむ。リベリオン、街の方は大丈夫なのか?」
レオンハルトは、その先頭の男に訊ねる。
その男は皇帝直属の帝都軍の総司令であるリベリオン・クルーガーだった。
黒髪をごく短くし、上背があり、がっちりとした体格をしている。一目でわかる屈強な軍人で、くっきりとした眉と、しっかりした顎を持つ男だった。
「龍王に上空を飛び抜けられ、兵を分散して参りました。ここに来ているのは、特別部隊です。――陛下はお下がりください」
リベリオンがそう言うと、リベリオンが連れてきた兵たちがザッと前に出て剣を構える。
「フム……よかろう、リベリオン。お前と部下の働き、見させてもらうぞ」
「ハッ」
リベリオンは両手を下に広げる。と、その手中に剣が二本出てきた。
「男は私がやる。お前たちは魔龍王を攻撃せよ」
「「「了解!」」」
リベリオン・クルーガーが飛び出した。と、思う間もなく、その姿が消える。
と、次の次瞬間には、竜鬼人カリヤの処に現れている。
「クッ――」
いきなり現れたリベリオンの双剣が、唸りを上げて襲い掛かる。
カリヤは黒炎剣で防御するが、凄まじい勢いで襲い掛かる双剣の攻撃に後退するばかり。その剣技に、エリナが息を呑んだ。
「凄いですわ……リベリオン様――」
「当然だ。奴は獅子王戦騎団の一人、『暴風双剣』リベリオンだからな」
レオンハルトが微笑む。が、その眼は油断なく、魔龍王にかかっていく帝都軍特別部隊『疾風怒濤』の動きを見ていた。
一気に魔龍王まで近寄ると、隊員たちは剣から気力の刃や気光弾を飛ばす。
その遠距離攻撃が魔龍王にことごとく命中すると、魔龍王が低く唸った。
「この小賢しい……ハエどもめ!」




