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6 鋼鉄機人ナックス


 皇帝の間から出てきたレオンハルト、エリナ、そしてライガを、皇帝の間の傍に控えていた者たちが一斉に見る。そこには三人の獅子王戦騎団が控えていた。


それは熊耳で大きな身体をした『火山戦斧』ゴライアス。ゴライアスは帝都警護隊の総隊長に任命されていたが、警察庁が発足し隊員の多くが警察に志願したために帝都警護隊は皇宮警備隊に再編成されていた。


さらに帝国一の霊術士『大聖女』メルクルディア。金髪をロングストレートにした長耳族(エルフ)のメルクルディアは、その類稀な美貌で最も有名なレオンヘッドの一員だった。


 そしてその傍らにいるのは、左手、左脚がミスリル製の義手、義足であり、左眼だけのゴーグルをつけた屈強な体格の男。それは『鉄鋼機人』ナックス。彼は戦いで肉体の一部を失っても、それを補うための不屈の努力で獅子王戦騎団にまで上り詰めた、別名『不屈の鉄人』であった。


「皇帝陛下、魔龍王がこの皇宮目がけ接近中とのことです」


 ゴライアスの報告に、レオンハルトは頷いた。


「うむ。では、こちらも出迎えることしようではないか」

「陛下!」


 ゴライアスが声をあげる。


「危険でございます。ここは我らに任せて、退避なさってください」


 レオンハルトは苦笑すると、エリナを見る。


「まったく……エリナと同じことを言う。案ずるな、エリナにライガを避難させる」

「それならば……某が、地下防御室へ案内いたします」


 そう口を開いたのは鉄鋼機人ナックスである。レオンハルトは頷いた。


「うむ、ナックス――ライガと…エリナを頼む」

「委細承知」


 ナックスに連れられて、エリナは皇宮を階下へと降りていく。

 ライガと並んで歩くエリナは、先導するナックスに声をかけた。


「皇宮に地下防御施設なんてあったんですね」

「最近、獅子王戦騎団に入ったエリナ殿が知らぬのも無理はない。極大魔法の火力にも耐える防御設備になっているのだ」


 ナックスはそう言いながら、地下への階段を降りていく。

 そのぶ厚い扉を開けると、そこには相当の広さの空間が広がっていた。


「うわ、思ってたより広い! 野球できるくらい!」

「ヤキュウ――?」

「あ、チームでやる遊びの話です。まさか、地下にこんな空間があるなんて」

「食料も100人が三ヶ月こもれる保存食が備蓄してあります。ただ――」


 ナックスが振り返った瞬間、その義手から伸びた剣がライガの眉間を貫いた。


「え――?」


 エリナの眼が驚愕に開かれる。

 ナックスがその剣を引き抜くと、ライガが小さく呻きながら床に倒れた。


「――お前たちは、その食料を口にすることはないがな」


 ナックスがそう囁く。

 

「ライガッ!」


 エリナがライガに駆け寄って、治癒術を施す。が、その光がライガの眼を覚まさせることはなかった。


「嘘――何故、起きて、ライガ!」

「即死するダメージを与えている。お前の治癒でも、もはや手遅れだ」


 そのナックスの声を聴くと、エリナは歯噛みをしながら立ち上がった。


「……どういう事なの――獅子王戦騎団なのに、裏切り者だったワケ?」

「違うなあ」


 鉄鋼機人は薄笑いを浮かべた。


「この男は実に忠義な奴だった。心の底から皇帝レオンハルトを敬愛し、そのために仕えると考えていた男だ」

「この男って――まさか……」


 エリナが眼を見開く。と、その眼前の男がいきなり光を発しその姿を変え始めた。


「既に……竜に喰われていた――?」

「その通りよ」


 エリナの眼の前に現れたのは、肌も露わなドレスをまとった美女――アルスロメリアだった。


「あたしの名前は知ってるわね?」

「凶魔竜――アルスロメリア……」


 エリナは眼鏡の奥からその美女を睨みながら、その手に小太刀二刀を発現させた。

 アルスロメリアが艶然と微笑みながら、その手をふわりとかざす。

 と、エリナの背後で入り口のドアが閉まった。


「はっ――」


 アルスロメリアは美女の顔を崩して大口を開く。その口から黒炎を吐き出した。

 エリナはその黒炎を跳んで躱す。が、アルスロメリアの狙いはエリナではなかった。その黒炎は、ドアの取っ手を溶かしてしまう。


「しまった!」

「フフ……あんたのことも知ってるよ、『ゼロライズ』のエリナ。あんた、消えるんだろ? 逃げられないように出入り口を塞いだのさ」

「ライガのことと言い――私たちのことを事前に調べつくしてるのね」


 エリナは警戒しながら、アルスロメリアを睨む。


「みんなグルジオラス様の作戦さ。あの方は賢いからね、お前たちを間違いなく叩き潰せるように考えたのさ。皇帝はライガという半身を逃がしておけば、また復活できる。それを阻止するために――あたしが内部に入ったんだよ」


 エリナはぐっと息を呑んだ。

 エリナはそこでアルスロメリアから眼を逸らすことなく、念話を使った。


“レオ様、申し訳ありません”

“エリナか――どうやらライガが殺されたようだな”

“判るんですか!?”


 エリナは皇帝の念話を聴いて、驚いた。


“判るさ、我が身のことだからな。お前は無事なのか? 何があった?”

“ナックス様が――凶魔竜アルスロメリアでした。ナックス様は既に喰われ、その記憶を奪われたようです”

“――今、どこだ?”

“地下の防御室に閉じ込められてます”

“今、行く”


 皇帝のその声で念話が途切れた。と、アルスロメリアが声を上げる。


「観念しな。お前の透明化は厄介だが、純粋な戦闘力で超級眷属に進化したあたしを倒せるほどじゃない」

「超級眷属……」


 アルスロメリアの姿が、見る見るうちに変貌していく。

 その顔は黒い仮面を被った女のようになり、身体は黒い肌に赤い紋様を浮かべる竜怪人の姿になった。


「この部屋全体を焼き尽くして、逃げ場のないお前を火あぶりにしてやるよ!」


 竜怪人アルスロメリアが大口を開ける。エリナは透明化して姿を消し、アルスロメリアの前から離れた。


 次の瞬間、アルスロメリアが信じられないほどの黒炎を吐き出した。

 その業火は部屋の壁に当たり、跳ね返り渦を巻き、部屋全体に広がっていく。


 アルスロメリアは黒炎を吐きながら、身体を一周させて満遍なく部屋を炎でみたそうとしていた。


「くっ――」


 エリナは透明化したまま霊力で結界を造り防御する。しかしその黒炎の威力は凄まじく、エリナの結界も長くはもちそうになかった。


「こ……こんな――」


 エリナは業火に耐えているが、もう限界だった。

 その結界が破られる――エリナが眼を閉じた瞬間、その身体が不意に支えられた。


「え――?」

「……大丈夫か、エリナ?」


 自分を包むその腕の主を見上げると、そこには皇帝レオンハルトの微笑があった。

 異次元ホールから現れたレオンハルトは、すぐさま魔導障壁を作りエリナを囲ったのだった。


「レオ様……申し訳ありません。ライガを死なせてしまいました」

「お前が無事なら、それでよい」


 レオンルトは微笑してみせる。エリナは思わず顔を赤らめた。


「――で、この女が凶魔竜アルスロメリアか?」

「そうです」


 突如現れた皇帝の姿に、アルスロメリアは最初驚いていたが、やがて笑みを浮かべた。


「皇帝レオンハルト、まさか自分からノコノコやってくるとはね! ここであたしが、アンタを片付けてやるよ!」

「威勢のいい女は嫌いじゃない――が、品がない」

「黙りな!」


 アルスロメリアが黒炎を吐く。が、その黒炎は皇帝にたどり着く前に収縮して、皇帝の手の前で消えていった。

 レオンハルトの掌には、黒い小さな球が残っていた。


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