5 超棒剣
黒い鎧で判りづらいが、ジュールの鎧のあちこちが崩れ落ち、その肌が焼けている。あの魔龍王の黒炎を完全には防ぎきれてなかったんだ。
「クオン……魔龍王の黒炎は、他の奴のものとは異なる。あの感じ――前に受けた白夜の青炎に近い」
「気力や魔力を凍らせる白夜の青炎に近い――そういえば、『新月の黒炎』っていう名前をキャルが聴いたって言ってた」
ジュールが僕を見つめる。
「クオン、ブラックレイはもう動けない……。私は地上から奴を追う。先に行ってレオンハルトを――皇帝を守ってくれ」
「……判った」
ジュール・ノウ、その身体でもまだ皇帝を守ろうとするのか。
この人の不屈の意志には、本当に敬意しかない。
「あ――カサンドラに連絡しないと」
僕はマジホを取り出して、カサンドラに連絡する。
「カサンドラ、クオンだけど」
“クオン、そっちの状況はどうだ?”
カサンドラの声が緊張しているのが判る。
「魔龍王グルジオラスと接触した。そして、現在そっちに向かっている」
“そうか――お前は無事なのか?”
「僕は大丈夫。だけどジュール・ノウが負傷してる。本人はだけど皇帝を守るために戻るつもりだ。そしてその負傷の理由が、魔龍王の黒炎だ」
僕は言った。
「魔龍王の黒炎――多分『新月の黒炎』っていうんだけど、それはジュールの重気界を燃やし尽くした。キャルの『白夜の青炎』に近い性質を持ってる。魔導障壁の防御では守れない可能性が高い」
僕の言葉に、カサンドラは息を呑んだ。
“そんな……ものを――どう防げばいいのだ…”
「防御壁ではダメだけど、高出力の攻撃で迎撃すれば対抗できると思う。ただし、かなりの威力だ。後は物理的な防御壁」
“なるほど……皆に伝えておく”
カサンドラは少し息を洩らした。
「あと、これは僕の推理でしかないけど――グルジオラスが魔龍王になることによって、その眷属が進化したらしい」
“進化? どういう事だ?”
「簡単に言うと、特級眷属の数が増えてる。多分、前はガリーモールドとアルスロメリアだけだったのに、他に何体もいる。上級眷属が特級になったとしか思えない。奴らは知能が高く、戦闘も連携でくる。――気を付けてほしい」
僕の言葉に、カサンドラが低く唸った。
“そうか、合わせて周知しておく。助かるぞ、クオン”
「僕は今から皇宮に向かう。そうだそれから……カリヤがパワーアップしてる。その強さは未知数だ」
僕の静かな声に、カサンドラが言った。
“判った……クオン、決して無理はするな。戦ってるのは、一人じゃない”
「うん。判ったよ、カサンドラ」
僕はそう言ってマジホを切ると、上空を見上げた。
見ると、重気界から解放された多くの黒竜が、飛竜部隊に襲いかかっている。
僕は急上昇して、ダンガードの傍の黒竜を薙ぎ払った。
「お、クオン! ジュールは大丈夫だったか?」
「あの人は大丈夫。ブラックレイがもう動けなくて、地上から皇宮に向かうって言ってた、僕も――そっちへ向かう」
僕の言葉に、ダンガードは頷いた。
「うむ、俺たちだけで飛竜を阻止するのは限界だ。俺たちも帝都上空まで戻り、地上部隊と連携して飛竜を叩くことにする」
「判った――僕は一足先に行く」
ダンガードが頷くを見ると、先へ進もうと飛んだ。
が、その前に二匹の黒竜が立ちふさがる。
「こいつら! さっきの――」
黒竜が黒炎を吐いてくるのを、僕は躱す。連携してくる特級眷属の黒竜の攻撃がうっとうしい。
「あれを出すか」
僕は棒剣を携帯珠に収納すると、もう一つの用意しておいた武器を取り出した
今度は手に現れるなり軽化する。そうでないと、重さが危ない。
それは今までの棒剣より、さらに長めに作った棒剣。
名付けて――超棒剣。
……いや、ネーミングセンスがないのは判ってるんだけど、それしか思いつかなかったんだ。
今までの棒剣は長さ1m50cmほどで、刃部はそのうちの50cmほど。
これを振動ソード用に変えた時、刃部を1mまで伸ばしたんだった。
けどこの新しい超棒剣は、巨大竜を想定した作った武器で全体の長さを2m20cmまで伸ばした。そのうち1m60cmが刃部でかなり長い。簡単に言うと、巨大な刀だ。
そして今まで鉄製だった棒剣だが、この超棒剣は全体がミスリル製だ。鉄より硬い上に軽い素材でできてる。高価だが、今の僕には購入できた。
「よし――超棒剣の切れ味を試すぞ!」
僕は超棒剣を振動ソードに変える。
その長い刃部が、白く輝いた。言うなれば――超振動ソード。
「行くぞっ!」
体長15mもの黒竜が、僕に大口を開けて黒炎を吐き出した。
僕はその黒炎に正面から向かい、後ろに構えた超棒剣を真っ向から斬り下ろした。
「ウオオオォォォォッ!」
黒炎を斬り割り、超振動ソードはそのまま大口を開ける黒竜の顔に当たる。
軽自動車ほどもある黒竜の顔に、僕は超振動ソードを叩きこんだ。
顔面をその飛行の勢いで斬り割り、そのまま身体を一直線に斬り進む。
その黒竜の腹を斬り抜けると、真ん中から切り開かれた黒竜が、身体から黒炎を上げて落下していった。
と、凄まじい咆哮を上げて、もう一匹の黒竜が尾を振るって来る。
僕はそれを超振動ソードの一閃で斬り裂くと、そのまま飛来して黒竜の首を薙ぎ払った。
斬り落とされた黒竜の首が墜ちていく。
「こうしちゃいられない」
僕はそこから、まっすぐ皇宮を目指して飛んだ。
△ △ △ △ △ △ △ △
「――ということだそうです、レオ様」
エリナはマジホを片手に、レオンハルトに向かってそう言った。
エリナはカサンドラから連絡をもらい、クオンからの情報を得たところだった。
「魔龍王が接近中……しかもその『新月の黒炎』は、魔法や気力を燃やす力を持っていると」
「クオンくんの話では、同レベル出力の攻撃法で迎撃する他ないと」
エリナの言葉に、レオンハルトは表情を険しくする。
「その力によって、あのジュールが負傷したか……。やはり、龍王というのは、ダテではないな」
「レオ様、レオ様だけでもここから脱出しましょう。皇帝に万が一のことがあったら、帝国自体が維持できません」
その言葉を聴いて、皇帝レオンハルトは笑った。
「家臣や民をおいて逃げる皇帝など、誰か信用するというのだエリナ? お前にしては珍しく、愚かなことを言う」
そう言われて、エリナはうつむいた。
「……ならばせめて――ライガを退避させてください。私が、ライガにお供します」
エリナは真剣な面持ちで、レオンハルトに言った。
レオンハルトは静かにエリナを見つめる。
「どうした、エリナ? いつもの余裕がないぞ」
「……あのジュール様が負傷するなど、只事ではありません。ジュール様と戦い、白夜の青炎の威力を一番知ってるのは私たち――。魔龍王は相当に危険な相手です。レオ様に万が一のことがあったら……」
エリナは余裕のない思いつめた眼で、レオンハルトを見つめた。
レオンハルトもエリナを見つめる。そっとレオンハルトは、エリナの頬に手で触れた。
「心配するなエリナ……ジュールも無事だし、余も魔龍王に倒されたりなどせぬ。帝国には帝国軍も獅子王戦騎団もいる。安心しろ」
「けど――悪い予感が……止まらないのです」
エリナは潤んだ瞳でレオンハルトを見つめる。
そしてエリナは、レオンハルトの胸に寄り添った。
「いいぞ、エリナ。ライガを連れて行くがよい。余の命を――お前に預ける」
エリナは顔を上げて、レオンハルトに頷いた。




