3 激突! 竜軍団
棒剣を振動ソードにした僕は、ダンガード隊と同じように右に展開する。
その迂回した中央では、ジュール・ノウの重気界が広がっていた。
見ると、氷漬けのマンモスみたいに重気界のなかで何匹もの飛竜が空中制止している。と、その上にジュール・ノウが立つ。
ジュールが剣を一振りすると、その気力の刃が走り、何匹もの飛竜が一瞬で両断された。するとジュールは立っている飛竜から、別の飛竜へ飛び移ってまた同じ事を繰り返す。
そんな曲芸まがいの動きで、中央部の飛竜はジュールに次々と斬られていた。
「……あの人だけは別格だなあ」
僕は呟くと、目の前の敵飛竜に集中した。
ダンガード隊の飛竜に乗る魔導士から、火炎弾が発射される。敵の飛竜が何匹か直撃を喰らい、墜ちていく。
が、敵飛竜も黒い火炎弾を吐く。黒炎弾を躱すために、隊列から一気に自由戦闘の状況に切り替わる。その中でも、ひときわ素早い動きの飛竜がいた。
乗っているはダンガードだ。ダンガードは手に長い武器を持っている。
あれは――薙刀? 弁慶が持ってる奴で、長い柄の先に刃部がある。
「ウオオォォリャッ!」
ダンガードの飛竜は、敵とすれ違いざまに薙刀を一閃させる。
と、敵飛竜の首がボンボン落ちていった。
「凄いな、ダンガードさん……僕もやらないと」
空中に留まっている僕に、敵飛竜が襲い掛かってきた。
僕はそれを躱しながら、振動ソードを一閃させる。その飛竜の首から右翼が斬り割れた。
実は念動力と振動力を同時に発揮する練習を、昨日、作業の後にしたのだ。
最初は難しかったが、今ではかなり自由に扱える。
ふと見ると、敵の飛竜が重気界の下に潜りこんで、こちらの迎撃戦を突破しようとしてる。
「行かせない!」
僕は一気に下方へ飛んだ。
飛び抜けようとする飛竜の背に追いすがり、振動ソードで斬りつける。
僕の動きに気付いた飛竜が黒炎弾を吐いてくるが、僕はそれを躱しながら相手に接近し斬り払った。
ふと見上げると、右方で一騎の飛竜が囲まれて集中攻撃を受けている。
ダンガードだ。執拗に追い回されるダンガードは、苦戦していた。
「こちらの指揮官を狙うだけの知能がある」
考えてみればグロッサー家で会った上級眷属は、人間の言葉を喋っていた。知能が高くても不思議じゃない。
僕は一気に下から突っ込み、ダンガードを狙っている飛竜の切り抜ける。
「ム――クオンか!」
上空へ抜けた僕は、今度は急降下。別の飛竜の首を上から切り落とす。
――そうだ。飛竜たちは前に進んで飛ぶのが主な動きだから、水平方向の前方には素早く動けるが、垂直方向や後方には動けない。ジェット機と同じだ。
「ならば――」
僕は敵のいる空間を上下に使い、素早く敵を斬り抜けながら、ジグザグに飛行することで敵を撃墜していった。
「クオン……やるのう、お前」
ダンガードが途中で笑みを浮かべる。僕も少しだけ笑ってみせたが、僕は左舷の方を指さした。
多分、向うも指揮官が狙われている。僕は一気に下降して重気界の下に潜ると、左側エリアの様子を見上げた。
一ヵ所だけ、集中して飛竜が集まってる場所がある。
「そこか!」
僕は今まさにリディアに襲いかかろうとしていた飛竜を、下から斬り上げて両断した。
「クオンさん!」
そのまま上に飛び抜けて、急降下。別の飛竜を切り抜けて、下方に潜る。そして急上昇とジグザグ飛行を繰り返して、リディアの周辺の飛竜を斬り落とした。
「ありがとうございます、クオンさん!」
銀髪眼鏡のリディアが、飛竜に乗ったまま僕に礼を言う。
空中で制止状態の僕は、リディアに言った。
「相手の飛竜は指揮官を狙うだけの高い知性がある。みんなにも伝えてください」
「判りました」
リディアはそう答えると、自分のこめかみに二本指をあてた。リンクで皆に呼びかけている。
“敵は高度な知性を持っています。充分に警戒してください”
そう念話の呼びかけが僕の脳裏にも届いた瞬間、僕は違和感を感じた。
妙に暗い。周囲を見回すと、周囲も暗い。
「――上だ!」
僕は声をあげて空を見上げた。僕らよりもっと上空を飛ぶものの影が、僕らの周辺を暗くしていたのだ。
その上空の雲の隙間から――そいつは現れた。
巨大客船が宙に浮かんでるかと思うほどの巨体。体長は多分、50mを越える。
漆黒の肌に青い紋様を持ったその存在に、思わず身体が震えた。
「魔龍王…グルジオラス――」
だが、僕の驚きはそれで終わらなかった。
その魔龍王の頭に乗ってる奴がいる。黒マントをたなびかせ、黒マスクを着けた男――
「――カリヤ…」
カリヤは上空から、明らかに僕を見下ろしていた。
――と、魔龍王がその巨大な口を開く。その口周辺に黒の粒子が集まっていく。
「黒炎が来る! みんな回避だ!」
僕の声にリディアが頷き、念話を送る。
“上空より黒炎、全員回避!”
緑の飛竜が散開していくのと同時に、魔龍王が凄まじい黒炎を口から放った。
が、それは重気界に向けてだった。
「ジュール!」
重気界の中にいるジュールが、眼を見開く。
黒炎が重気界にぶつかる。そこで止まるはずだ。
――が、その黒炎は、重気界を貫いてジュールに向かっていった。
ジュールが剣を脇に構え、防御の姿勢をとった。
向かって来る黒炎を、ジュールが斬り払ったのが僅かに見える。
しかし凄まじい業火で、どうなったかが見えない。
しかも驚いたことに、その黒炎は重気界に燃え移り、浸食するよう重気界を燃やし尽くしていく。重気界の束縛から逃れた飛竜たちが、左右の飛竜隊に襲い掛かり始めた。
「クソッ! 魔龍王の黒炎は、白夜の青炎のように重気界を燃やせるのか!」
僕は思わず声を洩らした。
と、黒炎が薄れた視界で、落下していくものが見える。
「ジュール・ノウ!」
僕は思わず叫んだ。すると何処からか黒い飛竜が飛んできて、ジュール・ノウをキャッチする。僕は息をついた。
「けどもう、重気界は通じない。あいつを直接叩かないと――」
僕は急上昇して、魔龍王の正面で空中制止した。
その頭部にいるカリヤを睨む。
「カリヤッ!」
「……クオン。どうやらお前、自分で飛べるようになったらしいな。次から次へとパワーアップしやがって――」
カリヤは黒マスクの上の眼で、僕を睨んだ。
「――まったく、目障りな奴だぜ」
「それはこっちのセリフだ、カリヤ! こんな怪物を引き連れて……お前は人間を滅ぼすつもりか!」
「そうさ」
カリヤは僕の言葉に、せせら笑いを浮かべた。
まさか、肯定するとは思ってなかった自分の言葉に、僕は衝撃を受けた。
「……もう、人間の時代は終わりだ、クオン」
そう言いながら、カリヤの姿が変貌していく。
その体格が膨らんでいき、体表は暗黒の色へ。顔は虎に似た、ゴツゴツした岩の塊のような顔になる。そして――その額には二本の角がそそり立っていた。
「鬼……」
「言っとくが、ただの鬼じゃない。俺は竜根を得た上に――魔龍王ガイノトラキスの命力を吸収した。今の俺は……竜鬼人だ」
人間離れした怪異な姿と化したカリヤは、そう言って僕を睨んだ。




