第五十五話 竜軍団の来襲 1 防衛準備
僕はノウレムに言った。
「ノウレム先生、基礎の打ち込みを手伝ってもらえませんか?」
「それはもちろん構いませんけど……何をなさるおつもりなの?」
僕は柱を打ち込む予定の場所を見た。丸が書いてある。
「僕がここの地面を軟化します。そこに上から垂直に柱を打ち込んでほしいんですけど」
「地面を軟化? それは地中の岩盤まで軟化できるものなの?」
「はい。この面積のまま影響力を浸透させれば――」
ノウレムが驚いた顔の後で微笑する。
「なるほど、あなたって凄いのね」
「ノウレム先生、他の魔導士とも協力して柱を持ち上げてもらいたいんです」
「ふふ……それくれいなら、わたくし一人で充分よ」
そう言うとノウレムはかなり巨大な木材に手を向ける。
あっさり木材が宙に浮き、丸の上で正確にピタリと止まった。
「うわ……さすがキャルの先生――凄い魔力とコントロール力だ」
「いいわ、準備はできたわよ」
「じゃあ、軟化します」
僕は地面にしゃがみこんで丸の標に手を触れる。
この円の面積で下まで浸透するように――軟化!
「お願いします!」
「落とすわよ」
宙に浮いた柱がズドンと地面に打ち込まれる。
軟化した岩盤を貫いて、地中に3mほど杭が沈み込んだ。
周りで見ていた作業員たちから、おぉ! と歓声があがる。
「うん、いけそうですね。基礎の柱は25本、全部打っちゃいましょう」
「判りましたわ」
それから僕は、ノウレムと組んで25本の杭を手早く打ち込んだ。
ノウレムの魔法コントロールが正確なので、作業は物凄くスピーディーに進み、あっという間に作業は終わった。
「す、凄いぞ、ノウレム先生とクオン様!」
「あれほど困難と思われた基礎作業が、もう終わった。これなら――かなり早く作業が進められるぞ」
おーっ! と歓声が上がる。僕の口に思わず笑みがこぼれた。
「ありがとうございます、ノウレム先生」
「礼を言うのはこちらでしょう、クオンさん」
「あ――他の拠点も基礎造りに協力した方がいいかも。僕、行きますね」
僕はそう言って、第1拠点を離れた。
それから僕は、木材を次々に拠点に運び、基礎造りを手伝う。
地理的に言って一番後になった第7拠点に行くと、キャルとネラが作業を手伝っていた。
第7拠点は既に基礎を打ち込んでおり、もう上の階層を造り始めていた。
「キャル、木材を持ってきたよ」
「あ、クオン!」
キャルの笑顔が僕に向けられる。……なんだか、ちょっとテレる。
「見つめ合うんじゃないよ! あ~、もう腹の立つ!」
「あ、ネラも頑張ってるじゃないか」
「小さい子を褒める口調はやめろよ! ボクは一応、キミより年上だったんだぞ」
「そう? まあいいじゃないか――あ、僕もここの作業を手伝うよ」
僕はそう言ってから、第7拠点の櫓造りを手伝う。
出来上がった櫓は、設計図通り高さ30mにもなる氷の建造物だった。
「いやぁ、やっぱりスレイルさんて凄いな。頭の中でこれをイメージするんだから」
僕は感心して、氷の櫓を見上げる。もう夕方になり、陽が落ち始めている。
その夕陽に照らされて、氷の櫓がオレンジ色に輝いていた。
僕は隣で微笑んでいるキャルに言った。
「キャルの氷魔法で輝いて、宝石の塔みたいだ」
その言葉を聴いたキャルが、なにか僕を驚きの眼で見ている。
「な、なんかヘンなこと言った?」
「クオンってば……」
キャルはちょっとうつむいて、口元に拳を寄せる。
赤くなって見えるのは――夕陽のせいだろうか。
ふと顔を上げて、キャルが微笑む。
「やったね、クオン」
「そうだね。けど、本番はこれからだ。明日――竜の軍団が来る」
「うん……」
僕らはそれから黙って、輝く氷の櫓を見ていた。
翌朝、警察庁庁舎に集合した僕らは、広い講堂の中に多くの警察隊員とともに整列していた。
壇上に現れたカサンドラが、口を開く。
「皆の協力で、櫓も無事、全箇所完成した。あと数時間後には、暴魔竜グルジオラスが、邪龍王となってこの帝都にやってくる。これからが防衛作戦の本番だ。みんな――心してくれ」
「「「はい!」」」
威勢のいい返事が、講堂を揺るがす。
その後は各自の配置表が配られたが――僕の名前がない。
僕は直接、カサンドラに訊きにいった。
「カサンドラ、僕の名前が何処にもないけど?」
「クオンは――好きにしてくれ」
カサンドラは少し微笑みながら、僕に言った。
「好きに……って、どうしたらいいんだか――」
カサンドラは真面目な顔で、僕を見つめる。
「クオンの戦力は規格外だ。私の思惑で押し込めるより、自由な判断で必要と思えることをしてくれ。それがきっと……勝利につながる」
「判った、カサンドラ。これを――最後の戦いにする」
僕はそう言うと、微笑してみせた。
カサンドラの元を離れた後で、僕はキャルの処に行った。
「キャルは何処にいるの?」
「第7ポイントの櫓上。そこで迎撃をするの」
「――周辺警護はボクの役目だそうだよ」
不意に傍から、ネラが顔を出す。
「よりにもよって、キャルの警護だよ。カサンドラって、ボクに悪意あるんじゃないのか?」
「キャルは多分、龍王の黒炎に対して唯一反撃可能な力を持ってる存在だ。だから王宮に一番近いこの拠点を任せたんだろう。そしてその最重要なキャルを守るために選ばれたってことは、お前が信頼できる存在だと認めた証だよ」
僕が真面目にそう言うと、むくれていたネラは急に顔が赤くなる。
「そ……そうなのか?」
「うん。カサンドラの判断は的確だ。カサンドラと――自分を信じろよ」
「わ、わかったよ。そこまで頼られちゃしょうがない! ガツンとやってやるさ」
僕はネラの勢いに、笑みを洩らした。
と、キャルが僕を見つめる。
「クオンはどうするの?」
「僕は――最初に迎撃に向かう飛竜隊と合流して、まずこっちに向かって来る数を減らしてくるよ」
キャルの瞳が、僅かに潤んでいる。
「気を付けてね……」
「大丈夫。敵の本隊がこっちに来た時には、僕も戻ってくる」
僕はそう言うと、キャルとネラに別れを告げて、帝都の最西端にある砦に向かった。砦は帝都を囲うように築かれた城壁の中にある。
その砦の内部の階段を上がると、屋上に出る。広い屋上には飛竜部隊200騎が待機していた。
「うわぁ……」
たくさん並んだ飛竜、飛竜、飛竜。その全部が緑の飛竜だった。
が、一匹だけ黒い飛竜がいる。あれには見覚えがある。
僕はその黒い飛竜に近づき、その傍にいる人に声をかけた。
「ジュール、ノウ、こっちに来てたんだね」
「……クオン・チトーか」
黒い甲冑に身を包み、肌が妖しいほど白いジュールが、紫の瞳を僕に向けた。
「こんな処へどうした?」
「僕も飛竜隊と同行させてもらおうと思って」
ジュールは少し怪訝な顔を見せると、声をあげた。
「ダンガード!」
ジュールが声をあげた方を見ると、一人の男がなにか談笑してる。
呼ばれた事に気付いて、こっちを見た。
「どうした、ジュール」
呼ばれた男がこっちに歩いて来る。
まだ若くいかにも逞しい感じで、ブラウンの髪はワイルドに伸び、その精悍な顔には自信ありげな笑みが浮かんでいた。
――と、その男は僕に眼を止めると、にぃと笑った。




