6 空飛ぶクオン
僕はスレイルのアイデアに、思わず感嘆した。
「そうか! 僕が自分で念動力を使えるようになれば、軽化した自分を自分で飛ばせる!」
今まで僕は、自分と誰かを軽化して、魔法か霊術が使えるその相手に飛ばしてもらっていた。けど――そのコントロールを、自分でできるようになる。
「クオンくんのおかげで空を飛ぶという感動的な経験をさせてもらったけど、考えてみたら、飛ぶことを可能にするクオンくん自身は、自分の思い通りには飛べない――ということに気付いたんだ。それで、君自身を飛ばすアイテムを作ってみた」
スレイルはそう言うと、にこっと微笑んだ。
これかぁ……カサンドラが好きになった笑顔。ヤバい、男の僕も惚れそう。
ちょっと抱き着きたいくらい感動したけど、そこはぐっと堪えて、スレイルの手をとった。
「凄いよ、スレイルさん! こんなに嬉しい贈り物はない、ありがとう! スレイルさん、やっぱり天才だよ!」
「うん、よく言われる。そのフォース・ブレスレットの力を完全にコントロールするのには、訓練が必要だと思うけどね。正直――戦いのために開発したんじゃないけど…今回は力を発揮するかも」
スレイルの言葉に、僕は頷いた。
「使わせてもらうよ、スレイルさん。うん――作業しながら、コントロール訓練してみるよ」
僕はそう告げて、キャルと微笑みあった。
それで――資材置き場に行くと、切り出した木材が積んである。
作業してる人たちに、僕は声をかけた。
「あ、あの……木材運びに来たんですけど――」
「あ、運搬係の人ね。その辺の木材を荷車には積んで、まず第1ポイントに運んでくれよ」
「あ、判りました」
木材は直径50cm、長さ10m以上ある。まあ、普通に考えたら結構な重量だけど――
「あ、おい! 一人じゃ無理だから、誰か呼んで来いよ!」
「あ、大丈夫です。運べますから」
僕はそう言うと、木材を軽化して持ち上げる。
「え? えぇっ!?」
「あ、二本ずつ運ぶか」
木材を軟化して、指を入れてしまう。それで両手に木材を持つと、僕は木材を軽化して運ぼうとする。と、傍にいた男性が声をあげた。
「えぇぇっ!? ……ま、まさか――『自在の』クオン――様?」
「あ、はい、そうですけど……様づけは、ちょっと」
僕は苦笑しながら、彼にそう言った。
と、その人が恐縮して背筋を伸ばす。
「し、失礼しましたぁっ! 獅子王戦騎団のクオン様とも知らず――あ、そんな資材はこちらで運びます!」
「いや、僕が運んだ方が早いからいいですよ。そっちはそっちの作業を進めてください」
僕はそう言って笑うと、どんどんと木材を運んだ。
傍にいた作業してる人たちが呆然としている。
「え……す、すごい――」
「あ、じゃあ荷車いっぱいになったんで、とりあえず一回置いてきますね。じゃ」
僕はそう言うと、木材を10mくらいの高さまで、いっぱいに積んだ荷車を動かした。
「あ、あんな重量の荷車を!」
「さすが、クオンさんだ!」
いや、もうこっぱずかしいからヤメて。僕は荷車を引いていった。
が、大きさも大きさなので、ちょっと街道でも目立つし、通行も大変だ。
「……空から行ってみるか」
僕は早速、スレイルから貰った腕輪を見る。
「フォース・ブレスレットかあ――」
これを使えば念動力が使える。
……能なしの僕は、今まで、そういう魔法的な力には縁がなかった。
「まず念動力が本当に使えるか、試してみよう」
僕は腕輪を意識して、通りに落ちていた石ころを念じてみた。
と、石が浮いて、こっちに寄ってくる。
「おぉ! 本当に念動力が使えてる! 凄いぞ、これは!」
僕の元に引き寄せようと念じると、いきなり急に飛んできて、僕のおでこに激突した。
「痛っ! ……いったぁ――なるほど、これは加減とかコントロールが難しい……。けど――」
これを上手く使えれば、自由に空を飛べるようになるし、力場の防御なんかもできるようになる。スレイルって、ほんと天才だ。
そんな事を考えながら僕は、荷物を積んで大型トラックみたいな大きさになってる荷車を軽化で浮かせた。
「よし、飛ぶぞ!」
石ころを浮かすぐらいの念力で、僕と荷車が浮く。おお! ほんとに僕だけの力で浮いてる!
僕は大型荷車を運びながら、上空へ浮遊した。低速飛行して慣れながら、僕は自分で飛行する喜びを味わった。
「あの~、すいませ~ん!」
僕は上空から、作業ポイントらしき場所にいる人達に向けて声をかけた。
廃材を運んでいた人たちが、空を見上げて驚きの顔になる。
「ここ、第1ポイントですよね~?」
「そ……そうだけど――」
よかった、あってた。僕は高度を下げていくと、荷車を地面に降ろした。
「はい、木材到着です!」
「ま……まさか…獅子王戦騎団のクオン様?」
なんか、驚きの中に恐縮の色が混じってる。苦手だな~、この反応。
「あ、はい。え~と、みんなで一緒に頑張りましょう!」
なんか……こんな紋切型のことしか言えないのかな、僕って。
「おや――貴方がクオンさんね」
その時、不意にかけられた女性の声に僕は振り返った。
オールバックの黒髪が膝裏まで伸びている女性。若そうだけど、不思議に落ち着いた雰囲気で年齢が判らない。
そして髪は黒なのに、長い睫毛は白く、それに瞳の色も白い。けどそれは神秘的な美しさを見せていた。
僕はこの人、知ってる。
「あの……ノウレム先生ですか?」
「はい。キャルから――それにカサンドラからも聴いてますよ。あなたのこと、ブランケッツのこと。あなたが、皆の導き手になったのね」
「いや……僕は何も――ただ、一緒に大事なものを、守ろうとしただけで……」
ノウレムは典雅な微笑を浮かべた。
「それが……あの頑なだったカサンドラを変えたのでしょうね。わたくしは導き手として、あの子を一旦は見放してしまった――。そして道を誤ったあの子を、良い道へと誘ったのはクオンさん、あなたでしょう。わたくしからも、お礼を言いたいと思っていました。……どうも、ありがとう」
ノウレムは静かに、僕に向けて頭を下げる。
「あ…いや――」
僕は恐縮しながらも、少し口を開いた。
「多分、誤った道じゃなかったと――思いますけど。僕は」
ノウレムが顔を上げて、僕を見る。
「ノウレム先生からは誤ってるように見えたかもしれないけど、カサンドラはその時はそれが正しいと思って自分が選んだ道を必死に進んでた――と思うんです。その真剣さがあって……今のカサンドラにつながった。僕は何もしてなくて、カサンドラが自分の力で、今の場所にたどり着いた、と…思ってます」
僕の言葉に、ノウレムは少し驚いた顔をした後で、微笑を浮かべた。
「そうね……。まだ、わたくしは頭が固いのかも。それが二人の距離の原因だったかもしれないのに。わたくしも――もっと自分を自由にすべきかもね」
「けど、ノウレム先生のような方が、櫓建造や防衛に参加してくれるなんて、とても心強いですよ」
僕がそう言うと、ノウレムは微笑した。
「わたくしも帝都の一員ですからね。街が焼けても困ります。――けど、どうもこの辺は岩盤が硬いらしく、掘削作業に手を焼いてるようでしたわ」
「あ、そうなんですか」
僕はちょっと考えて、作業してる人の方へ歩み寄った。
「下が硬いんですって?」
「ええ。岩盤が硬くて――最初の基礎になる柱を立てるのが大変なんです」
僕はちょっと考えて、ノウレムを振り返った。




