第五十三話 キャルの決断 1 振動ダイナミック
雌黒竜は、僕が振動剣でつけた傷が再生しないことに驚愕している。
理由はよく判らないが、細胞を再生する機能まで破壊してしまうのだろう。
「な、なんなの、このニンゲンは!? 傷が再生しないわ!」
「落ち着け、デューリップ! 致命傷じゃなければ、手はある!」
雄竜怪人の声も聴かず、雌竜は僕を睨んだ。
「コ…殺してやるわ! ニンゲン風情がっ!」
雌竜が突っ込んできた。だが5mほどもあるその巨体は、それほど素早いとは言えない。僕はぎりぎりまで引きつけて、横にかわしざまにさらに腹に振動剣を斬り込ませる。
「ギャアアァァァッ!」
およぞ人間では出せないような呻き声を、雌竜があげる。
もういい、充分だ。
「振動スラッシュ!」
僕はダッシュで駆け抜けるとともに、最後の放ち斬りで雌竜の腹を斬り割った。
駆け抜けた僕が足を止めると、ボロリ、と雌竜の上半身が床に落ちる。
「よ……くも…」
雌竜はそれだけ呟いて、静かになった。僕は振動剣を解除する。
やはり振動剣だけなら、相当に負担は少ない。
「デューリップ! 貴様ァ!」
雄竜怪人が怒号をあげた。
僕は振り返って、雄竜怪人――ビヤシンスって呼ばれてたか、を睨んだ。
「もう一度訊く。この家の人たちをどうした?」
「――喰らったのさ! そしてオレたちは喰らった相手の姿を奪うことができる!」
そう言いながら、ビヤシンスはみるみるうちに巨大な黒竜の姿へと化していった。
やはり体高5mサイズ。少し雌竜より大きめの、巨大な竜が現れた。
「グルジオラス様のように、喰らった相手の記憶まで奪うことはできないがな。この家の家族は、既にオレたちの胃袋で消火されてた――というワケだ!」
「ジオという少年を――暴魔竜グルジオラスが喰い、その姿になりすまして学校に来ていた……ということか?」
僕がそう口にすると、後ろで声があがる。
「そんな! もう、おじ様たちは――」
「あのジオが――偽物だったなんて…」
僕は振り返って、ショックを隠し切れないシュミレとチャミィに言った。
「ごめん。ショックなことだよね……せめて、この家の人たちの仇はとるから」
僕がそう言うと、ビヤシンスが叫んだ。
「仇を討つのは、こっちの方だ! よくもデューリップを殺したな!」
そう言うなり、黒竜ビヤシンスが口を開けて黒炎を吐いてくる。
僕はそれを躱すが、そこに尾の追撃が来る。
「ムゥッ――」
棒剣で受ける。身体を重硬化してるから飛ばされないが、凄まじい衝撃だ。
竜の尾の重圧に耐えながら、僕はビヤシンスに言った。
「仲間の竜を想う気持ちがあるのに、どうしてその気持ちをここの家族に向けられなかったんだ……」
「ニンゲン風情を、なぜ思いやる必要がある!? ニンゲンと竜では格の違う生き物だ! ニンゲン風情が我々と対等に扱ってもらおうなどと、おこがましい事を口にするなっ!」
そう叫ぶと、ビヤシンスは羽ばたきとともに、爪で襲い掛かってきた。
僕はそれを躱す。明らかにデューリップと呼ばれていた雌竜より素早く、強い。
「お前はそういう存在なんだな……よく判ったよ」
「何が判ったというのだ!」
ビヤシンスはそう息巻いて、黒炎を吐く。
僕はそれを避けて、ビヤシンスに言った。
「お前を殺すのに、なんの躊躇も必要ない――って事がさ」
振動剣で竜が斬れるのは判っているが、棒剣では少し刃渡りが短い――と思った。
この棒剣の長さは1m50cmほど。刃渡りは30cmほどだ。
これを柄が30cmで、刃渡り1m20cmほどの刀状に変える。
僕は棒剣の柄を左手で下に向けて持ち、そこから添えた右手で棒剣を薄くしていった。
「振動ソード」
軟化して刃を作っていく右手を追うように、左手から振動剣の状態にしていく。
刃になった刀身から光が放たれていた。
先まで刃を作ると、手の内で刀を返して刃を下に向けて両手で構える。
相当に刃渡りが長い刀の――その光る切先を黒竜に向けた。
「そんなコケおどしが、オレに通用すると思うなっ!」
ビヤシンスが尾を振ってくる。僕はそれを躱さない。
僕は振動ソードを一振りした。
「――グアアァァァッ!」
黒竜の尾が宙に舞った。
やはり、刃渡りを長くすると、一気に両断できる。
「こ――こうなったら――」
黒竜がその巨体を恐ろしい速さで移動させる。狙っているのは――シュミレとチャミィだ!
「このメスガキどもの障壁など――」
だが僕は、その動きは予想していた。
――不利になったら、必ず少女たちを狙うだろうと。
ビヤシンスが爪をたてて、少女たちの魔導障壁を破壊しようと襲い掛かる。
「きゃあぁっ!」
僕はダッシュしてビヤシンスが爪を立てる直前に、その身体に重硬タックルを喰らわせた。
「ゴゥハッ!」
5mの黒竜の巨体が吹っ飛び、大広間の壁にぶつかる。
「バ……バカな――そんな小さな身体なのに…とんでもない重量の衝撃だ…」
ビヤシンスは身体を起こしながら、驚愕の声をあげる。
「お前は一体……何者だ……?」
「――臆病で弱虫の……小さなニンゲンさ」
僕はバネ脚を使って一気に跳躍した。
ビヤシンスの頭上に舞い、ビヤシンスが僕を見上げている。
黒竜は空中の僕に黒炎を吐きかける。
僕は振動ソードでそれを斬る。黒炎が僕に届く前に、斬り分かれた。
「なにっ! 黒炎を斬るだと!?」
空中で黒炎を斬った勢いで、僕の身体は一回転する。
そのまま黒竜に向かっていく中で、僕は真っ向から黒竜の脳天に振動ソードを叩きこんだ。
「振動――ダイナミック!」
身体を重化させ、一気に下へ斬り割る。
着地すると同時に、僕は離脱した。
「バ……バカな――この竜であるオレが、ニンゲン風情に……」
ビヤシンスの身体が真っ二つに割れ、左右に開く。
と、その身体から黒炎があがり、やがて燃え尽きてビヤシンスは消失した。
「ふぅ……」
僕は息をついて、振動ソードを解除する。そして少女たちに声をあげた。
「もう、大丈夫。解除していいよ」
二人は魔導障壁を解除すると、いきなり僕に向かって走ってきた。
「クオンさん、凄いっ!」
「クオン様ぁっ!」
声を上げながら走ってきたかと思うと、二人して僕に抱きつく。
「ちょ、ちょっと!?」
「凄いよ、クオンさん! 告白もできないヘタレかと思ってたけど、戦うとやっぱり違うわぁ。カッコよかった!」
「そうそう、煮え切らない態度の意気地なしかと思いましたけど、やっぱり素敵でしたわ!」
これ、けなされてるの? 褒められてるの?
――は、いいけど。凄い勢いで、二人に抱きつかれてる!
「あの、ちょっと――落ち着いて! 離れて!」
僕は二人の少女の肩を押し戻した。
「いいじゃないですか、少しくらい!」
「そうですわ。こんな機会、もう訪れないかもしれませんもの!」
そう言うと二人の少女は、押し戻す僕の手を払って再び僕に抱きついてきた。
……これ、どういう状況!?




