6 振動剣
後ろから迫る竜の気配に押されるように、シュミレとチャミィは大広間の中央まで出る。しかし大広間はドラモグラーが蠢いており、僕らは中央でドラモグラーに囲まれる形になった。
「何処にも逃げられませんよ」
背後から追って来た竜怪人の二体が、大広間に姿を現す。元グロッサー氏だった竜怪人が言った。
「クオン・チトーとは接近しないように言われてたのですが……しかし、ここでクオン・チトーを仕留めれば、大手柄だ。私も超級眷属に進化させてもらえる可能性だってある」
そう言うと、竜の口の端が、ぎぃぃと吊り上がった。笑ってるらしい。
それを聞いたシュミレが、声をあげる。
「あ、あたし、戦います!」
「わたくしも!」
シュミレの声の後、二人の少女は指輪をつけた手を立てた。魔晶石の指輪――彼女たちも魔法を使うのだろう。
それを聞いた元夫人の雌竜怪人が、半笑いの声を出す。
「ヒヨっこのお嬢さん二人が何ができるというの? けどとっても可愛いから、わたしが――食べてあげるわ!」
そう言った後に、雌竜怪人は咆哮をあげる。と、グロッサー氏だった雄竜怪人が口を開いた。
「おいおい、少しはドラモグラーたちに褒美を与えなきゃいけないだろう? 少女たちはドラモグラーにくれてやりなさい。我々はクオン・チトーを引き裂くことで、満足しよう」
「つまらないの――けど、仕方ないわね」
その会話を聴いて、少女たちが震えた。チャミィの眼には涙が浮かんでるし、シュミレは歯を食いしばっているが、顔が強張っている。
僕は彼女たちに訊いた。
「君たち、魔導障壁は使える?」
「あ、はい。使えます」
シュミレが答えた。僕は二人をリラックスさせようと思い、微笑んで見せる。
「大丈夫、ちゃんと君たちを学校に帰すよ。二人は固まって、魔導障壁を二重三重に張って、とにかく自分たちの身を守って」
「クオン様は?」
チャミィの問いに、僕は言った。
「僕がこいつらを片付ける。何があっても、防御を解かないで。いいね?」
僕の言葉に、二人の少女は頷いた。
それを聞いていたのか、雄竜怪人が嘲笑する。
「ハハ! この状況で我々を片付けるだと? そんなナメた口をきけるのも、これで最後だ!」
雄竜怪人が片手を振る。と、ドラモグラーたちが動き出した。
「よし、じゃあ防御して」
「「はい!」」
僕が少女たちから離れると、少女たちは魔導障壁のドームを自分たちの周りに張った。僕はそれを確認すると、ざっと周囲を見回す。
「30体くらいか……」
15秒だけ、振動体を使おう。それくらいなら反動もほぼない。
竜怪人は後回しにして、何が通じるか見極めないといけないから。
――僕は振動体を発動した。僕の身体が光りを放つ。
「え、なに?」
シュミレの声があがるが、もうそちらは見ない。
僕はドラモグラーに一瞬で接近し、相手が反応する前に次々と真っ二つに斬っていった。斬り割れる前に、次のドラモグラーを斬る。
ドラモグラーを片っ端から斬りながら、僕は秒数を数えた。
10……11、12、13、14、15――
僕が振動体を解除した時、30体以上いたドラモグラーは全滅していた。
その身体が崩れ落ちると、黒い炎を放ち燃え消えていく。
「な――何が起きたッ!?」
雄竜怪人が、驚愕の声をあげた。
前に50人の盗賊団を2分くらいでエリナと倒したけど――今回はそれ以上に早い。多分、振動体で使える速度が速くなってるんだ。
「クオン様……凄い――」
チャミィの声が背後でする。僕は少しだけ後ろを見て、声をかけた。
「まだ安心しないで、防御は解かないで」
「判りましたわ」
返事を聞くと、僕は竜怪人たちに向き直った。
「後はお前たちだけだ。お前たちに訊きたいことがあるから斬らないでおいた。――お前たち、この家の人たちをどうした?」
僕の問いに、雌竜怪人が怒号をあげる。
「貴様ァッ! もう我々に勝ったつもりかァッ!」
雌竜怪人の身体が膨れ上がり、完全な黒竜の姿へと化した。
体高は5mほど。やはり剛魔竜ガリーモールドと比べると小さい。
と、思っていると、雌竜がそのギラついた爪で僕を斬りに襲いかかる。
「クオンさんっ!」
シュミレの声があがるなか、僕は棒剣でその爪攻撃を受けた。
かなりの衝撃だが、身体も棒剣も硬化してるから、ビクともしない。
僕は素早く身を沈めると、その黒竜の腹を放ち斬りにして横に抜ける。
竜の腹を一部斬るが、振り返ると黒竜はそれほどダメージを受けた様子もない。
と、みるみるうちに、その傷がふさがっていく。
「クク……我ら竜を、そんな傷で倒せると思ってか? 我々をあのドラモグラー程度と一緒にするな!」
黒竜が黒炎を吐いてくる。僕はバネ脚ダッシュで、それを素早く躱した。
振動体を使えば、多分、斬れるだろう。しかし反動が大きいので、あまり使いたくない。
やはり上をとって、重化斬りで首を切断するか? 竜と言えども、首を切断されれば、さすがに死ぬだろう――
「どうした! 逃げてばかりじゃ、か弱い女の子たちを守れないよ! ドラモグラーがいなくなったことだし、少女たちはワタシが喰らってあげるからね! ――いいだろう、ビヤシンス?」
「やれやれ……デューリップは食い意地が張ってるなあ」
雌竜と雄竜怪人は、そんな会話をしている。僕に対抗手段がないと思ってるのか。
振動体を使えば、こいつらの身体も斬れる。剛魔竜ガリーモールドとの戦いの際、相当に硬かったが、斬ることができた。
「……そういえば――」
あの時、ガリーモールドは僕に斬られて、そのまま逃げていった。
何故だ? あいつなら再生能力で傷を回復できるはずなのに。
「振動体のダメージは――再生できないのか?」
「何を、ごちゃごちゃ言ってるんだい!」
雌竜が尻尾を振って攻撃してくる。僕はそれを跳躍して躱した。
「かかったね!」
その空中にいる瞬間、雌竜の爪が僕の身体に襲いかかってきた。
「しまった!」
空中だと、身動きがとれない。全身を重硬化!
棒剣を立てて防御するが、爪は棒剣ごと押し込んでくる。
僕の身体が吹っ飛ばされるが、重たさからかすぐに着地する。
「クオンさんっ!」
シュミレの悲鳴があがった。僕はちらりと一瞥して、微笑してみせる。
別にやられてないからね、の意味だ。
あんまり二人を心配させてもいけないな。やはり負担は大きいが、振動体で斬るしかないか――
そう考えた時、ふと思いついた。
今まで全身を振動させる振動体ばかり使っていたが、武器だけを振動状態にするのはどうだろう?
言うなれば――振動剣。
「やってみるか……」
僕は棒剣だけを振動状態にする。棒剣がボウッと光を放つ。うん、よさそうだ。
「何してきても――お前はワタシを傷つけることはできないっ!」
「どうかな?」
僕は軽化とバネ脚ダッシュで、一瞬で雌竜に接近した。
「振動スラッシュ!」
すり抜けざまに、雌竜の腹を放ち斬りで切り抜ける。
「クク……こんな傷、すぐにでも回復――なに? 傷が――傷が再生しない!」
「やはりか……」
僕は光る棒剣を振って、悲鳴をあげる黒竜と再び対峙した。




