5 グロッサー家にて
僕の頼みに、ブラウンの髪をロングにした美人の生徒チャミィは、答えた。
「それじゃあ、今から案内してさしあげますわ」
「え? いや、君たちは授業もあるだろうから、場所を教えてくれるだけでいいよ」
僕の言葉にチャミィはツン、と澄ますと言葉を続ける。
「うちのフローラル家と、ジオのグロッサー家は昔から懇意にしてますの。わたくしが一緒に行って面会を望めば、おじ様方もすぐにお会いになっていただけますわ」
「あ……じゃあ、授業が終わるまで待つよ」
僕は少し苦笑した。と、シュミレが横から口を出す。
「い~え、クオンさん! 善は急げというじゃありませんか! すぐに行きましょう、今から!」
「え? 君も来るつもりなの?」
「もちろんです!」
シュミレはにっこりと笑うと、チャミィに向かって肩を寄せた。
――そんなわけで、僕らは学校を抜け出して街に出ると、ひたすら街を歩いた。
まあ、この子らは明らかにサボりだ。……たまには、いいだろうけど。
は、いいんだけど。
「あの~……ちょっと腕は――」
「いえいえ、クオン様、なにかあるといけませんから」
何かって何だ?
「そうそう、ちょっと役得役得!」
二人の少女は、左右から僕の腕を捉えている。
こ、こんな格好で歩いてるところをキャルに見られたら――それこそ、問題じゃないのか!
少女二人に腕を組まれた僕を、街の人たちが好奇心丸出しで見ている。
そりゃあ……そうだよね…
「あ、もう見えてきますわ。そこです」
チャミィがそう言うと、やっと腕を解放してくれた。
少し行くと、大きな屋敷がある。その鉄の門扉は装飾の施された豪奢なもので、その脇にある石柱に何か機械がついていた。
チャミィはその機械のボタンを押すと、声をあげる。
「チャミィ・フローラルです。おじ様、お久しぶりですわ」
“どうぞ”
そう声がすると、鉄の門扉が自動で開いた。
「インターホンに自動ドア?」
「音声を知らせる魔道具と、魔力で遠方から操る門扉ですわ」
チャミィはなんでもないように入っていく。
シュミレも僕の腕を離し、その後に続いた。
中庭を通ると、大きな屋敷の扉にたどり着く。そこでも自動で扉が開き、僕らは屋敷に入り込んだ。
中は野球ができるんじゃないかと思えるほどの、大広間だった。
「――やあ、よく来たね、チャミィ」
「グロッサーのおじ様、お久しぶりですわ」
奥から迎えに来た男性に、チャミィはスカートの裾をつまんでお辞儀をした。
「今日はご友人たちも一緒のようだね」
「学友のシュミレと、こちらは獅子王戦騎団のクオン様です。クオン様が、ジオについて話が聞きたいというので、ご案内したのですわ」
「そうですか、獅子王戦騎団の――私はジョージ・グロッサーです。どうぞ、よろしく」
グロッサー氏がそう挨拶したので、僕も挨拶を返した。
「クオン・チトーです」
「とりあえず、中へどうぞ」
僕らは広い客間に案内され、やたら巨大なテーブルの傍の椅子に座った。
奥方らしき人がお茶を持って出てきて、僕らの前に出す。
と、その女性はグロッサー氏の隣に座った。
「家内です。――それで、クオンさんの話というのは?」
「こちらのジオ君が、魔暴走事件以来、学校に来てないというので、何かあったのかと思いお伺いに来たんです」
「ああ……その事で――」
グロッサー氏は、なんでもないように微笑んだ。
「実はジオは、少し遠くに臨時の魔法学習を受けに行ってましてね。……学校には連絡してなかったかな?」
グロッサー氏は、隣の奥方を見る。
と、奥方が口を開く。
「わたしは、貴方が連絡してるものと……」
「おや、私はお前が連絡したものとばかり思っていたよ。いやあ、とんだ行き違いだな。――まあ、そういう訳でクオンさん、ジオについては特に心配はありません」
「そうですか。それならよかった」
そうか。無駄足だったかな。
「じゃあ、僕たちはこれで――」
僕は挨拶をして、席を立つ。何も判らない以上、長居してもしょうがない。
と、チャミィが口を開いた。
「おじ様、お父さまが――よろしく、と言ってましたわ」
「そうかね。こちらこそよろしく、と、お伝え願えるかな」
グロッサー氏が微笑を返す。
が、チャミィは突然、表情を険しくした。
「クオン様! この方たちはニセモノですわ!」
「え? どういうこと?」
驚く僕に、席を立って身構えたチャミィが言う。
「わたくしの父はとうに亡くなっていて、今の当主はお母さま。グロッサーのおじ様が、それを知らないわけはありません!」
「え、ちょっと、ちょっと! じゃあ、この人たちは――」
シュミレも慌てて席を立ち、僕の傍に寄る。
チャミィはまだ言葉を続けた。
「使用人がお茶を持ってこないので、おかしいと思ったんですわ」
「そんな処で……」
と、感心していると、目の前の夫妻の顔が変貌していく。
「どうやら、気付かなくてもいい事に気付いしまったようだね――」
「こうなった以上、ここから生かして返すわけにはいきませんわ」
夫妻の顔は爬虫類的なものに変化していき、その身体は大きく膨れ上がる。
これは――あのアルスロメリアがそうだったような、竜怪人だ。
「化物!」
シュミレが悲鳴をあげた。
その瞬間、夫妻が耳まで避けた口から黒炎を吐き出した。
まずい! 僕には魔導障壁みたいな防御手段がない。
僕だけが躱すことはできるが、そうするとこの二人を助けきれない。
「くっ――」
僕はとっさに、目の前にある巨大なテーブルを軽化して持ち上げて盾にした。無論、硬化もしている。
黒炎を、巨大テーブルで防ぎながら、僕は声をあげた。
「ここから逃げて!」
「は、はい!」
二人が客間の出口から走っていく。
僕も、テーブルを盾にしながら、その後を追った。
「待て! ――逃がすんじゃないぞ!」
グロッサー氏だった化物が、そう怒鳴る。
よく見ると、アルスロメリアほど身体は大きくなく、体高は3mくらいだ。
多分、凶魔竜アルスロメリアよりは、格下の眷属――という事だろう。
「――きゃあっ!」
チャミィの悲鳴が聞こえる。
見ると、屋敷の壁を破壊して、いきなりドラモグラーが現れたのだ。
僕はバネ脚ダッシュで駆けつけ、チャミィの頭を裂こうとしていたドラモグラーの爪を、片手を硬化して掌で止める。さらに重硬タックルで、吹っ飛ばした。
「早く、屋敷から出るんだ!」
「クオン様……」
なんか赤い顔をして、チャミィが僕を見つめている。
と、その腕をシュミレが引っ張った。
「見惚れてないで、早く逃げるよ!」
シュミレがチャミィを連れて走る。僕は携帯珠から棒剣を取り出した。
「――あぁ……」
廊下を抜けて玄関傍の大広間に出たシュミレが、声にならない悲鳴をあげた。
僕もその傍へ走る。大広間には、既に大量のドラモグラーが蠢いていた。
「――追いかけっこは、ここまでだよ」
僕らの後から――竜怪人の二人が接近してきていた。




