4 二人の女生徒
美人生徒のチャミィが何か言いかけて、僕は気になって問うた。
「どうかした?」
「ん――ちょっと確かじゃないかもしれないですけど……」
「なんでもいいから、教えてくれないかな?」
僕がそう言うと、チャミィは躊躇を見せながらも、口を開いた。
「あのエレンの魔暴走の事件は、ちょっとショックがあったみたいでした。あの事件の後、学校が再開して会った時、ちょっと元気がない感じがしたんです」
「え? そうなの?」
傍のシュミレが驚いてみせる。チャミィは真面目な面持ちで、さらに言った。
「そうよ。だから、わたくしがパジャマ・パーティーを提案したでしょ」
「え! そういう意味だったんだ~!」
シュミレが驚いている。チャミィの方は半ば呆れ顔だ。
「パジャマ・パーティー……を、する予定だったの? それは、いつの予定?」
「今週末です。キャルも嬉しそうに了承してくれました」
……その時は、キャルはまだ失踪するつもりはなかった、って事だ。
けど、何かがあって、キャルは突然、失踪した。しかも――自分から。
「あの……わたくしたちも心配なんです。クオン様は逆に、何か聞いてなかったんですか?」
不意に、チャミィから質問を受ける。僕は少しうろたえた。
「あ、いや――僕は……何も…」
「クオンさんて、キャルの恋人じゃないんですか?」
今度はシュミレが僕に訊いてくる。
「そういう……わけでは――」
「えぇ、どうしてぇ?」
突然、納得できないと言わんばかりのシュミレの声に、僕は面食らう。
「いや、どうしてと言われても……」
「だって、前に会った時、デートしてたじゃないですかぁ。二人、ラブラブな感じだったのに!」
「そう……言われても――」
急に、ぐっと二人が詰め寄ってくる。
「クオンさんはキャルのこと、どう思ってるんですか!?」
シュミレが眼を大きくして、僕を問い詰める。
「え、いや……その――」
「好きなんですか? そうじゃないんですか!?」
今度はチャミィだ。僕は困った挙句、観念した。
「それは……好きだよ」
「じゃあ、なんで恋人になろうとしないんですか?」
「それは……キャルがどう思ってるか判らないし――」
「「はぁ!?」」
二人が一斉に声をあげる。と、二人は互いを見る。
なにか納得したように、二人は頷きあった。
「そんなの……傍で見てれば判りますよ。キャル、週末近くなると嬉しそうにしてたんですよ。もうすぐ、クオンさんに会えるから」
「クオン様の話をする時のキャルは――いじらしいほど乙女でしたわ」
シュミレは少しむくれ顔で、チャミィは悲し気な顔をつくって僕に言う。
「けど……僕はキャルに、『もう、自分の身は自分で守れるようになったから、心配してくれなくてもいい。わたしは、大丈夫』って――言われたんだ」
僕の言葉を聴いて、シュミレが抗議するように言った。
「それはそうですよ。だってキャルは、クオンさんに守ってほしいんじゃなくて――クオンさんの隣に立ちたいんだから」
――え?
「わたくしたちも思いましたわ。キャルに守られて……それはありがたかったけど、本当は友人として一緒に並べるようになりたい。キャルは――クオン様には、保護者であってほしかったんじゃありませんわ」
「そ……そうなのかな――」
僕がまだ迷っていると、二人は真剣な眼差しを僕に向けた。
「そうです! キャルの気持ちを、あたしたちから話すことはできないけど――キャルの本当の気持ちを察してあげて。それに――クオンさんも、自分の気持ちを伝えてあげてください」
「そ……それは――」
僕は狼狽する。な、何故、そんな事を、今、この二人に迫られているのだろう?
と、突然、チャミィが声をあげた。
「あ! まさかクオン様――」
な、今度はなんだ?
「――告白するのが恐いとか……」
「――!?」
ぐさり、と僕の胸に何か刺されたように突き刺さった。
それか……
結局、僕は――キャルに好きだと言うだけの、勇気のない臆病な弱虫だ。
「まさか、図星!?」
「どうやら、そのようですわね」
二人して、僕を見る目つきが変わる。
「まさか、獅子王戦騎団に入るような人が、女の子に告るのが恐いとか」
ぐさ。
「ちょっと幻滅ですわ。クオン様のファンだったのに――こんな意気地なしの方だったとは」
ぐさぐさ。
言いたい放題だな、十代少女たち。けど――
「……そうだよ、君たちの言う通り。僕は臆病な弱虫なんだ。自分に自信のあるところなんか一つもないし、戦う時もいつも怯えてる。……それが、僕なんだ」
僕は二人に苦笑してみせた。
二人が驚いた顔をする。
「けど、そんな僕が少しはマシになったのは――キャルを守ろうと思ったからなんだ。キャルを守るためだけに、努力して……自分を鍛えた。獅子王戦騎団も、入りたくて入ったんじゃないし、国を守ろうとか思ったんじゃない。ただ、キャルを利用しようとする奴を、倒しただけなんだ」
僕はふと、今までやってきた事は――みんなキャルのためだったんだな、と改めて気づいた。それだけが、僕の原動力だった。
キャルと出会った、あの日から――ずっと……
「けど……そんなキャルに、もう守ってくれなくていいって言われて――僕はどうしていいのか判らなくなった。もう……僕の役目は終わりなのかなって」
「――なんですか、それぇっ!」
シュミレが、なんか涙ぐみながら声をあげる。
「クオンさん、めっちゃキャルのこと好きじゃないですか!」
「わたくしも……ちょっと感動しましたわ」
チャミィも、目を潤ませている。が、顔をきりりと引き締めると、チャミィは僕に言った。
「けどクオン様、間違ってますわ」
「間違ってるって――何を?」
シュミレが苦笑する。
「だからぁ、さっき言ったでしょ。もう、守ってもらうだけの少女じゃないんですよ、キャルは。役目が変わったんです」
「守るとかそういうのとは別に、キャルとどんな関係になりたいのか……よくお考えになってみてください」
キャルと――どんな関係に?
それは……本当は――恋人同士に……
そう思っただけで、自分の顔が熱くなる。
「あ、赤くなりましたわ」
「判りやす」
二人の少女は、僕を見て笑った。
「なんか、クオンさんて、こんな純情な感じの人だったのね~」
「それもまた、いいイメージですけど……前よりずっと、親しみが持てるようになりましたわ」
シュミレがからかうように、僕を覗き込んだ。
「ちょっとクオンさん、キャルは可愛いから、学校でもモテてるんですよ。ボヤボヤしてると、先を越されますよ! あのエレンだって、そうだったし――ジオも、ちょっと怪しいかなぁ」
「そういえば、魔暴走を起こしたエレンはともかく、ジオもあれ以来、学校に来てませんね」
――待て。誰か、事件以来、学校に来てない生徒がいる?
「ちょっと待って。そのジオって、事件から姿を見てないの?」
「あ……えぇ。来てないんですの」
僕の中に――微かな予感が生まれた。
「そのジオって生徒の自宅――教えてもらえるかな?」




