3 クラスメート
ビクトルは警戒心をあらわにしたまま、キャルに言った。
「それが……龍王――」
ビクトルは絶句している。
「うん。だけど、可愛いよ」
「そういう問題じゃないよ、キャロライン」
ビクトルは椅子の方を自分に引き寄せて、テーブルから少し離れた場所に座った。
「龍王というのは大変な存在だ。自然界において、神に最も近いのが龍王だ。その分体は、いずれ龍王そのものになるのだろう? それがどういう意味を持つか判るかい?」
キャルはいまいちピンとこずに、首を振る。
ビクトルは顔を緊張させた。
「龍王の世話をして傍におり、龍王がもし味方ならば――その者は、絶大な力を手に入れたも同然だ。キャロライン、お前は既に氷龍王の力を持っているのに加えて、龍王自体も自分の味方とすることになる。……あまりにも……強大すぎる」
「それを――また利用する人が出る…ってこと?」
キャルの言葉に、ビクトルは頷いた。
「――キャロライン、その分体は、氷龍王に戻しに行こう。私も一緒に行く」
「キグを返しに?」
キャルはビクトルに言った後、言葉を続けた。
「けど……氷龍王の処まで行くのは、凄く大変だった。途中までモンスターも出るし――わたしとお父さんだけじゃ危ないよ」
「一族に伝わる、秘密の通路がキグノスフィア迷宮にはあるんだ」
ビクトルの言葉に、キャルは驚いた。
「そんなものが……」
「――この先、その分体を連れていては平穏な生活は望めない。私と一緒にキグノスフィア迷宮に行った後で、帝国を出る旅に行こう」
キャルはビクトルの提案を聴いて、キグを託された時のことを想い出した。
キグノスフィアが死にかけて、キャルも含めた皆が氷づけになり全滅しかけた。
それを救ったのはクオンの振動体覚醒で、キャルの氷をクオンが溶かしたことに感動したキグノスフィアが、全員の氷を解除した。
そしてキャルが連れていた海龍王マルヴラシアンの分体――マルが瀕死のキグノスフィアを治癒し、キグノスフィアは一命をとりとめたのだった。
そして氷龍王の元を去る時、キグノスフィアはキャルに分体であるキグを託したのだ。その時、狼狽するキャルをよそに、キグとマルが仲良さげにし始めた。
それを見て、クオンがキャルに笑った。
“いい友達になれるんじゃないかな――その二人”
“そ、そういう話?”
そんな事があって、預かったキグを――返す。
(わたしとクオンが……命がけの想いをして、氷龍王から預かった子――。わたし一人の事情で返すなんて……)
キャルはあの時のクオンの笑顔を想い出していた。
クオンが一緒ならば、どんな事も大丈夫だと思えた時――
「わたし……やっぱり、クオンと話してみる――。色んなこと……全部、ちゃんと」
「そうかね。じゃあ、そうしなさい。けど、今日はもういい時間だから、明日にするといい。私も一緒に行こう」
キャルは首を振った。
「ううん……。わたし一人で行きたいの。一人で――ちゃんとクオンと話してみる」
「そうか……。お前がそうしたいなら、判ったよ」
ビクトルは微笑した。キャルは決意を新たに、力強く頷いた。
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
僕の勇み足――って事に気付いて、屋敷に戻る。
僕は息をついて、エリナに言った。
「今日はゆっくり休んで、明日、帝都に行ってキャルの足取りを探してみます」
「うん、それがいいよ。――と、そうだ、その際に君に頼みたいことがある」
「なんです?」
僕の問いに、エリナは答えた。
「実は、『月刊月光堂』の発売日が明日だ」
「あ――」
なんか拠点制圧に気をとられて忘れていた。
いや、二、三日動けなく可能性を考えて、必要な段取りは関係各社に手配済みだ。
だから心配はないはず――のワケない。
「あの……僕が意識を失ってる間、トラブル起きませんでしたか?」
「ちょっとね。まあ、それほど問題はないよ」
エリナが眼鏡の奥で微笑しながら言う。
あ~……これ、結構、色々あったやつだ。仕方ないとは言え、社長業はほったらかしだったからなあ――
けど、今さらそれを言っても仕方ない。せめて、これから必要なことに全力を尽くそう。
「それで、頼みたいことってなんですか?」
「うん。実はマーブックから連絡があって、それほど宣伝してなかったタミナ地域からの注文が殺到したらしい。それで500部ほど早急に帝都に届けてほしいんだ。まあ、発売日は他の地域より遅れるが、帝都からの搬送は手配できてるらしい。帝都に行く際に、それをマーブックに届けてほしいんだ」
エリナはそう言うと微笑んだ。僕は頷く。
「判りました。じゃあ、それを届けてから、キャルの探索をします」
「ボクも行く!」
突然、傍にいたネラが声をあげた。
が、即、それをエリナが却下した。
「いや、それはダメだ。一応、警察協力の特別措置でネラは特に拘束してないが、君はまだ自由に動き回っていい立場じゃない。君は留守番だ」
エリナの言葉を聴いて、ネラはふくれっ面をする。
と、エリナはさらにネラに言葉を続けた。
「実は君にもやってもらいたい事がある」
「ボクに? なに?」
エリナは人差し指をたてる。
「どうも、オーレムから西側の地域にも品切れが予想されていて、明日、此処にある在庫をとりに来ることになってる。それと、バックナンバーも欲しいらしいので、それを来た人に渡してほしいんだ」
「ようは店番だね。――いいよ」
ネラは割合、悪い気分でもないらしい。
僕は一晩ゆっくり休むと、翌日の朝、大量収納型携帯珠を持って帝都に出掛けた。
すっかり体力が戻ったので、バネ脚ダッシュで二時間ほどかけて帝都に着く。
まずマーブックに荷物を届けると、僕はキャルの通っていた学校に赴いた。
担任のララ・ハミングという、若い女性の先生に話をし、お昼の休憩時間に生徒から事情を聴いてもいい許可を貰った。
キャルの教室に入る。と、生徒たちが、ザワッとざわついた。
「あ……獅子王戦騎団の――クオンさんじゃない?」
「本当だ!」
「本物だぜ!」
うわぁ……なんか、こんな目立つつもりじゃなかったんだけど……
そう思ってると、一人の生徒が駆け寄ってくる。
「クオンさん!」
ん、どっかで見た事ある子だ。そうだ、キャルといた時に、話しかけてきた子だ。
「君、キャルの友達の?」
「はい! シュミレです!」
すると、その後ろからももう一人、生徒が近寄ってくる。やたら美人の子だ。
「あ、君もそうだよね?」
「はい、チャミィです」
「君たちに、キャルの事を訊きたかったんだ。……ちょっと、落ち着いて話せるところ、ないかな?」
僕は苦笑しながら二人に言うと、二人は互いに顔を見合わせて頷いた。
二人に連れていかれたのは、校庭の一角にある大樹の下だった。
「たまに、三人で此処で話しとかしてたんです」
栗色のショートヘアの、シュミレと名乗った背の高い女生徒がそう言った。
チャミィがさっとシートを芝生に敷く。
僕らはそこへ座った。僕は二人に、改めて訊ねる。
「キャルのいなくなった日……なにか変わった様子とかなかったかな?」
「警察の人にも訊かれたんですけど――変わった様子とかは……」
シュミレが困った顔をしながら首を振る。
「そっか……じゃあ、学校に来てたキャルって、普段どうだったんだろう? 学校は楽しそうにしてたのかな?」
僕の問いに、シュミレは答えた。
「あたしたちの知ってる限りでは――楽しそうにしてた、と思いますけど……」
「あ…けど――」
ブラウンのロングヘアのチャミィが――何か言いかけた。




