表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

307/319

2 キャルの涙


 自分は白夜の青炎を使って、黒炎の魔暴走を止めた。役に立つつもりだ。


 けど、カサンドラは征圧作戦のことを何も言わなかったし、自分に手伝ってくれ、とも言わなかった。


(わたしが力不足だから? 子供だから? ……頼りないから?)


 獅子王戦騎団に任命されても、自分はその力を本当に認められてるわけじゃない。

 ――キャルは唇を噛んだ。


(わたしは――必要ないんだ……)


 胸を締め付けられる想いに、キャルは息を吐いた。


「帝都の方は問題なく拠点を制圧し、どうやら竜退治まで行ったらしい」

「竜を? ……凄い」

「うん。しかしオーレムの方は、警察の方にも負傷者が出たようだ。そちらは竜にも逃げられた――と、街では噂になっていた」


オーレムの征圧は、多分、ボルト・スパイクの管轄だとキャルは思った。が――


「もしかしたら……クオンも、その作戦に協力したかも――」


 そして、負傷したのがクオンだったら。

 そう考えると、キャルはいてもたってもいられなくなった。


「――お父さん! オーレムに行きたい。なににしたってクオンはオーレムにいるはずだし、クオンの様子を確かめたいの」

「判った。お前がそう望むのなら――そうしよう」


 ビクトルは真面目な顔で、そう頷いた。

 それから帝都を出発した父娘は、馬車でオーレムへと向かう。

 しかしオーレムに着く前に夜が更け、その手前の街で二人は宿をとった。


 そして翌朝、二人はオーレムに向かった。

 

「市場に行って、朝食になるものを買ってくる。街の噂も聴いてこよう。少し待ってなさい」


 ビクトルはそう言うと、フードを深く被って出て行った。

 やがでパンを抱えて戻って来たビクトルは、キャルに言った。


「獅子王戦騎団のクオンくんも――どうやら作戦に参加したようだ」

「え! それで、大丈夫なの?」

「どうも……意識不明で還ってきたらしい――」


 キャルはそれを聞くと、立ち上がって馬車から飛び出そうとした。

 が、その手をビクトルが掴む。


「待ちなさい、キャル!」

「放して、お父さん!」

「行ってもいいが、私と一緒に行こう。それに――その耳と髪を隠しなさい」


 ビクトルはそう強く言った。

 キャルは帽子を被って耳と純白の髪を隠すと、馬車を出た。


 が、キャルはふと立ち止まって、ビクトルに訊ねた。


「――クオン、何処にいるの?」

「なんでも、屋敷に運ばれた……と言っていたが」


 元カサンドラの屋敷で、エリナが買った処だ。キャルは場所が判った。

 走り出したかったが、ビクトルが「目立っては駄目だ」と言うので、逸る気持ちを抑えて歩いて行く。


 もう屋敷に着く。そう思った時、その屋敷から人が飛び出してきた。

 ネラだった。泣きながら、屋敷を飛び出してきたようだった。


 その後に――それを追うように、クオンが出てくる。


(クオン!)


 思わず声が出そうになるのを、抑える。

 その後ろを追いかけると、クオンは人気のない路地に入っていった。


 そこには――ネラが壁の方を向いて立っている。

 クオンが、その後ろ姿に近づいていく。


(やめて、クオン。それ以上、その子に近づかないで!)


 キャルは声にならない叫びを、胸の中であげた。


「――敵だったんだし……信用されなくて当たり前だって言ってるじゃん!」


 ふと、ネラの怒鳴り声がした。

 それに対して、クオンが何か言っている。その声までは聞こえない。

 

 ネラが振り返ると、クオンを見上げていた。

 その時に気付いたが、ネラは前に見た時より小さくなっている。

 

 と――ネラがクオンに抱きついた。

 キャルは息を呑む。


(やめて)


 ネラはクオンに抱きついたまま離れない。


(やめて――抱きつかないで)


 クオンはまだ、自分からネラを抱いてはいない。

 しかしネラがその胸の中ですすり泣きを始めると――クオンはネラの背中と頭に触れて、そっと抱きしめた。


(クオン!! その子を――抱きしめないで!)


 キャルはもう見てられなくなって、後ろを向く。

 そこにあったのは、父親ビクトルの姿であった。


「お父さん……」

「キャロライン――」


 ビクトルは困ったような顔をした。

 キャルは下を向くと、そのままビクトルの脇を抜けて駆け出した。


(やっぱり! やっぱり――)


 キャルは泣きながら走った。

 馬車に飛び込むと、膝を抱える。

 少し経つと、ビクトルが戻ってきた。


「――とりあえず、宿をとろう。そこで少し落ち着こう」


 ビクトルはそう言うと、馬車の中にキャルを残して、自分は馭者席に座り馬車を動かし始めた。

 がたん、と音がして馬車が動き出す。キャルの眼から涙がこぼれてきた。


 ビクトルに連れられて宿に入ると、ビクトルは言った。


「私は少し、様子を探ってくる。……お前は、少し休んでなさい」


 キャルは声も出せずに、ただ頷いた。

 ビクトルが出て行くと、キャルはベッドに倒れるように突っ伏した。

 もう涙は出なかったが、何もする気が起きない。


(クオンはやっぱり……誰にでも優しいんだ。あの子――ネラにも優しくしてた……。わたしだけが特別なんかじゃないんだ――)


 深くため息をつく。

 と、テーブルに置いたポシェットが、がさこそ動き出す。


「あ……」


 キャルがそれに気づいて眼を向けると、ポシェットから光が飛び出す。


「キュー」


 白い鳥のような姿の氷龍王の分体――キグだった。

 キグはふわっとキャルの元まで飛んでくると、心配するように一声鳴いた。


「心配してくれてるの? ありがとう……」

「キュー」


 キャルはベッドの上で身体を起こすと、傍に来たキグを抱きしめる。


「――あれ? ちょっとおっきくなった?」

「キュー」


 前は両手に収まるくらいのサイズだったのに、明らかに一回りほど大きくなっている。


「不思議ね。あなた、あんまり食べないのに」

「キュー」


 キグは三日に一度くらいしかご飯を食べず、後はずっと寝ていることが多かった。

 そのままずっと携帯珠に入れていて、ほとんど起きないので、ビクトルと会ってからも外に出してなかったのだった。


「そろそろお腹空いた? 何かあげようか」

「キュー」


 キグが嬉しそうに鳴く。

キャルは荷物をあさると、残っていたクッキーを取り出す。


「ベッドの上じゃなんだから――こっちにおいで」


 キャルはキグを抱いたまま床に降りると、テーブル傍の椅子に座らせる。

 皿にクッキーを出すと、キグが美味しそうに食べ始めた。

 と、そこにビクトルが戻ってくる。


「――あ、おかえりなさい、お父さん」

「それは!」


 挨拶をよそに、ビクトルはテーブルについているキグに驚愕の声をあげた。


「あ……話した氷龍王の分体。キグって呼んでるの」

「まさか――連れているとは……。屋敷で飼っているのだとばかり思っていたが」


 ビクトルは恐れをあらわにして、氷龍王の分体を凝視した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ