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4 悪い報告


 僕は脚元でシーツに顔を埋めているネラに訊いた。


「それよりさ、ここは何処なんだ?」


 ネラが鼻まで赤くして顔をあげる。


「エリナの屋敷。ボクも記憶はないんだけど、拠点でボクらが意識を失って、待機してた警察官たちが馬車を手配して、ボクらをオーレムまで運んだらしい。で、ボクとクオンはエリナの屋敷に運ぶように――って、ランスロットが手配したって聞いた」

「聞いたって……誰に?」

「エリナ」


 ネラは鼻をすすりながら、答える。僕はふと思って、ネラに訊いてみた。


「お前、腕がなかったろ? 誰に食べ物を食べさせてもらったんだ?」

「……エリナ」


 そうか――。

 僕は思わず微笑んだ。


 エリナは前にネラを治してくれと頼んだ時、反対したけれど。

 今度はわざわざ、自分でネラの回復を手伝ってくれたんだ。


「お前……今、あの人は偉くて忙しい立場なんだぞ。感謝しろよ」

「してるよ……うん。――あ! クオンが起きたら連絡するように、って言われてたんだ!」


 ネラは慌てて、傍らのテーブルに置いてあったマジホを手にする。

 登録番号を押すと、すぐに耳にあてた。


「あ、エリナ? うん、クオンが起きた。うん、判った」


 ネラが電話を切る。なんだ、僕に代わらないのか?


「エリナさん、なんだって?」

「すぐに来るって」


 そうか。――と、僕はネラを見て、ふと気が付いた。


「……なんかお前、縮んでないか?」

「あ、うん。身体が小さい方が、腕を回復するのに、たんぱく質が少なくて済むから少し小さくしたんだ。12、3歳くらいの感じかな」


 前の幼女よりは大きいが、17,8歳くらいになってた最近よりは、少し小さめだ。明らかに年下の感じがする。


「もう、身体は大丈夫なのか?」

「うん……。ボクも運ばれて一日目は寝てて、体力は回復した。それで昨日、エリナにお肉を食べさせてもらって、腕を回復したんだ」

「それで……今日は、僕のことを看てたのか?」


 ネラはこくり、と頷いた。


「適当に自分も休みながら、クオンが起きたら連絡をくれ――って言って、エリナは出て行ったんだ」


 それで僕の足元で寝てたわけか。と、その時、部屋のドアが開いた。


「――クオンくん!」


 エリナだ。僕は笑いかけた。


「おはようございます、エリナさん。ご心配をおかけしました」

「うん。まあ、とりあえず起きてよかった」


 エリナが眼鏡の奥で微笑む。と、エリナが言った。


「それより、お腹空いてないか? 君、丸二日何も食べてないからな」

「――そういえば、めっちゃ空いてます」


 僕の言葉に、エリナが微笑んだ。


「下に降りれるかい? もうお昼だから、ランチにしよう。――ネラも」

「あ、うん」


 ネラは素直に頷く。……なんか、こいつ。エリナにはいやに素直な感じだな。

 僕らは階下のリビングに降りると、テーブルを囲んだ。


「ちょうどいい時間だと思って、傍のパン屋から適当に買って来た」


 そう言うとエリナは、テーブルの上に色々なパンを並べた。

 サンドイッチもあるし、肉をはさんだケバブ風のものや、甘いリンゴの乗ったタルト風のものもある。


「実は傍にあるパン屋が美味しくてさあ、もう、これを発見した時は『なんて、幸せ!』って思ったんだよ。好きなのとって食べて!」

「はい。じゃあ、いただきます」


 僕はハムとチーズの挟まったサンドイッチを手にとった。

 ネラは大きめの鶏肉の炒めたものが挟んであるものをとる。


「ボク、これがいいや」


 やっぱり、たんぱく質重視なのか。

 パンにかぶりつくと、確かに美味い。滋養が身体に染み渡る感じがした。


「美味しいですね、これ」

「だろ? ……まあ、食べながら聴いてほしいんだけど――いい報告と悪い報告がある」


 エリナが神妙な面持ちで言った。


「いい報告はともかく、悪いってのが気になりますね」

「いい報告からしよう。帝都の拠点に征圧に向かったレガルタス班だけど、無事に帝都の改造手術の拠点を攻め落とせた。Dr.ロウ、それから赤目のビヤルは死亡。それに――剛魔龍ガリーモールドも、カサンドラが倒した、ということだ」


 ネラが眼を大きく見開く。


「……あの…ガリーモールドを?」


 ネラの驚きを伴った呟きに、エリナは頷いた。


「こちら側の死傷者はゼロだそうだ。赤めのビヤルとドラモグラーが自爆攻撃をしかけたんだけど、スレイルさんが新魔法で全部防いだらしい」

「あの自爆攻撃を――」


 僕も絶句した。竜も相当な強さだったはずだ。

 カサンドラとスレイルのペアは、間違いなく今、帝国最強のコンビかも。


「それがいい報告なんですね。……それで、悪い報告ってのは?」

「うん……」


 エリナは曇り顔で、少し口ごもった。


「実は……キャルちゃんが行方不明だ」

「えっ!?」


 僕は思わず、椅子から立ち上がった。


「ど、どういう事ですか? いつから?」

「実は、二日前――君たちが拠点制圧に行った、その日からだ。そして、カサンドラの屋敷に、こんな手紙が届けられていた」


 エリナはそう言うと、テーブルの上に一枚の紙を出す。それには、こう書かれていた。


『すこし、みんなと離れて考えたいことがあります。心配しないでください。

                              キャル・ポッツ』


 ――キャルの字だ。見覚えがある、間違いない。それだけは、はっきり判った。

 僕は力が抜けて、もう一度椅子に座り込んだ。


「……それで、もう二日間、帰ってきてない――って、ことなんですか?」

「うん。今、カサンドラが警察官を動員して探してる。けど、まだ連絡はない」


 どうしたんだ? どういうことなんだ?

 ……きっと何か――大変な事態に巻き込まれてる。僕が助けにいかないと!

 僕は再び立ち上がり、表へと駆け出した。


「クオン!」


 後ろからネラの声がする。だけど僕は構わずに走り出した。

 玄関を出て表に出ると、僕は脚をためた。バネ脚ダッシュだ。


「――クオンくん! どうするつもりだ!?」


 走って来たエリナが、僕に声をあげる。僕はちらとだけ向いて、答えた。


「帝都に行って――キャルを探します」


 僕はバネ脚ダッシュで駆け出した――が、その瞬間に前に倒れて転がった。


「――う……く――」

「クオン! まだ、体力が回復してないよ! まだ無理だってば!」


 ネラが駆け寄ってきて、倒れた僕の身体を起こす。

 言われてみると、まだ脚に力が入らない。


「く……そ……」


 僕は立ち上がって、もう一度、走りの姿勢をとる。

 脚にうまく力が入ってない。バネ脚は、脚の強度を頼りに前に進む走行法だ。こんな強度では、走れない。


 そんなことは判ってはいたが、僕はなんとか誤魔化して走ろうとした。

 しかし、自分の脚が誤魔化しきれずに、また転倒する。


「クオンくん! 焦る気持ちは判るけど――今の君じゃ無理だ。それに、君に何か心あたりでもあるのか?」


 エリナに言われて、僕は倒れたまま振り返った。

 眼鏡の奥から、エリナは僕を見つめている。僕は、その視線を逸らした。


「闇雲に探して見つかるんなら、警察が見つけてる……少し落ち着くんだ」


 僕は――どうしようもない焦りに唇を噛んだ。


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