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2 再会


 キャルはその日一日、何事もなく授業を受けた。暴走事故の本人だったエレンは休みだったが、ララ先生の話では、数日中には出てこれるだろうという話だった。


 授業が終わり、シュミレがキャルに声をかける。


「じゃあ、キャル、パジャマ・パーティーの件、カサンドラ様の了解とってね」

「カサンドラ……様…」


 キャルはちょっと違和感を感じて復唱する。けど、シュミレは大真面目な顔で言った。


「え? だって獅子王戦騎団の英雄で、警察庁長官なんだよ? 『様』に決まってんじゃん!」

「そ……そうか――」

「そうじゃなくったって! あたしカサンドラ様の大ファンだし! カサンドラ様、お美しいわあ~、素敵よねえ!」

 

 シュミレはそう言うと、両手を握って恍惚の表情を浮かべる。

 それを横目で見るチャミィが、口を開いた。


「そんなに憧れてるなら、キャルの家の方がいいんじゃないの? もしかしたら、カサンドラ様に会えるかもよ」

「きゃーっっっ!」


 シュミレが顔を赤くして、両手で頬を包む。


「そんなそんなそんな! そんな、恐れおおい事できますか! いいんだよお、カサンドラ様は、たま~にその麗しのお姿を見るだけで」

「はいはい、じゃあうちでいいのね。――それじゃあ、キャル、ノウレム先生の処に行くんでしょ?」


 チャミィの問いに、キャルは頷いた。


「じゃあ、キャル、また明日ね」

「バイバ~イ!」


 そう言って去る二人を見送って、キャルは自分も下校しようとした。

 しかし、正門前にロニーとシンディが待っているかと思うと気が重い。キャルは思わず、ため息をついた。


「――どうしたの、そんなため息なんかついて」


 不意にかけられた声に、キャルはその方を見た。クラスメートのジオだった。

 黒髪を短くしてるジオは、にこやかに笑っている。


「それより遅くなったけど、エレンのこと、ありがとう。あいつに代わって礼を言うよ。君がいなかったら、エレンは魔暴走で死んでいたかもしれない」


 キャルは神妙な顔で押し黙った。その内心では、自分のためにエレンが危険にさらされたかもしれない、と思っていた。


「……なんか浮かない顔してたから、声かけにくくて――帰ろうとしちゃったんだけどさ。けど、さっき帰ろうとしたら、外で見た事ないおじさんに声をかけられたんだ。その人が言うには、『キャル・ポッツという子に、伝えてくれ』って」

「――何を?」


 キャルは首を傾げて、ジオに訊く。ジオは答えた。


「『ビクトルが来た』と」


 キャルは眼を見開いた。


「……そ、それって、どんな男の人だったの?」

「う~ん、深いフードを被ってたから、よく判んなかったけど――」


 ジオは少し首を傾けて言った。


「――前髪が、白かったような……」


 キャルは血相を変えてジオに訊ねた。


「その人、何処にいるの!?」

「あ、『裏門で待っている』って言ってたよ」

「ありがとう!」


 キャルはそれだけ言うと駆け出した。


(まさか……まさかそんな……本当に、そうなの?)


 キャルは校内を駆け抜け、裏門を出た。

 辺りを見回す。と、少し離れた処に、フードを被った男を見つけた。


 キャルは恐る恐る近づこうとする。が、向うの男もキャルへと歩み寄っていた。

 男の顔が判る距離まで近づくと、男が顔を上げる。


「キャロライン……」

「――お父さん!」


 そのフードから覗いた顔――それはかなり、やつれきって変貌していたが、キャルの父、ビクトル・シャレードの顔だった。


 だが、キャルは警戒した。誰か――何かの罠かもしれない。


「本当に……お父さんなの?」

「キャル――小さい頃、よくベルニカの花をダルゴの丘に採りにいったじゃないか」


 男は微笑みながら、フードを脱いだ。その髪はキャルのように純白で、頭の上に猫耳がついている。

 キャルの見開いた眼に、涙が溢れてきた。


「――お父さん……」

「キャロライン、心配をかけたね。ずっと心細かったろう。すまなかった」


 キャルの父、ビクトルは神妙な顔でキャルに言った。

 キャルの眼から涙がこぼれる。


「お父さんっ!」


 キャルは父親に抱きついた。ビクトルもそれを迎え、抱きしめ返す。


「お父さん……生きてたんだね……」

「バルギラ公爵に捕まって、僻地の地下牢に監禁されてたんだ。だが、最近になって見張りが全員いなくなり、飢え死にしかけたところを近隣の村の人に発見されて助かった。それで初めて……バルギラ公爵が叛乱を起こし、皇帝軍に倒されたことを知ったんだ」


 ビクトルはキャルの顔を見つめながら、そう話した。


「そこでお前がどうなったかを探っているうちに、どうやらバルギラ公爵を倒した中に、お前がいるらしい、という事が判った。しかもその戦功で、獅子王戦騎団に選抜された――と」


 キャルは涙を拭きながら、頷いた。


「立派になったな……キャロライン。とっても誇らしいことだと、お父さんも思うよ。だが――それは不安材料でもあった」

「不安材料?」


 キャルは父親を見上げると、首を傾げた。


「そうだよ、キャロライン。それはお前の力が知れてる、ということだ。お前の力は非常に強大だ、だからこそバルギラ公爵を倒すこともできたのだろうが……。しかし、お前がその力を持っている限り、帝国はいつ何時、お前の力を利用しようとするかしれない」

「けど……皇帝は、何もしなくていいって――」


 ビクトルは首を振った。


「そんな事を口先で言っても、大人というのは、すぐに言葉を翻して自分に都合のいいように他人を利用するものだ。キャロライン、お父さんと一緒に、この国を出よう。それが――お前が安全に生きていくための、唯一の道だ」

「この国を……出る?」


 キャルは戸惑いを隠しきれない。

 と、ビクトルは微笑を浮かべた。


「まだ、話が早かったね。けど、とりあえず落ち着いて話そう。ずっとお前を探していて、ようやく我が娘に会えたんだ。お父さん、こんな嬉しいことはないよ」


 ビクトルはそう言うと、再びキャルを抱きしめた。

 抱きしめられながらも――キャルは戸惑いを抑えきれない。


「キャロライン、これを被りなさい」


 ビクトルはキャルに帽子を渡して言った。

 キャルは素直に受け取ると、それを被る。濃い目のグレーのニットキャップで、猫耳が隠れる。


「髪もしまうように被りなさい」


 ビクトルに言われて戸惑いながらも、キャルはそうした。

 ビクトルもフードを被る。


「よし、じゃあ行こうか」

「待って、わたし正門に警護の人が待ってるから――」

「駄目だ!」


 ビクトルが強く言って、キャルはビクンと震える。


「その人たちに見つからないように、此処から遠ざかるんだ。いいね」

「けど……」


 戸惑いを見せるキャルに、ビクトルはその両肩を掴むと、真剣な面持ちで言った。


「キャロライン――お前の本当の安全と、幸せのためだ。今はとにかく……お父さんの言う事をきいてくれ」

「う……ん…」


 キャルはその強い眼にあてられ、頷く。

 ビクトルは辺りを見回すと、キャルの手をとり歩きだした。


「あ――」


 その握られた手の感触に、覚えがある。間違いなく、父親ビクトルの手だった。


(お父さんだ……間違いない)


 キャルは戸惑いの中、父に連れられ学校を離れた。


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