第五十一話 キャルの失踪 1 剛魔竜ガリーモールドとの戦い
剛魔竜ガリーモールドの巨大な尾の攻撃を、レガルタスは躱す。しかしカサンドラは、それを回避しようとしてない。スレイルは思わず声をあげていた。
が、カサンドラはそれを敢えて避けなかったのだった。
カサンドラの火攻域がさらに勢いを増し、その手に持つ剣が炎を帯びて巨大になる。カサンドラは向かって来る尾に向けて、炎の剣を振り下ろした。
「紅蓮両断破!」
勢いを持った尾がそこから断ち斬られ、斬られた尾が宙を舞って地面を転がる。
尾を斬られた剛魔竜ガリーモールドが、絶叫のような咆哮をあげた。
「レガルタス、膝を破壊するぞ」
「おう!」
レガルタスはカサンドラの呼びかけに応じると、俊敏な動きでガリーモールドの右膝に棒の一撃を繰り出した。
「内撃突!」
棒の先端がガリーモールドの巨大な膝に当たる。と、その内側から光が生じ、ガリーモールドの膝はダメージを負った。ぐらり、とその巨体が傾く。
「オオオォォォッ!」
カサンドラが巨大な紅蓮剣を一閃させる。
その炎の剣は、黒竜の左膝をいきなり両断した。
片足が斬られたガリーモールドが、絶叫をあげる。
そしてその巨体が、轟音とともに地面に沈んだ。
「ととめだ! ガリーモールド!」
地面に横たわるガリーモールドに向かって、カサンドラが紅蓮剣を振り上げながら跳躍する。
その姿を見上げたガリーモールドが、口から黒炎を吐いて迎撃した。
「火攻域!」
しかし炎の壁を身にまとったカサンドラは、その黒炎の中を切り裂いてガリーモールドに迫る。
カサンドラはその紅蓮剣を真っ向から脳天に叩きつけた。
「紅蓮両断破ッ!」
炎の剣が、竜の頭部にまっすぐに入っていく。
やがてその頭部が、左右に割れた。
「斬ッ!」
さらに横に大きく振った紅蓮剣が、ガリーモールドの首を薙いだ。
二つに割られていた頭部が、左右それぞれに宙を舞う。
その左右の頭が落ちると同時に、黒竜の巨体が地面へと倒れ込んだ。
地面へ着地したカサンドラは、厳しい顔で黒竜を見つめた。
さすがの剛魔竜ガリーモールドも、沈黙して動くことはなかった。
「見事だ、長官」
レガルタスが歩んできて、カサンドラに声をかける。
カサンドラは火攻域を解除して、ようやく安堵の笑みを浮かべた。
「うむ。任務完了だな」
カサンドラはちらりとスレイルを一瞥すると、スレイルが親指を立てて微笑んでいる。カサンドラは微笑して頷いて見せた。
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エレンの暴走事件で林間合宿が中止になり、その翌々日に通常授業が再開されることになった。キャルは浮かない気持ちを抱えて、学校に行く準備を整える。
その傍から、男女のペアがキャルに言った。
「放課後、ノウレム先生の特別講義に行く際に、我々が同行します」
そうキャルに告げたのは、警察官の20代前半の男性、ロニーだった。
「ノウレム先生の授業が終わったら、ご自宅まで送り届けます」
それに続けて、髪をきっちりまとめた若い女性が生真面目な顔で言う。こちらはシンディという女性警官だった。
「そこまでしてもらわなくても……大丈夫だと思うんですけど……」
キャルは恐縮して言った。正直なところ、その警護体制は監視されてるようで気乗りがしなかった。
しかしキャルの気持ちをよそに、ロニーは爽やかな笑顔で述べた。
「いえ! レグナ長官のご命令ですから、心して警護にあたらせていただきます!」
シンディも、気真面目な顔で頷く。
その様子に、テーブルについてコーヒーを飲んでいた美女のビジョンが呟く。
「さすがカサンドラ、やる事が堅いわあ~」
「ワタシたちにもマジホくれたら、ワタシがテレポートで送り迎えするのに」
オレンジジュースを飲みながら、オレンジ髪をツインテールにした少女、ポートが口にした。と、それにビジョンが言葉を返す。
「まだちょっと、生産が追いついてなくて、必要数しかないんだよね。もうちょっと待って――とのこと」
「ま、いいけどね。書き込みに、しばられない生活に慣れちゃったし」
ポートは澄ました顔でそう呟いた。
ふと、キャルが気づいて口を開く。
「そういえばカサンドラ、随分早いね。もういないの?」
「忙しいんじゃないかな。まあ、長官様だしね」
ビジョンが笑って見せると、キャルはなんとなく頷いた。
学校へ行くキャルを、ロニーとシンディが警護して歩く。キャルはちょっと閉口した。
(こんなにしてもらわなくても……わたし――頼りないんだろうか……)
キャルは少し、その扱いに気落ちする。しかし二人は校門まで来ると、キャルに告げた。
「それでは、放課後にまたお迎えにあがります。正門前でお待ちしてますので」
「わかった……」
キャルはうかない返事をすると、教室へと向かった。
教室に到着して席に着こうとすると、いきなり声がする。
「キャルぅ~、会いたかったよぉ!」
いきなりシュミレが抱き着いてきた。
背の高いシュミレの胸に包まれながら、キャルは声をあげる。
「ちょ、ちょっとシュミレ!」
「もう、あたしたち、キャルのおかげで助かったんじゃん。改めて、ありがとう~!」
そう言われて、キャルはシュミレに抱きしめられたまま表情を堅くした。
(違う――本当は、わたしがいなかったら皆を危険にさらさなかったかもしれないんだ……)
キャルはそういう想いを感じていたが、口にはしなかった。
が、二人の様子を見ていた美人のチャミィが、傍で腕組みをしている。
「まあ、キャルに感謝する気持ちは判るけど……困ってるじゃない」
「そんなこと言ったって、楽しみにしてた林間合宿はなくなっちゃうし、もうガッカリだよぉ。みんなでご飯つくったりとか、夜中に色々話しして夜更かしするとか――凄い楽しみだったのに!」
「そんな気楽なイベントじゃないでしょ? モンスターと戦って死ぬ目に合うかもしれなかったのよ」
チャミィが呆れ顔で言うと、シュミレはにぃ、と笑った。
「そっか、そういえばそうだった。へへ……」
「そうですわね……代わりに、今度うちでパジャマ・パーティーをする、というのは…どうですか?」
チャミィは腕組みしたまま、少し顔を赤らめて言った。
それを聞いたシュミレに、歓喜の表情が浮かびあがる。
「え! パジャマ・パーティー! いい、いいよ!!! 絶対にいい!」
「パジャマ・パーティーって……なに?」
キャルはきょとんとした顔で訊ねる。
と、シュミレが勢い込んで、キャルに説明した。
「みんなでお菓子とか持ちよって、パジャマに着替えてお泊り会するの! ね、キャルもいいと思うでしょ!」
「う……うん」
キャルは少し顔を赤らめながら頷いた。
このチャミィのうちに、シュミレと自分がお泊り会にいく――思い描いただけで、すごく楽しそうだった。
「じゃあ、キャルもいいのよね。それで、いつにする?」
「え、今度の週末にしようよ。翌日休みだったらあ、夜更かししてもいいし」
シュミレが上機嫌で提案する。チャミィは、キャルに向かって訊いた。
「キャルも、それでいい?」
「うん。いいと思う……」
キャルは少し赤くなりながら、頷いた。チャミィが微笑んだ。
「じゃあ、それでいきましょ。――楽しみね」
キャルは内心、凄く楽しみだ、と思った。
と同時に、すぐに何とも言えないもやつきが、胸に生じるのを感じた。




