5 赤目のビヤルvsスレイル
スレイルは自分の魔法の出来具合に満足して、微笑した。
その様子に、ビヤルが憤りをあらわにする。
「き、貴様ァッ! よくも舐めたマネを――」
ビヤルは怒り狂って、次々と大量の紫髑髏を生み出すが、それが片っ端から迎撃される。スレイルは呆れたように言った。
「だからさあ、同じ攻撃をしても魔力の無駄だと思うよ。しかもぼくの方が魔力消費量が少ない上に、魔力保持量が高い。もう、投降した方がいいよ」
スレイルの言葉を聴くと、ビヤルは三白眼気味の眼で、憎悪の塊のような視線をスレイルに向けた。
「貴様のその舐めた口調……昔から、貴様のその態度が気に入らんかったのだ!」
「そう言われてもさ。まあ、好き嫌いは仕方ないとしても、それをあからさまにするのは大人げないんじゃないのかな?」
「黙れええええええぇぇぇぇっ!!」
興奮に眼をギラつかせたビヤルが、怒号をあげる。
ビヤルはスレイルを指さした。
「貴様の方が、魔力が高いだと? ……ケケケッ! それが貴様の限界だ、スレイル! わしは格段に進歩しているのだ!」
そう言うとビヤルの顔が変貌していく。
顔が薄黒く染まっていき、その眼は元のゴーグルをつけた時のような真っ赤な色に染まっていった。
「……竜芽を受けたんだな」
スレイルは苦い表情を見せた。それは、自分の知人が道を誤ったことに対する、深い忌避感から出た表情であった。
が、ビヤルは竜怪人に変化を遂げると、勝ち誇ったように声をあげた。
「殺してやるぞ! 貴様ら全員、皆殺しだ!」
ビヤルが声をあげると、その身体が紫の巨大な髑髏の炎に包まれる。と、それに黒炎が混じり、黒ずんでいった。
その巨大な髑髏の眼窩から、紫と黒の光線が発射される。
「む、これはいけない!」
スレイルは迎撃球を消すと、魔導障壁を展開した。
見えない力場の壁に、紫と黒の光線が衝突する。しかし、光線の威力は障壁をじりじりと押していた。
「ケッケッケッ! どうだ、スレイル! わしの魔法を受けきれるか!」
「確かに……凄い力だ――」
スレイルが渋い表情でそう呟いた瞬間、その障壁が破られた。
「うわぁっ!」
一瞬にして閃光と爆発が起こり、スレイルの身体が吹っ飛ばされた。
「ケッケッケーッッ!! やった! スレイルに勝ったぞ! わしの方が、あの天才魔導士スレイルより、上だ!」
ビヤルの狂喜の声に、カサンドラはその方を振り向いた。
「スレイル――?」
「よそ見か!」
カサンドラが気をとられた瞬間、ガリーモールドが巨大な剣で斬りかかってくる。
が、カサンドラの火攻域に阻まれて、剣を押し込むことができない。
「なんだと……この俺が斬り込むことができないとは――」
「破ッ!」
驚くガリーモールドに、レガルタスが棒で襲い掛かる。
ガリーモールドは、それを飛んで躱した。レガルタスはカサンドラに言う。
「長官、こっちの戦いに集中してくれ」
「しかし……」
スレイルが気になる。それをカサンドラは抑えきれなかった。
と、レガルタスが笑う。
「あいつが、あんな半端者にやられる奴か? スレイルを信じてやってくれ」
「レガルタス……」
カサンドラはもう一度、スレイルを見た。と、倒れたスレイルが、苦笑しながら身体を起こす。
「いやあ、思った以上の威力だったな。二重障壁にしてなかったら、危なかった」
スレイルはそう苦笑すると、カサンドラに向けて手をあげてみせた。
「まったく――」
カサンドラも苦笑する。と、カサンドラはガリーモールドに向き直った。
「判った、レガルタス。彼になんの心配もいらないということが」
「なら、いい」
レガルタスは微笑むと、棒をヒュンと振って、構え直した。
一方、その周囲ではロンと3班の班員が、向かって来ようとするドラモグラーたちを迎え撃っていた。
ロンが背中の矢筒から矢を取り出すと、弓を引いて撃つ。
「向うの黒炎が届く前に――何体いけるかな?」
ロンは素早い手さばきで、次々と矢を放った。
その矢が正確にドラモグラーの眉間に直撃していく。
向かって来るドラモグラーが、その途中で次々と倒れる。
外傷は少ないが、ロンに撃たれたドラモグラーは、どれもピクリとも動かない。
「神経毒と細胞壊死のブレンドが効いたらしいな」
ロンはにやりと笑った。
しかし、その弓矢の合間を縫って、何体かのドラモグラーが遂に迫ってくる。
「よし、3班! 力の見せどころだぞ。長官たちに負けるな!」
「「「おう!」」」
3班の班員が声をあげ、剣や槍などそれぞれの得物を持ってドラモグラーに応戦する。ロンも弓を背負うと大型ナイフに持ち替えた。
「さあて……オレも行くか」
ロンは眼帯の顔で不敵に笑うと、目の前のドラモグラーに掌を向けた。
いきなり、眩い閃光がさく裂する。
ドラモグラーがその眩しさに怯んだ刹那、ロンは既にそのドラモグラーの肩に後ろから乗っていた。
「魔法の使い方も、威力だけじゃねえんだよ」
ロンはそう笑みを浮かべると、ナイフでドラモグラーの首を掻っ切った。
相当の深手に再生が追いつかず、ドラモグラーが絶命して倒れる。
「おい! 狙うなら、頭部。そして首だぞ!」
ロンはドラモグラーから飛び降りながら、3班員に声をあげた。
ロンの指示を聞いた3班の班員たちが、次々とドラモグラーを倒していく。
その様子を見た、ビヤルが声をあげた。
「ケケケ……どうやらそっちの連中は、まだまだそれほどでもない奴らだな?」
突如、怪人と化したビヤルの背後に、黒が混じった紫髑髏が数十個現れる。
ビヤルはスレイルの方を向いて口元を歪めた。
「お前は二重障壁でわしの爆炎を防いだが――あの連中に同じ真似ができるかな?」
「お前! ……まさか、班員を攻撃するつもりか? やめろ!」
「お前には――これを防ぐことはできん!」
勝ち誇った声をあげたビヤルが両手を振ると、一斉に紫髑髏が班員に向かって飛来していった。
スレイルは眼を見開いたが、すぐに真剣な面持ちに戻る。
「やはり――使う時が来たか」
スレイルは掌を班員たちに向ける。
が、その瞬間、髑髏が一斉に襲い掛かり、凄まじい爆発を起こした。
ビヤルが勝ち誇った声をあげる。
「ケーッ、ケッケッケ! お前のせいで、未熟隊員たちは消し炭と化したわい!」
「それはどうかな?」
静かなスレイルの声とともに爆煙が消えていく。
そこには――巨大なすりガラスあるいは鏡でもあるような壁が出現していた。
「な! なにぃ!? なんだ、それは!」
そのすりガラスの向うに、無事な姿の班員たちが見える。
眼を見開いて声をあげたビヤルに、スレイルは答えてやった。
「亜次元硬質体の壁」
「な……なんだ、それは?」
「運動エネルギーを粒子レベルで亜次元に分散し、吸収する壁さ」
スレイルの説明に、ビヤルは理解が追いつかない。
「わ……訳の判らんごたくを並べるなあぁっ!」
ビヤルはスレイルに向かって、再び紫と黒の光線を発射する。
しかし、今度はスレイルの前に、その鏡のようなすりガラスのような壁が現れた。
ビヤルの光線は壁に当たり、それがそのまま消えていく。
「な……なんだ、それは――?」
「だから説明したじゃないか。もっと簡単に言えば、あらゆる攻撃を無化する壁だ。ただしこれは魔導障壁のような力場でも、皇帝のホールのように異次元の穴とも違う――物理的な防御システムなんだ」




