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4 イオラの密命


 燃え上がる研究資料の炎に照らされながら、黒髪の長いポニーテールをイオラは揺らした。


「高い志を持つ長官は嫌いじゃない。けど、アタシが従うのはただ一人――うちのボスだ」

「……一体、何の話をしておる?」


 ドクロのような外見のDr.ロウが、首を傾げる。

 それにイオラが冷笑して答えた。


「長官はお前を生かして捕縛せよと命令した。けど、アタシはうちのボスから密命を受けていてね……」


 ゆらり、と双刀を持ったイオラが近づく。


「お前のような奴は生かしておくと、帝国の非人道的な一派が利用したがるだろう。そうすると、お前はこれまでの悪事に対し、なんら罰を受けることなく、のうのうと暮らす可能性がある。……うちのボスはね、崇高なる長官のために汚れ役を引き受ける覚悟で、その配下に入ったのさ」


 イオラの言わんとすることを察したDr.ロウは、青ざめた。


「ま、待て! ワシを殺したら、帝国の損失になるぞ! ワシは組織の情報も知っておる!」

「そんな事は判っている。けどね――あんたを生かしておくな、というのが、うちのボスからの密命だよ」

「ヒッ! ヒィィィィ――」


 背中を向けて逃げようとするDr.ロウに、一瞬で追いついたイオラは、刀を一閃させた。

 ボロリ、とその首が落ちる。


「ま、抵抗されたんで、やむなく――って報告だね」


 イオラは静かに冷笑を浮かべた。


*  *   *


 通路を進むと、もはや跡形もないほどに城が破壊された場所に出る。

 そこはもう、ほぼ瓦礫の山と化した中庭のような状態だった。


「誰じゃあ! よその城を、こんなにぶち壊したのはぁっ!」


 狂ったような怒鳴り声が聞こえる。

 カサンドラは声の主に眼を向けた。赤いレンズのゴーグルをつけ、髪を逆立ててる男――赤目のビヤルだった。


「お前じゃな! スレイル!」


 ビヤルが、スレイルを指さす。スレイルは悪びれる様子もなく、呟いた。


「ま、そうなんだけどね」

「……中々の威力だったが、あれくらいで俺が死ぬと思ったら大間違いだぞ」


 傍にいた屈強な体つきで、黒髪を短く切り揃えた男が声をあげた。

 その男に、レガルタスが声をかける。


「剛魔竜ガリーモールドと見受けたが?」

「いかにも。ニンゲンどもよ、我が命を狙った罪――決して許しはせぬぞ!」


 そう言うなり、ガリーモールドは背中からコウモリ型の黒い翼を生やした。

 そしてレガルタスたちの元へと飛来してくる。


「俺と長官はガリーモールド、ビヤルはスレイル。残りはロンの指揮で、ドラモグラーを叩け」

「了解!」


 ロンはそう返事をすると、腕を振って3班の班員たちと横に展開した。

 カサンドラは頷いて、レガルタスに従う。その動く一瞬、スレイルを振り返った。


 スレイルが不敵な微笑を浮かべてみせる。カサンドラも笑みを返した。


「燃え尽きよ!」


 ガリーモールドが、口を開けて黒炎を吐きかける。

 レガルタスはそれを俊敏に躱したが、カサンドラは敢えて突っ込んだ。


「火攻域!」


 カサンドラの全身が紅蓮の炎に包まれる。

 その深紅の炎は、黒炎を寄せ付けなかった。


「紅蓮破砕突!」


 燃えるカサンドラは、炎をまとった鎖剣を飛ばした。

 その凄まじい勢いの剣は、ガリーモールドの胸に突き刺さる。


「なにっ! 我が胸を貫くだと!」

「爆炎!」


 鎖を伝って、さらなる業火がガリーモールドを襲う。

 ガリーモールドが、呻き声をあげた。


「ぐおおぉぉぉっ―――」


 呻き声が、この世のものとは思えない咆哮に変わる。

 と、その身体から黒炎が立ちのぼり、紅い炎が打ち消された。


「……この竜の俺を炎で焼くだと――許せん! よくも、ニンゲンの分際で、そんんな真似をしてくれたな!」


 黒炎を揺らめかせながら、ガリーモールドが怒号をあげた。

 が、カサンドラは臆した様子もなく、敵を睨みつける。


「私の炎は……お前より熱いぞ、剛魔竜ガリーモールド」

「さすが、長官だ。あの炎に対抗するとはな」


 レガルタスが笑みを浮かべた。

 ガリーモールドを前に、カサンドラとレガルタスは一歩も引けを取らなかった。


 スレイルはそこから少し離れて、赤目のビヤルと距離をとって対峙している。

 ビヤルが口を開いた。


「ケケケ……スレイル、積年の恨み、今こそ晴らしてくれるわ!」

「――ん? ぼく、何か恨まれるようなことをしたかい? 君とは初対面だと思うけど」


 スレイルは首を傾げた。

 と、ビヤルがにぃと口の端を吊り上げる。


「ケケ、この姿では判らんじゃろうな。この顔に――見覚えがあるじゃろう!」


 そう言うと赤目のビヤルは、赤いゴーグルをむしりとった。

 中から、三白眼気味の目つきの悪い顔が出てくる。


 しかし、それを見てもスレイルは首を傾げていた。


「……悪いけど、覚えてないな」

「なんだと! わしだ! 宮廷魔導士だったバリアッドだ!」


 そう怒鳴るビヤルの声を聴いても、スレイルはまだ判らない。


「あ~、僕が宮廷魔導士だった頃の知り合いか……悪いけど、あんまりいい思い出がないんで、忘れてるな」

「ふざけるな! お前に魔法勝負を挑んで、負けたがために宮廷を出たバリアッドだ! 覚えてないとは言わせんぞ!」


 ビヤルは憤怒の表情で大声をあげる。

 しかしスレイルは苦笑しながら、後頭部に手をあてた。


「う~ん、そういう人、当時いっぱいいたんで……あんまり覚えてないや」

「貴様ァッ! 許さん……許さんぞ!」


 ビヤルは両手の指を立てて、手を広げた。

 と、その背後に紫色の髑髏が幾つも浮かびあがる。


 するとスレイルが、ぱぁっと晴れたような顔をした。


「想い出した! 下品な紫髑髏の爆炎魔法を使った相手がいたよ! 君だったのか。いや、髑髏みたいな外見上のこけおどしに魔力を裂くより、爆発と爆炎の展開制御に術式を工夫した方がいいと助言したはずだ」


 スレイルの悪気のなさそうな言葉をきき、ビヤルの怒りは頂点に達した。

紫の髑髏が一斉にスレイルに向かって発射される。


「貴様みたいな小僧が――上から物を言うなぁっ!」

「やれやれ……あまり変化が見られないな。人の話をきかないからだよ」


 スレイルは人さし指を前に出した。

 その指の前に、ボールくらいの光の球が現れる。


「迎撃光破!(インターセプター・フラッシュ)」


 光球から幾筋もの光線が発射され、それらの全てが飛来してくる髑髏を正確に撃ち抜いた。スレイルにたどり着く前に、全ての髑髏が途中で爆発して消える。


「なに!? わしの火炎髑髏を全て迎撃するだとっ!」

「前に対戦した時は、一つずつ迎撃したと思うけどね。この迎撃魔法は、自動で迎撃する上に、最小限の魔力消費で済むんだ」


 スレイルはそう言うと、楽しそうに笑みを浮かべた。


「あの時はまだ子供だったからね~、闇雲に魔力に頼るような魔法ばかり使ってたけど。ぼくも成長したんだよ」

「ふ……ふざけるなぁっ!」


 ビヤルがより多い数の髑髏を出現させ、それらが無軌道に見える飛び方でスレイルに襲いかかる。


「どうだ! この軌道ならば、狙い撃ちできまい!」

「どうかな?」


 スレイルが首を傾げた瞬間、光の球から出る光線が、次々と髑髏を迎撃していった。やがて髑髏は、一つも跡形もなく消えた。

 スレイルは頷いて、笑みを浮かべる。


「うん、やはり熱感知して自動迎撃するシステムがいいようだ」


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