2 帝都拠点――制圧作戦
上空に飛び立つ鳩を見送ると、ジージョは大きめの霊鏡を取り出した。そこにどれかは判らないが、鳩からの光景が映っている。
「フォフォフォ、スレイル頼みましたぞ」
「うん」
スレイルは大きめのスケッチブックを取り出すと、鉛筆が何本か入った筆箱をそこに置いた。スレイルが力場魔法で鉛筆を浮かせて操り始めると、5本の鉛筆はスケッチブックに向かって絵を描き始めた。
「――拠点の俯瞰図か」
見ていたカサンドラが、感心の声を洩らした。鉛筆が描いていたのは、上空から見た城の見取り図で、非常に正確なものだった。
ジージョが筆箱から赤鉛筆を取り出すと、スケッチブックに自ら書き込みを始める。
「此処と此処、それに此処にも……見張りが立ってますな」
「じゃあ、次はオレの番だな」
不意に黒い眼帯をしているロンが、そう声をあげる。
と、イオラがそれに続いて口を開いた。
「うちのチームは、こっからが長いんだよ。じゃあ、アタシは少し寝るから。終わったら、起こしな」
長い黒髪をポーニーテールにしているイオラはそう言うと、携帯珠からコットと呼ばれる簡易ベッドを出すと、そこに横になって寝始めた。
カサンドラは作戦前に寝るその豪胆さに、目を丸くした。
それを見ていたレガルタスが笑う。
「まあ、索敵時間中はイオラにはする事がないからな。いつもこうなのさ」
「それで……索敵をするのか?」
「――そ。それがオレの役目」
カサンドラの問いにロンが答えると、ロンは自らの眼帯を上に上げた。
と、その眼から、眼球がひとりでに出てくる。
「げ――」
「オレの『遊眼』は、俺の脳に直接見た光景を送る魔道具でしてね」
その出てきた眼球は、鏡で出来たかのような表面色に変わる。
よく見れば判るが、一見すると周囲の風景を写しこんでいて見落としそうだった。
ロンが力場魔法で操ってるらしい遊眼は、ふわふわと浮きながら飛来していった。
「じゃあ、頼むぜジージョの旦那」
「うむ」
ロンが眼を閉じると、ジージョがその背中に手を当てる。
と、今度は霊鏡に、そのロンが見てる光景――遊眼からの映像が映り始めた。
スレイルはカサンドラに微笑んでみせる。
「遠景や全体把握はジージョの役目。けど、内部の索敵はロンの役目なんだ」
「――どうして、ジージョのファントムで、そのまま索敵をしないのだ?」
カサンドラの問いに、ロンが笑いながら答えた。
「ファントムによる遠視は、相手が霊力使いだと悟られる。けど、この遊眼を魔法で操るやり方だと、相手に悟られにくいのさ」
「なるほど」
カサンドラが感心してる間に、スレイルはスケッチブックの別のページに、内部の見取り図を描き始めた。遊眼は結構な速さで、天井近くの高さを飛行しており、城の内部へと入り込んでいく。
さらにその画面に写り込んだ敵の数を、スレイルは正確に描きこんでいった。
その一連の作業に、カサンドラは呆然とするほど感心した。
「これが……Aランクパーティー、エターナル・ウィスルのやり方――」
「敵の情報を正確に知ること。作戦はそこからたてる」
カサンドラに対して、レガルタスが微笑んでみせた。
「ここが本部だな――赤目のビヤルがいる」
ロンが呟くと、霊鏡に赤いゴーグルをした男が映っていた。
その隣に、見るからに屈強な体つきの男がいる。
「こいつは雰囲気が違うな……これが恐らく、竜」
レガルタスの言葉に、カサンドラは眼を見張った。
「竜――破壊の三魔竜のうちの一体ということか。ネラからの話に寄れば、これはそのネラと戦闘をして圧倒した剛魔竜ガリーモールド……」
「ま、そういう事だな」
レガルタスが不敵に笑ってみせると、索敵を続けていたロンが口を開いた。
「――大体、把握したぜ、レガルタス」
「よし、ジージョもロンも戻してくれ。――イオラ、始めるぞ」
レガルタスの声に、イオラがあくびをしながら起きる。
「さて……やっと出番かい」
スレイルの描いた見取り図を広げると、レガルタスは口を開いた。
「山城の入り口は、堀を渡る正面門と、山側の裏門。この二ヶ所から侵入するのを、3班で行う。1班は山城正面に廻りこみ、2班、3班は裏手に廻り山から背後をつく」
「了解だ」
カサンドラが頷く。と、レガルタスは言った。
「――が、その前にまず、敵の本拠地にいきなり仕掛けよう。スレイル、久しぶりに頼んだぞ」
「いきなり使うの? やれやれ、かなりの魔力消費だけどね」
「敵は強力な上に、数も推定では57だ。できるだけ減らした方がいい」
既に見取り図の中には、敵を確認したポイントが描きこまれている。
レガルタスはそう言うと、見取り図の城の本塔の三階中心部を指した。
「此処に剛魔竜ガリーモールド、および赤目のビヤルらしきボス格がいる。ここをまずスレイルの遠距離魔法で一撃加える。と同時に、正面門から1班が突入。敵の陽動を行う。これはジミーが指揮をとり、城に深入りせずに、ある程度、敵を集めたら撤退」
レガスタスは城の正門を指す。脇にいた1班の班長ジミーが頷く。
「ドラモグラーは想定Bランクモンスタークラスで、この時の対戦予想数は13。1班の戦力で圧倒するのは難しいから、必ず深追いはせずに撤退するんだ」
「判りました」
ジミーの返事を聞くと、レガルタスは視線を戻す。
「1班が突入した1分後に2班が突入。これをイオラ、お前が率いてくれ」
「判ったよ」
レガルタスの指示に、イオラが不敵な笑みをみせる。
「目指すのは此処、西塔の施術室だ。ここにDr.ロウと思しき人物がいる。これを捕獲するのが狙いだ。が、抵抗された場合は仕方ない」
「生死問わず…ってことだね」
イオラは微笑してみせた。
そしてレガルタスは、スレイルとロンを見た。
「その2分後に3班と俺、スレイル、ロン、カサンドラの本隊が突入。陽動により人数の減った本部を叩く。以上が作戦だ。各自いいな?」
「む……ジージョはどうするのだ?」
カサンドラがふと疑問に思い、口を開いた。
「フォッフォッフォ、吾輩は外で待機。それが基本ですぞ」
「負傷してもジージョの元にさえ帰還できれば、治癒が受けられる。ジージョの旦那の安全確保は、第一優先事項だからな」
戻ってきた遊眼を眼に戻しながら、ロンがそう言って笑った。
レガルタスが皆を見回して、口を開く。
「それじゃ作戦開始だ!」
「「「おう!」」」
そこから本隊は、山の裏手から敵の城の背後に廻る。
ある程度接近したところで、ロンが遊眼を上空に飛ばす。
「よし、いいぜ、スレイル」
「じゃあ、行こうかな」
スレイルは携帯珠を開き、手の中に一本の大きな魔法杖を取り出す。
それは木製で、先の方が太くなっている杖だった。
「……なんというか――古式ゆかしき魔導士の杖という感じだな」
カサンドラが感心して口にする。スレイルは笑った。
「雰囲気があっていいだろう? 僕の極大魔法を使うには、ちょっと必要なんだ」
「極大魔法?」
スレイルは軽く笑うと、上空に向けて杖を掲げた。
そのスレイルの身体から、オレンジ色の魔力のオーラがたちこめる。
「大いなる天空に眠りし炎の息吹よ、今、目を覚まして我に集え!」
魔法杖から出た光線の先――山の上空で、雲がうねるように渦巻いていく。
その雲の集まりの内部から光が洩れ始め、中から巨大な光の球体が現れた。
「な…なんだ、あれは!? ――20m……いや30m……」
「極大魔法――『終局の光球爆裂弾』!」
巨大な光球が地上に落ちていく。その光球が城に激突した時、凄まじい爆発を起こして周辺が光りに呑まれた。
そのあまりの破壊力に、カサンドラが呆然と眼を見開く。
「こ……こんな――威力だと……」




