第五十話 帝都警察帝都管轄局 1 残酷な世界に
ガドが眼を閉じたまま洩らした言葉に、スーは細い眼を見開いた。
「な! 何を言ってるんですか、こんな――人前で……」
スーは言いながら、顔を赤らめる。
しかしその様子に、ランストットが注意をした。
「待て? ガドの意識がなさそうだぞ。……これ、うわ言じゃないのか?」
「た、確かに」
ミレニアが同意する。
と、ガドはまだうわ言を続けた。
「スー……オレの傍に…ずっといてくれ……」
「もう……」
スーは泣き笑いしながら、その涙を手で拭った。
そしてまだ意識が戻ってないガドの首に抱きつく。
「――こんな時なんですから…この人は。わかりました……ずっと傍にいますよ」
そう言えば――なんか話があるとか、ないとか話してなかったか?
ガドが言いたかった話って、これだったのかな?
「あ……和んでる場合じゃない! ランスロット、君も振動体になるんだ」
「判った」
ランスロットが出した手を、僕はがっしりと掴む。
振動体! ――ランスロットが同調してるのが判る。
「む……確かに、身体が再構成されていく感覚が判る」
10秒もしないうちに、ランスロットの呟きが聞こえ、僕は振動体を解除した。
「う……」
頭痛がして、めまいがする。立ち上がろうとして、僕はよろけた。
「大丈夫か、クオン!」
ランスロットが駆け寄って、僕の身体を支えた。
僕は覗き込むランスロットに、笑みをみせる。
「ありがとう、ランスロット。僕は……ネラを助ける――」
僕は倒れているネラに歩み寄った。
焼け焦げた人形のように、両腕を斬られたネラが横たわっている。
「ネラ……しっかりしろ――」
僕はしゃがみこんで、ネラの身体に触れる。
――もう、息をしていない。もう遅いのか? もう間に合わないのか……?
「クオンさん、まだ諦めないで! やれるだけの事をやりましょう」
ふと見ると、スーが傍にいる。スーは細い眼で微笑んだ。
「スー……だけどネラは――」
僕たちを裏切って、マルをカリヤに渡してしまった。
僕がネラを助けたくても――みんなにそれを同意してもらえるとは思ってない。
だが、そこにランスロットの声が響いた。
「彼女のおかげで、竜芽を解除できてドラモグラーの自爆を免れた」
「最後にどう行動したかは別として――この子のおかげで、みんな助かったのは間違いないわ」
ミレニアがそこに続ける。二人は僕に、頷いてみせた。
「みんな……」
「ガドにやったみたいに、振動体にした上でわたくしの治癒術を施してみましょう」
スーが僕に言った。僕は頷いて、ネラの斬られた腕をとった。
「振動体!」
「治癒!」
ネラが振動体になると同時に、スーが治癒術を施す。
斬られた腕は戻らないにしても――突き刺された腹や、火傷は修復されないか?
そう思って僕は、振動体を続ける。けど、火傷はまだ回復しない。
スーもガドを蘇生しようとして、ほとんど霊力を使い切ってるはずだ。けど、そこを頑張ってくれてる。
「ネラ、起きろ! 目を覚ますんだ!」
僕はネラに呼びかけた。
「起きろ! 世界に復讐するんじゃなかったのか! こんな処で――運命に負けていいのか!」
「う……」
焼け焦げた顔のまま、ネラがうっすら眼を開ける。
「意識が戻った!」
「あ――」
けどその瞬間、スーが力を使い切って倒れる。
その身体をミレニアが支えた。
「クオン、もうスーはダメみたい……」
「ありがとう、充分だよ」
ネラの意識が戻っただけでも、スーの力があっての事だ。
「ネラ! 自分で細胞増殖して、火傷を修復するんだ。皮膚呼吸を回復するんだ!」
「う……うぅ……」
ネラが歯を食いしばる。ダメだ、変化がない。
もしかして――たんぱく質が足らないのか? 何かないか? たんぱく質――
僕はふと、自分の懐にネラの斬られた腕が一本入っているのを想い出した。
「ネラ! お前の腕がある。これを吸収するんだ!」
「あか…な…い……」
小さい声でネラが呟く。あかない? ――火傷が固まったせいで、口が開かないってことか? じゃあ、どうしたら、たんぱく質を吸収させられる?
「――ネラ、腕を振動体にしてお前の体内に直接送り込む。それを吸収するんだ」
僕の言葉に、ネラが小さく頷く。
僕はネラを振動体にしたまま、ネラの腕を持ち振動体にした。
その腕を、腹に近づける。
互いに分子振動を起こしてる状態で――二つを融合するんだ。
少しづつ――ネラの腕が腹に入っていく。
「こんな事が……可能なの?」
ミレニアが驚きの呟きを洩らした。
けど僕は、そのまま腕を腹に押し込んでしまう。
「う……」
「ネラ、頑張って吸収しろ。そして、細胞増殖するんだ」
小さく呻くネラに、僕は言った。
「ネラ、ここにいるみんなが、お前を助けてくれた。世界は残酷な場所だけど……敵ばかりじゃない。お前を助けてくれる人だっている。今度は幸せになって……世界を見返してやるんだ!」
僕はネラに呼びかけた。
ネラが唇をきつく結ぶ。
「ンンンン―――」
ネラが声をあげる。と、その顔が変貌していく。
火傷の後が消えていき、白い肌が現れる。
顔から――腕、身体に変化は広がっていき、火傷痕が修復されていった。
髪はまだ短いままだったが、ネラがうっすらと眼を開けた。
「クオン……」
「大丈夫か――ネラ……?」
ネラが小さく微笑する。その眼から、涙が一筋こぼれた。
「よかった……」
僕は安堵の息をついた。もう――振動体を維持できない。
そうだ、向うの班はどうなったろう?
カサンドラたちはうまくやってるんだろうか――
そんな事が脳裏をよぎった瞬間、僕は意識を失った。
△ △ △ △ △ △ △ △
カサンドラは、レガルタス率いる元エターナル・ウィスルのメンバーに加え、警察帝都管轄局からの選伐メンバー15人を連れて、帝都の郊外にある小高い山城の傍まで来ていた。
その古城は大分前に放置された城だったが、ブラック・ダイヤモンドが偽名を使って入手していた城だと判った。傍の山林に潜んだカサンドラたちは、そこで作戦会議を始めていた。
「それじゃジージョ、頼む」
「フォフォフォ、お任せあれ」
太目のジージョが笑うと、いきなり沢山の鳩の分霊体を出現させる。
その鳩が一斉に、上空へ飛び立った。レガルタスが、カサンドラに言う。
「まず敵の勢力を把握する。――作戦は、そこからだ」




