6 生き埋めからの脱出
一縷の望みをかけて手にしたマジホから聞こえてきたのは――ミレニアの声だ。
“ミレニア、生きてるんだね! みんなは?”
“落盤してきた時、とっさに氷壁ドームを作ったの……スーもガドも、ランスロットもいるけど……みんな弱ってる。それに……多分、空気が薄くなってきてる”
ミレニア自身も弱々しい声でそう言った。
“なんとか脱出する手立てはない?”
“……無理…。ドームを解除したら、かなりの重量の落盤に押し潰されそう…”
ミレニアの声を聴いて、僕は考えた。
なんとか、脱出する手立て――皆を救う手立てを考えるんだ。
まず――ミレニアたちがいる場所を探さないと。
“ミレニア判った、マジホを切って。電話を鳴らし続けるけど、出ないで鳴らしっぱなしにして”
“……判った…”
力ない返事がすると、電話が切れる。
僕は意識を背中に集中した。
地盤を軟化させる要領で、背中側の土砂を柔らかくするんだ。
僕は柔らかくなった岩盤を背中で押すように上半身を起こし、そして再び硬化させて岩盤を安定化させた。
「よし――この要領で、トンネルを作っていけばいいはずだ」
だが、先にミレニアたちを見つけないと。
僕はマジホの灯りを頼りに耳を岩盤に当てて、探る。
微かに……岩を伝って、呼び出し音が鳴り響いている。
「こっちか」
僕はその方向に向かって、手で軟化して岩をかきわけ、空間を立ってもいいくらいに広げる。抱きかかえてるネラは完全に意識を失っていた。
「ネラ――もう少し頑張ってくれよ」
僕はネラを背中に背負うと、その上からコートのベルトでネラの身体を固定した。
ふと足元に見ると、斬られたネラの腕が一本落ちている。僕はそれを拾って、内ポケットにしまった。
その状態で、呼び出し音が聞こえてくる方向に、トンネルを掘り進める。
しばらく掘り進む。岩盤は脆く、軟化して掘り進んだ後に硬化していかなければ、すぐに崩落するに違いない。急いだが、慎重に作業を進めた。
呼び出し音が近くなる。
と、手に冷たいものが触れた。氷壁だ!
「ミレニア!」
僕は氷壁に穴を開けて、中に呼びかけた。
「クオン……」
弱々しい声だが、ミレニアの返事がある。
穴から覗いてみると、倒れているガド、その上に覆い被さっているスー、そしてやはり倒れているランスロットに、座り込んでいるミレニアがいた。
「少し待ってて―――地上へトンネルを作る」
「……お願い…」
ミレニアが弱々しく頷いた。
僕は今度はそこから左方向に向かい、斜め上に向かってトンネルを作り出す。
緩いスロープを描いて、地上に向かう道を作るのだ。
かなり長い道を作ったが、50mほど掘り進んだとき、不意に手ごたえがなくなった。
外の明りが入ってきて、急に明るくなる。
「外だ! 地上へ出られたぞ!」
僕は外へ出ると、ネラを寝かせた。
「みんな、待ってて!」
僕はスロープを降りて氷壁ドームまで戻る。氷壁を軟化して穴を開けると、中のミレニアに呼びかけた。
「地上までの道が出来た。みんなを連れて上に上がる!」
「クオン、まずガドとスーを上げて」
「判った!」
僕はガドの巨体を軽化して抱えると、しゃがんでスーに言った。
「スー、背中に乗って同調して」
スーが力を振り絞って、僕の背中に乗りコートのポケットに足を入れる。
首にスーの腕が巻き付くと、スーが同調して軽くなった。
「よし、行くよ」
僕は二人を連れて、スロープを上がる。
この坂もそれほど頑丈とは限らない。早く救出しないと。
地上にガドとスーを寝かせると、僕はまた下に降りた。
ランスロットを抱えて、ミレニアに背中に乗ってもらう。
二人を地上へ運び出すと、やっと安堵した。
しかし、脇ではスーがガドの傍で泣いていた。
「スー……」
ガドは全身に焼け焦げた跡があり、特に抱き着かれて爆発した前面の身体が、かなり抉られていた。――もう、息をしておらず、意識もなかった。
「ガド……この事件が終わったら――話しがあるって、言ってたじゃありませんか……」
スーがそう呟いて、涙を流した。小さな声で、泣いている。
ガドが死んだ――これで、本当に終わりなのか?
「スー、待って! できる限りのことをやってみよう」
「もう……治癒をかけても治らないんですわ。治癒は自己治癒力を活性化させるもので、ここまで身体が損傷してしまうと――」
スーが弱々しく、僕に答える。けど、僕は言った。
「振動体を使うと……傷が再生してることに気付いたんだ。多分、分子レベルで再構成する力が働くんだと思う。ガドを振動体にしてみるから、スーは一緒に治癒の力でガドの気力を復活させて」
僕の言葉に、スーが細い眼を見開いた。
「――判りましたわ。やってみます」
僕は頷くと、振動体になってガドに触れた。
意識がないからすぐに同調できる。ガドの身体も振動体になった。
「今だ、治癒をして!」
「はい!」
ガドが振動体になる中、スーが治癒の光を浴びせた。
見ると、胸や腹の欠損部が、自動修繕されていく。
「傷は回復していってる。後は――ガドの気力次第だ」
「ガド! 起きてください! この事件の後に――話しがあるって言ってたでしょう! わたくしはまだ、貴方から話しを聞いてません!」
スーが大声で叫んだ。
するとミレニアも傍に這って寄ってくる。
「ガド、起きなよ! スーが呼んでるんだよ!」
ミレニアが泣きながら叫ぶ。
ふと、倒れていたランスロットが身体を起こした。
「此処は……俺たちは――助かったのか?」
「まだだよ、ランスロット! ランスロットも一緒に、ガドを呼んで!」
ミレニアに言われ、ランスロットも傍へ来る。
「ガド、起きろ! 俺たちは――スーが、お前を待ってるぞ! 早く目覚めるんだ!」
「ランスロット、軽い電気ショックを与えて」
僕はふと思いついて、ランスロットに言った。
ランスロットが驚きの顔を見せる。
「なに? そんな事をして大丈夫なのか?」
「心臓に刺激を与える蘇生法で、僕らの世界じゃ常識だ。いいからやって!」
「判った!」
ランスロットが手を触れて電気ショックを与える。
バン、とガドの身体が跳ね上がる。
「もう一回!」
再び、バン、とガドの巨体が跳ね上がった。
と――、ガドが大きく息を吸い込んだ。
「ム……う――」
「ガド!」
「ガド! 大丈夫、ガドが呼吸をし始めた。これで大丈夫だ!」
僕の言葉に、皆に歓喜の表情が溢れた。
と、ガドが半目の状態で声をあげた。
「スー……」
「はい、此処にいますよ。なんですか?」
スーが涙を拭きながら、笑顔で答えた。
「スー……愛してる――」
スーは驚いた直後、顔を真っ赤にした。




