副島八雲
「ブリアイル王国の方々か?」
とその男は聞いた。眼光が鋭い。腰の刀の鍔に軽く左手が添えてあった。緊張感が漂う。いつでもその刀は抜けそうだった。
一応ミカサの艦尾にはブリアイル王国の国旗を掲げていたので怪しまれているわけではないのだが、物々しい雰囲気が漂っていた。
サンダース少佐が歩み出て
「その通りであります。こちらにおわす方はブリアイル王国空軍参謀長カクセール伯ウィリアム・ハントリー閣下であらせられます。今回は駐在大使ミハエル・クラーキン子爵共々参りました」
と二人を紹介した。
「おお、左様か。それはわざわざご足労頂きかたじけない。私、ここの別当職を預かる副島八雲でござる。お待ち申しておりました」
と男はさっきまでの厳しい表情が一気に和らぎ笑顔で応えた。彼はこの国の政治において相当高い地位にある役職についていた。
「こちらこそ今回の交易の儀、了解いただき誠にありがとうございます。我が国王も大層お喜びであります。これからも両国の絆が更に固く結ばれる事を願っておりますぞ」
とカクセール伯爵も笑顔で応じた。
「まことにその通りですな」
と副島八雲も頷いた。
そして
「それにしても閣下や大使殿が、この飛空艇で我が国へお越しになるとは思いもしませんでしたな」
とブリアイル王国一行の陰に隠れるように立っていたアキトを見て副島は言った。
「ほほぉ。シバたちを御存じか?」
予想外のひとことにカクセール伯は驚きの表情を見せた。
シバ達がこの国へ来たことがあるのは知っていたが、飛空艇を見ただけでシバの名前が出てくる程とは伯爵も思っていなかった。
「よく存じております。ただ近頃は、とんと顔を見せなくなっておりましたが」
と副島は笑って言った。着陸した時に漂っていた緊張感はこのせいだった。まさか副島八雲もミカサがブリアイル王国の大使を運んでくるとは思っておらず、『何故この艇がブリアイル連合王国の国旗を?』と不審に思っていただけだった。
「左様か?」
と、アキトに視線を移して聞いた。
「ここに来る用件が無かっただけですよ」
とアキトは笑って誤魔化した。
このトウイという国は鎖国状態にある訳ではなかったが、交易を盛んに行う国ではなく、限られた国としかその門を開いていなかった。そのおかげもあってこの国は大陸の西側諸国からは『神秘の国』とも呼ばれていた。
そういう事情もあってシバたちもここに来るような案件も無く、ただ単にそれが理由で足が遠のいていたというのが現状だった。
ちなみにシバとアキトが初めてこの国へ来た理由は、飛行可能になった飛空艇ミカサをシバが嬉しがって、何の目的もなく東へと飛ばしていたらこの国へ辿り着いたというのが真相である。
この国はラシール帝国とは違うが、『力を尊ぶ』国でもあった。国としての力よりも個人の武人としての強さを尊ぶ国であった。そこでシバとアキトの二人の『強さ』はこの国では歓迎されるべき『強さ』であった。少なくともこの国の人間は誰一人としてシバとアキトに勝てなかった。彼ら二人はチート持ちである。負けるはずが無かった。
「お主らは勘兵衛のところへは挨拶に行くのじゃな?」
と副島はアキトへ声を掛けた。
「そのつもりですが……」
「うむ。行ってやれ。喜ぶであろう」
「はい。それでは我々はここで失礼いたします」
と言ってアキトはカクセール伯達に挨拶をすると、そのままミカサのクルー達と一緒に飛空艇に戻って行った。
その後ろ姿を見送りながらカクセール伯爵は
「勘兵衛殿とは?」
と聞いた。
「なぁに、彼らの師匠筋にあたる人ですよ。我が国の最高峰と言われる武人です。勘兵衛とは通称で名は榊真刀斎と申します」
と副島は答えた。
「ふむ。彼らに師匠がいたとは……」
とカクセール伯は首を傾げながら副島八雲の後をついて行った。
――あの無敵の二人に師匠とは……どういった事だ?――
と疑問を感じながら……。




