カンベの都
今、飛空艇ミカサはトウイの国の海上を飛行していた。あれ以来ラシール帝国の攻撃もなく順調に飛行を続けることができ、無事にここユベリア大陸の東端まで辿り着いた。
飛空艇ミカサはこれまで大きく北に大陸を迂回し、今は右手に大陸の東端の海岸線を見ながら南下していた。左手にはトウイの国の南北に伸びた一番大きな島が見えていた。流石にその長い島の全体像を、今のミカサから見通す事は出来なかった。
この国はこのユベリア大陸の東端沖に浮かぶ島国であった。今見えている細長い島とそれより少し小さな三つの島から成り、周辺諸国からはトウイ諸島とも呼ばれていた。
「あれから何の接触も無いですね」
と機長席からダミアンがシバに語りかけた。
シバは操縦室の窓から下界を見下ろしながら
「そうだな。思ったより諦めが早かったな」
と頷いた。
彼にしても意外なほどラシール帝国はあれから何の接触もしてこなかった。よほどあの敗戦に懲りたのであろうか?
それはともかく、飛空艇ミカサは高度を下げながら大きく左へと旋回していった。もう間もなくトウイの国の都が見えてくるはずだった。
「ところで例の少佐はどうなりましたか?」
とダミアンが再び口を開いた。
「うん? スミス少佐の事か?」
「はい。あれからどうなったのか気になっていたもので……」
とダミアンはあれから何の音沙汰もなかったので気になっていた。あの事件の後スミス少佐は別室で監禁され、毎日のようにスペンサー大佐や諜報部門の人間から尋問を受けていた。
「いや。何もまだ決まっていないようだけど……普通ならスパイは国家反逆罪になるからな、死刑になってもおかしくはない。でも提督が何か企んでいるみたいだな」
とシバもカクセール伯爵から詳しい話は聞いていなかった。ただ伯爵の事だから、このまま普通に終わる事は無いだろうとは思っていた。
「ほぉ? 企むとは?」
「ああ、あの提督も狸だからな。なにか変な事を考えているかもしれんな」
とシバは首を軽く振った。本当にシバもその後の情報は聞いていなかった。
暫くしてから
「まもなくトウイの国の都カンベ上空に差し掛かります」
とショーンが告げた。カンベの都は山と内海に囲まれたこの国の都であった。
その声を聞いてシバは再び窓から下界を見下ろした。飛空艇ミカサは、この長い島を越えて内海の海上に出た後、Uターンするように旋回してから更に高度を下げてカンベの都の上空を飛行していた。
今シバの眼下には、のどかな田園風景とそれに続く瓦葺きの屋根の街並みが広がり、更にその奥の山すそに土塁と水をたたえた堀に四周を囲われた広大な土地と屋敷が見えていた。
「あれがこの国の国主の館だよ」
とシバが隣に立って同じように景色を見ていたソフィアに教えた。
このトウイの国は帝と呼ばれる国主と、その下に三人の王と呼ばれる者が各々の領地を支配していた。
元々は四人の王が各々の島を領地とし、その領地を上手く治めていたのだが、ある時から一人の王がこの島々を統一して治める事になった。圧倒的な力を持った王の誕生である。
しかしその王は力を貴ぶこの国の王には珍しく、武力に頼らずにその威厳に満ちた姿と実績だけで他の王を従えてしまった。それからは他の王たちは自領を治めながらも、帝となった王に服従を誓った。
そんな話もシバはソフィアに伝えた。




