全てが終わった
「そ、そうですね。空賊相手でしたからね」
と大佐は苦笑しながら伯爵に助けを求めるように視線を向けた。
「シバよ。それ位で良いだろう。大佐も後の尋問を頼む」
と伯爵は苦笑いしながら言った。
――相変わらずどうでも良い事に拘る奴だ――
と半ば呆れながらであった。
「はっ! それでは私は戻ります」
大佐は肩の荷が下りたかのように安堵の表情を見せ、敬礼をして退室していった。
「もういいですかな?」
と静かだが芯の通った声で話しかけてきたのはクラーキン子爵だった。
今まで目を閉じ黙ってソファに腰かけていたが、やっとここで口を開いた。
「おお、子爵。ご苦労であった。大変な思いをさせてしまった」
と伯爵は慌てたように子爵に声を掛けると、向かいのソファに座った。
「いえ。それは全く気にしてはおりません。伯爵からは前もってこの話も伺っておりましたので予想はしておりました。それにしてもシバ殿のお陰で傷一つ負わずに終わりました」
と子爵はシバに向けて軽く頭を下げて謝意を表した。
「いえいえ。あの中で泰然自若としておられた子爵様が凄いですよ」
とシバは感心したように言った。
「ははは、伯爵からは『何があってもシバ殿に任せておれば良い』と言われておりましたからな。何の心配もしておりませんでした」
と子爵は笑った。
その言葉を聞いてシバは
――なんと太っ腹な貴族なんだ? ラシール帝国も優秀な人材を放出してしまったなぁ。本当に勿体ない――
と更にこの子爵を見直していた。
その時
「ところで一つ質問して良いですかな?」
とサンダース少佐が口を挟んだ。
「はい。なんなりと」
とシバは少佐に向き直って答えた。
「あの時、スミス少佐が短剣を引いたら、シバ殿はどうされた?」
「そうですねぇ……流石にここで首を落とされるのは困るので、引く前にスミス少佐の短剣を払い落としていましたよ」
と事も無げにシバは言った。
と、同時に
――ここで首を落としたら、『あとの掃除が大変だ』とアイリスに首を絞められるだろうが――
と心の中で憤慨していた。流石にそれは口にする事は無かったが。
「そんな事が……」
「少佐よ。シバはそれ位の事は朝飯前だぞ」
と伯爵は傍らに立つ少佐を見上げながら愉快そうに笑った。
「まあ、あれぐらいはね。それよりも提督! ソフィアに余計な尋問をしませんでしたよね?」
とシバは伯爵に詰め寄るように聞いた。
ソフィアに伯爵の接客を命じたのはシバだった。
どうせあれやこれや聞かれるのだったら『本人に聞け!』とばかりにソフィアに対応を任せたのだが、いざ皇女殿下を目の前にすると、流石のカクセール伯爵でも気安く尋問することなど出来るはずもなく、当たり障りのない話しかできなかった。
「しとらん、しとらん。それよりも良い機会を貰えたことを感謝する」
と伯爵はシバに謝意を表した。少なくとも伯爵として帝国の皇女との知己を得たというのは、大きな幸運であったともいえる。
「いえいえ。ソフィアもうちのクルーですからね。働いてもらわねば。それよりここからは伯爵ものんびりとトウイまでの空の旅をお楽しみください。もう隠れずに堂々と羽根を伸ばせますからね」
「うむ。そうするとしよう」
と伯爵は頷くとソファに腰を下ろした。
それを見届けたシバは
「それでは失礼します。ソフィアは伯爵にお茶の用意を、もう隠れなくていいからね」
と笑って部屋を後にした。
「はい。かしこまりました」
と応えてソフィアは頭を下げた。
ダミアンとトニーは会釈をしてからシバを追いかけるように退出していった。
飛空艇ミカサは一路トウイの国を目指して飛行していった。




