無意味
「なんだと!?」
とスミス少佐は驚いたように聞き返した。
同時にサンダース少佐は驚いた表情を浮かべてシバを凝視した。クラーキン子爵は相変わらず目を閉じてゆったりとソファに座ったまま身じろぎもせずにいた。
「いやね。どっちにしろ。我々の命を奪うつもりなんでしょ? だったら犠牲は子爵だけにしてもらい、少佐が首を落としている間に私が少佐の首を落としてあげますよ。そうすれば少なくとも他の人たちは助かりますしね。あっ! それか、どっちが首を落とすのが早いか競争してみます? もしかしたら子爵の首を落とす前に、少佐の首が宙を舞うかもしれませんし」
とシバは楽し気に言った。
「本気か……?」
と言ったのはスミス少佐ではなくサンダース少佐だった。
「ええ。こう見えても首を叩き落とすのは得意なんですよ」
とシバは笑いながら腰を少し落とすと左手を鍔の縁に当てて、それを少し押し上げた。刃が少しだけ鞘から顔を出し不気味に光った。居合の構えである。
スミス少佐は無言でシバを睨みつけていた。明らかにシバの言葉に動揺していた。
それを見透かしたようにシバは
「あなたも軍人なら私の噂ぐらい聞いた事があるでしょう?」
とシバの声が重く沈んだ口調に変わった。眼つきも変わった。明らかに凄みを増した瞳がスミス少佐を睨みつけていた。
部屋の中にシバの魔力が充満した。それはこの部屋にいた誰もが体感しその魔力量に驚愕していた。
近頃は飛空艇の噂ばかり聞こえていたが、本来シバとアキトの二人が最強の勇者である事は、政治や軍事に携わる者であれば周知の事実である。この二人が前人未到のダンジョンの攻略し、未開の土地でどれだけの魔獣を退治してきたか、知らぬ者を探す方が難しい。
彼らが第一線の冒険者を退いてから数年経った今、流石に庶民の話題に上らなくなっただけである。この異世界の王族や政治家や軍事に携わる者達からは、未だに一目は置かれていたし、腫れ物に触るような扱いを受ける事も多々あった。
「だから今回の依頼はこの艇が選ばれたんですよ。分かります?」
と今度はいつもの口調でシバは言った。
「私をこれからどうする?」
と力なくスミス少佐がシバに聞いた。明らかに少佐は戦意を失いかけていた。彼はシバたちが世間からどう呼ばれていたのかを思い出した上に、信じられない魔力量を目の当たりにして動揺していた。
「それは私が決める事ではないですが、まずはその短剣をサンダース少佐に渡してください」
とシバは落ち着いた口調で促した。
暫く考えていたスミス少佐は、流石にこれ以上の抵抗は無意味だと悟ったのか、黙って短剣をサンダース少佐に渡した。
その瞬間サンダース少佐はその腕を取って背中に回してスミス少佐を跪かせた。
「あ、サンダース少佐。もうそこまでしなくても大丈夫ですよ」
とシバが居合の姿勢を解きながら声を掛けた。
その時、扉が開いた。扉を開けたのはソフィアだった。その扉から二人の軍人が入って来た。続いてそのすぐ後にもう数人の軍人が入室した。部屋の入口の前にはコーネルとマリアが立っていた。
二人の少佐は入室してきた軍人を見て驚きを隠せなかった。入室してきた軍人の一人はカクセール伯爵だった。




