操縦室
操縦席の扉が開いて
「失礼します」
と言ってトニーが入って来た。
「ラシール帝国のスパイはスミス少佐でした。今、伯爵を人質に文字通り『落ち目の艦隊を救いに行け!』と喚いています」
と淡々とトニーは報告した。
「そうか。ご苦労。で、俺を呼べと?」
とシバが機長席から振り返り確認した。
「イエッサー。艦長。今ダミアンが対応しています」
「艇長だ。艦長ではない。今度言ったら減給な」
とシバは苦笑いしながら釘を刺した。トニーは舌を出して苦笑いで誤魔化した。
「スパイ?」
とソフィアが驚いたような表情で言葉を発した。
「そう。この艇に一匹ゴキブリが潜んでいたようです」
とアキトが憎々しげに言った。
と同時に
――この航路の情報を流したのはそいつか! キッチリと吐かせてやる――
と心の中で憤怒の炎を燃やしていた。怒りの炎は更に燃え広がっていた。
「大丈夫なんですか?」
とソフィアは不安そうに聞いた。
その問いに直接答えずにアキトは
「大丈夫だよな」
とシバに向かって声を掛けた。
「ああ、大丈夫だ。それにしてもここで行動に出るとはなぁ……お前が容赦なく叩き落とすからだぞ」
どうやら両少佐のどちらかあるいは両方がラシール帝国が送り込んだスパイだと、最初から目星をつけていたようだった。ただこの場で行動を起こすとはシバも考えていなかった。ラシール帝国の艦隊があまりにも早く、一瞬で壊滅したのを目の当たりにして気が動転してしまったのだろう。
「手間が省けて良かっただろう?」
とアキトは言った。口元が少し笑っていた。
「まぁ、そう言われればそうなんだけどなぁ……焦り過ぎなんだよなぁ……」
とシバは何故か残念そうに呟いた。彼はもう少しスパイ探しを愉しみたかったようだ。
「仕方ない。じゃあゴキブリ退治に行ってくる……アキトはどうする?」
シバはそう言いながら操縦席から立ち上がると置いてあった長剣を掴んだ。それは長剣というよりは、どうみても日本刀にしか見えなかった。
「俺はここで待つ。それよりも早くその馬鹿を捕まえて俺の前に連れて来てくれ! ことごとく吐かせてやる」
と誰が見ても分かるぐらいアキトは怒りを抑えながら答えた。
「分かった。でも精神感応系の魔法は使うなよ。あれは後々精神が崩壊する事がある」
「分かっている」
――あ、ダメだこりゃ……まだ怒りはおさまっとらんな……というか尋問はお前の仕事じゃないだろう――
アキトの表情を見てシバはまだ彼の怒りが全く解けていない事を悟った。よほど行動を読まれていたのが気に障ったようだ。
「じゃあ、行ってくる……そうだ、ソフィアにもお手伝い願おうか」
とシバはソフィアにも声を掛けると諦め顔で操縦室を後にした。
貴賓室ではダミアンとスミス少佐が睨み合っていた。睨んでいたのは少佐だけでダミアンは相変わらず、何を考えているのか分からないようなへらへらと涼しい表情で対面していた。
ノックの音がして扉が開いた。
部屋に入って来たのは、シバとトニーの二人だった。
シバは入って来るなり
「困りますね。客室内で刃物を振り回すのは禁止ですよ。他のお客様のご迷惑になります」
と緊張感のない声で言った。




