裏切り
その頃、貴賓室では三人の客が目の前に落ちていく艦隊を眺めながら茫然としていた。
「戦いにもなりませんでしたね」
とダミアンは涼しい顔で二人の軍人に声を掛けた。
彼らは驚きの表情でダミアンの顔を見つめた。
「あの距離で敵戦艦を撃沈できるのか……」
と絞り出すように言ったのはフィリップ・スミス少佐だった。
「まあ、何とか当てられたというところですかね。なんせうちの砲撃手は腕が良いですから」
とダミアンは答えた。
――もう少しで『あんなのは楽勝ですよ』と言いそうになったわ――
とダミアンは心の中で少し焦った。
あまりにも驚愕した表情で見ている軍人を見て、嫌味のひとことでも言ってやろうかと思ったが、敢えてここは控えめに答えた。
ギリギリのところで『わざわざこの艇の性能を他国の軍人に教えてやる必要はない』と思い止まった。
この世界では迂闊なひとことが、情報の漏洩に繋がる事をこの男は良く知っていた。
それでもこの二人の軍人は
「あれが噂に聞く三連装砲なのか?」
とダミアンに問いただすように聞いた。ダミアンの答えは彼らを驚かすには十分な答えだった。
「噂になっているかどうかは知りませんが、あれが三連装砲の威力である事は間違いないです」
と涼しい顔でダミアンは答えた。その横でトニーが無表情で笑いを抑えるのに苦労していた。
トニーはダミアンの従弟でダミアンの事を兄の様に慕っていた。
――ダミーの兄貴も面白がっているなぁ。あんなの楽勝だと言ってやればいいのに……本当にいい性格しているよなぁ――
とトニーはダミアンの心情を理解していたので、この二人の狼狽する軍人を見て失笑を禁じえなかった。
「それでは『空賊』も無事成敗いたしましたので、当艦はこのままトウイを目指します」
とひとこと残して貴賓室を去ろうとした。
その時である。
「待ってもらおうか」
とフィリップ・スミス少佐が二人を呼び止めた。そしておもむろにソファに腰かけているクラーキン子爵の背後に回り子爵の首筋に短剣を押し付けた。
「何をしているんだ! スミス少佐!?」
と驚いたようにサンダース少佐が叫んだ。しかしスミス少佐は何も答えずにダミアンを睨みつけていた。
「それはどういう意味ですか?」
とダミアンは驚いた表情も見せずに聞いた。
「今からあの艦隊の元へ向かえ!」
スミス少佐はヒステリックに叫んだ。明らかに感情の抑制が上手くいっていないようにダミアンには見えた。
――このタイミングで正体を現すとは……焦りまくっているな――
と思いながら
「向かってどうするのですか?」
と冷静にダミアンは聞いた。
「あの艦隊の乗員を救え。そしてこの艦を渡せ。でないとこの裏切り者を始末する」
「言う通りにしても、裏切り者は始末するんでしょ?」
「そうかもしれん。そうでないかもしれん」
とスミス少佐は薄笑いを浮かべて言った。
「ふむ。どっちにしろ私の一存ではどうしようもありません。そういう事は艇長でないと結論は出せません」
「だったら艇長を呼べ!」
とスミス少佐は苛立ったように叫んだ。
「分かりました。トニー、艇長を呼んできてくれ」
ダミアンはスミス少佐から視線を外さずに言った。
「了解しました」
と冷静にトニーは返事をして部屋を出て行った。




