グラビデ卿
「結局、ミカサが飛んだのはその半年後だったか?」
とシバがドヴァリンに聞いた。
「そうじゃったな。あの当時はまだミカサの両舷にプロペラがついていたな」
とドヴァリンは懐かしそうな表情を見せて言った。その当時のミカサは、炎属性の魔晶石から取り出した高熱で蒸気タービンを回してプロペラを駆動させていた。
「そっかぁ……あの時はまだグラビデ卿に出会う前だったからな」
「グラビデ卿って? あの?」
とソフィアが確認するように聞いた。
「そうだよ。ベースアジトの基地監督官のクローバー・ベアリング男爵だ」
とシバはうなずいた。
クローバー・ベアリング基地監督官。グラビデ卿とも呼ばれる貴族である。表向きは皇帝一家の別荘の管理人であるが、あのベースアジトにあって唯一帝国から派遣されている監督官である。
彼のアドバイスにより重力石をミカサの推進機関として取り入れる事が出来たのである。それ以降ミカサの推進機関はこの男爵が中心となって開発を進めていた。
元々、フレデリックを次期皇太子と推すぐらいの第二皇子派であった彼は、フレデリックが乗艦したミカサの事は最初の頃から気にかけていた。なので彼は進んで、まだ誰にも知られていなかった重力石の存在とその抽出方法をシバ達に教えた。
そんなグラビデ卿なのでソフィアとも面識はあった。
「初飛行から一年後ぐらい経った時に、グラビデ卿から招待されて彼が治める領地まで飛んだんだが、その時にこの領地に『重力石』がある事を教えて貰った。グラビデ卿はそれを加工する技術まで俺たちに教えてくれた。本当にあの人には世話になったな」
とドヴァリンが昔を懐かしむように言った。
「その通りだ。あの男爵は貴族でありながら、魔術や魔素の解析にも優れた学者だからな」
とオージーもドヴァリンと同様にグラビデ卿を崇拝している様であった。
「そういう訳で、ベースアジトの監督官をお願いしたんだよ」
とアキトが言葉を付け足した。
「それにしてもこのミカサの能力は凄まじいですよね?」
とソフィアがシバに言った。
「まあね」
とシバは笑った。そして
「重力石の後に、魔晶石の熱気流を利用するサーマルエンジンを開発してくれたのもグラビデ卿だったんだよ」
とシバは言った。彼もグラビデ卿には絶大な信頼を置いていた。
「そうじゃった。その男爵の技術のお陰で『ミカサ』の巡航速度は格段に上がったし、小回りも利くようになった。艇長がドラゴン退治を急降下でやり始めたのも、その頃からだったのじゃ」
とドヴァリンは首を振りながら諦めた様な表情を見せた。
「あんたも、あの艇に乗っている時は一緒にノリノリでやっていたじゃないか!」
とシバが反論すると
「知らん。そんな昔の事は忘れたわ」
とドヴァリンはとぼけた。
「あの装備や武器、主砲もその当時からですか?」
とコーネルが聞いた。今まで黙って聞いていた彼であったが、『ミカサ』の三連装砲には興味が湧いていた。
「その当時はあんな主砲なんか無かったよ。元々は今の主砲のすぐ後ろ辺りに、艦橋のような操縦席があって今の操縦席は、本来『戦闘指令室』だったんだよ」
とシバがその質問に答えた。
「やっぱりミカサは戦艦だったんですね?」
とソフィアが納得したように頷いた。
「元はね。でも今は単なる飛空艇だ」
とシバは笑いながら訂正した。
「艇内の改装や武装は、確か重力エンジンに積み替えて『トウイの国』へ行ってからじゃなかったかな?」
とアキトが記憶を辿るように言った。
「武器に関しては艇長の発明だったからな。この艇の装備は艇長がほとんど考案しておる。ただそれが実現出来たのは『トウイの国』の左近師匠のお陰であるがな」
とドヴァリンが言った。
五条左近。
『トウイの国』が誇る刀鍛冶である。特に素材の加工に関しては、ドヴァリンでさえ敵わない名工である。
「そうだったなぁ……あの時は楽しかったぁ……」
とシバは本当に懐かしそうに言った。
「あんな三連装の大砲をよくぞ思いつきましたよね?」
とコーネルはシバを尊敬の眼差しで見た。
「艇長の居た世界の知識は本当に凄いですね」
とクロードも感心したように言った。
「ま、まぁな」
とシバは答えながら
――あれは全部プラモデルやモデルガンで得た知識だ――
とは言えずに心の中で苦笑していた。




