父と子
長兄は魔力と武力が、次兄は博識であり魔術の研究でも一目置かれていた。そんな兄二人と比べられてタケルは焦っていた。自分の立ち位置が、アイデンティティが確立できていない焦りがあった。それが『直情径行な奴』と他人に思われるような行動に出てしまう要因ともなっていた。
タケルの萎縮した様子を見てアメノが
「父上、今回のモルタリア帝国への留学は、タケルにとって有意義なものとなるでしょう。本来真面目で努力家のタケルです。異国の水を飲んで帰って来る時は、見違えるように成長してると私は信じております」
と助け舟を出した。
「お主はそう思うのか?」
とスサノ帝はアメノの顔を凝視して言った。
「はい。確信しております」
とアメノは物おじせずに背筋を伸ばして答えた。
同時にヒコネも
「私も兄上と同じ意見でございます」
と言って頷いた。
この二人の兄も歳の離れた末弟のタケルが可愛くて仕方がなかった。兄弟仲はとても良いようだ。
スサノ帝は二人の言葉を聞いて少し考えた後
「ふむ……そうか、兄共が二人口をそろえて言うのであれば間違いないであろう。タケルよ。しっかりとモルタリアで修業してくるが良い。そして兄たちもまだ見ぬ世界をしっかりと見て見聞を広めてくるが良い。それはお前にとって、かけがえのない財産となるであろう」
とタケルに優しく言った。
「はい。必ず期待に応えて見せます」
とタケルは頭を床につけてスサノ帝に誓った。
この日の宴は夜遅くまで続く事となった。
お開きとなった別れ際、ソフィアはフレデリックに
「私はこれから皇女として自覚をもって生きていくつもりです」
と自らの決意を告げた。
スサノ帝の助言を受けて皇女であるという自分の立場を自覚したというのもあるが、過去世の記憶を持ったままこの世界に転生してきた彼女は『何故この世界のこの皇女という立場の人間に転生したのか?』という事を自らに問いかけていた。そこに何か意味があるのであろうと感じ始めていた。
「うむ。その気持ちは嬉しく思う。しかし、肩書や立場に縛られる必要はない。お前は思い通りに生きなさい」
とソフィアの言葉を嬉しく思いながらも、敢えてソフィアには自分の思うような人生を歩んでもらいたいという親心ものぞかせていた。
それはシバとアキトと一緒に冒険をして感じた彼の本音であったと思われる。彼も知らぬ間に二人の異世界人の影響を受けていた。
この時代、この世界の王家の人間としては、ある意味革新的な考えを持っていたと言えるかもしれない。
フレデリックは、こののち三日ほどトウイの国に滞在した後、モルタリア帝国へと帰国する事になった。
今回のフレデリックの来訪を機に、トウイの国とモルタリア帝国との間に『和親条約』が結ばれた。それは当然と言えば当然の帰結であった。その後改めて『通商条約』が結ばれる事となる。




