スサノ帝の頼み
その時ソフィアの目に父フレデリックの姿が入った。
「お、お父様?」
とソフィアは床に手をついたまま、上ずった声で叫んだ。フレデリックが来訪しているとは聞いていなかったようだ。
「元気だったか?」
フレデリックは満面の笑みを浮かべて声を掛けた。
「は、はい。ソフィアはこの通り元気でおります。しかし何故父上がこの場に?」
ソフィアは嬉しさと現状が把握できていない困惑した状況の中で、感情の平静を何とか保っていた。
「フェリーが『娘の帰りが遅い!』と心配になって見に来たんだとさ」
とシバがその困惑を察してソフィアに状況をひとことで説明した。
「父上、申し訳ありません。でもご安心ください。ソフィアはここで更に修練を積んでおります」
とソフィアは力強くはきはきとフレデリックに言った。
「そうか。健康そうでなによりだ。それよりも中に入れ。ずっと廊下で正座しているつもりか?」
とソフィアのその姿を見て安心したフレデリックは、優しく部屋の中へと促した。
「あ、はい」
そう返事をしてソフィアは慌てて立ち上がりそのまま副島八雲の後ろに座ろうとしたが、八雲に勧められてその隣に座った。
そして姿勢を正してフレデリックに対面すると
「父上にご報告があります」
とソフィアはフレデリックの顔を見つめて言った。
そのソフィアの真剣なまなざしを見たフレデリックは
「なんだ? 申してみよ」
と父親の笑顔を消し、帝の顔で命じた。
「私はここでの修練を終えたのち帝国に戻り、父上とのお約束通り士官学校に進学いたしとうございます」
とソフィアはきっぱりと言った。
暫くフレデリックはソフィアの真剣な眼差しを黙って受けていたが、
「そうか……本当にそれで良いのか?」
と念を押した。
「はい。今までずっと迷っていましたが、この国へ来て心が決まりました」
とソフィアはきっぱりと言うと視線をスサノ帝に一瞬移した。
「ふむ……そういう事か……よろしい。しっかりとここで学んでから戻って来るが良い」
とフレデリックは全く感情を変えることなく言った。
そしてスサノ帝に向き直ると
「親子二代にわたりお世話になってしまったようですね」
と表情を和らげて頭を下げた。ソフィアの一瞬の視線をフレデリックは見逃してはいなかった。
「何の事だ?」
とスサノ帝はとぼけたが
「ありがとうございます」
とフレデリックは頭をもう一度下げて礼を述べた。彼には娘も自分と同じように将来の事を、スサノ帝に相談したのであろうと感じ取っていた。今のスサノ帝の対応を見てそれを確信していた。
「まあその話はもうよい。それよりも、実は余もお主に相談というか……頼みがある」
と唐突にスサノ帝は前のめりになり話し出した。
「は? 私に出来る事であれば何なりと……」
「既にシバには相談しておったのだが、実は余の息子をお主の国の士官学校に留学させたいと考えておる。どうだろうか?」
とスサノ帝は目を見開きフレデリックに聞いた。




