フラグを立てるな!
フレデリック自身も姫巫女には『トウイの国』に滞在中、色々と世話にもなり魔法も教わっていた。彼自身、姫巫女の事は尊敬していたのでフレデリック自身の魔力を差し出すのであれば、彼は喜んで差し出したであろう。
しかし娘の事となるとそれは別問題であった。稀代の親バカ皇帝である。頭では分かっていても割り切れない気持ちで一杯だった。
「『翡翠』に万が一の事があったら……」
とフレデリックはシバの顔を窺うように聞いた。
「そりゃぁ、姫巫女様もソフィアもその影響を受けるわな」
「だな……はぁ」
とフレデリックは盛大なため息をついた。
「でも安心しろ。それができるのはこの世界で俺とアキトだけだ。あんただってそれは分かっているだろう?」
「うむ……確かに……」
「後は魔王でも生まれない限りは大丈夫だ」
とシバは自信ありげに胸を張って言った。
「おい、それをここで言うな。フラグが立つぞ。ここは異世界なんだからな」
とアキトが苦笑しながら言った。
「あ、そうか!……おっと、今のは無しね」
とシバは慌てて前言撤回した。
――危ない危ない……ここは何でもありの異世界だったわ。地雷を踏むところだったわ――
とシバは改めて自分たちが異世界転移者である事を自覚した。
「なんだ? フラグって言うのは?」
とフレデリックは怪訝な表情を見せて聞いた。
「いや、俺たちが昔いた世界での話だ。あまりこの話を引っ張るな」
とアキトがこれ以上この話題が広がるのを制した。
シバとアキトは自分たちが異世界からの転移者である事は公言していたが、その異世界がどのように彼らのいた世界で扱われていたかは誰にも語った事は無かった。
――異世界なんて空想のラノベの世界で、ご都合主義の産物だ! ……なんて口が裂けても言えんわな。下手にフラグを立てようもんなら、余計なイベントやクエストが発生しかねんからな――
とアキトもこれ以上この話題が続くのを危惧していた。
「ま、兎に角だ! この世界では『翡翠』を打ち負かすような魔力を持つ者は俺たち以外存在しない。もし現れたら、俺たちも姫巫女の眷属になってやるよ」
とシバはフレデリックを安心させるように笑って言った。彼もこの話題からは早く離れたかった。
「そんなものが現れたら、その前にお前たちがさっさと退治しろ」
とフレデリックは眉間に皺を寄せて言った。
「分かったよ。そうするよ」
とシバは笑って答えた。
――はぁ……お前ら、フラグ立てまくり……――
とアキトは声には出さなかったが、そう思いながら一人呆れていた。
「ところで、その修練は長引くのか?」
とフレデリックはやっと当初の目的を思い出したようだった。彼が今一番知りたかったのは、ソフィアに会えるかどうかだった。
「いや、今日はじきに戻って来るだろう。心配しなくても直ぐに会えるさ。でも明日も早朝から神殿に向かうと思うけどね……」
とシバは答えた。今更ではあるが、話題が変わって彼は内心安堵していた。




