フレデリックは親バカである
フレデリック三世の姿が見えると続けて上級将校らしき人物が、二人ほどフレデリック三世より先に周りの様子を窺うように降りた。そして皇帝を迎えるべく両脇に立った。
それを確認してからフレデリック三世はゆっくりとタラップを降りた。
戦艦を取り囲んでいた群衆の間から、副島八雲とその後ろに幾人かの部下がフレデリック三世の前へと進み出た。
先に声を掛けたのはフレデリックだった。
「ご無沙汰しておりますな。八雲殿」
とフレデリックは笑顔で話しかけた。
それに対して副島八雲は表情を緩めずに
「やはりモルタリア帝国皇帝陛下でありましたか。何の前触れもなくお越し頂くとはどういったご用件でありますかな?」
と問いかけた。
「いや、近くを通ったので寄ってみただけなのだが……シバやアキト達ミカサの連中も立ち寄っておると聞いたもので……」
と歯切れが悪い上に少し言い訳がましく聞こえる。国交も不確かな国へ何の事前連絡もなく、一国の皇帝が立ち寄る理由には全くなっていなかった。
その様子を見てシバは
「八雲の旦那も意地が悪いな」
と呟いた。
「全くだな。あれは分かって聞いているぞ」
とアキトも同じ意見だった。
「成る程、スサノ帝に会いに来たわけではないと……」
と副島八雲は表情も変えずに淡々と言った。
「あ、いや……それは……その……」
「どうせ娘御が心配で訪れたのでありましょう?」
「八雲殿……それ以上私を虐めないでください」
とフレデリックは頭を下げた。
「これはこれは。申し訳ありませんでしたな。陛下」
とここで副島八雲は初めて笑顔を見せた。
「八雲殿に陛下と言われると落ち着きませんな」
とフレデリックもほっとしたように笑顔を見せた。
「シバとアキトも来るが良い」
と副島八雲は二人に声を掛けた。
「おっと、呼ばれたぞ」
「やれやれ、仕方ないな。行ってやるか」
とシバとアキトはフレデリック達の前に進み出た。
「本当にお前は親バカだのぉ」
とシバが呆れたように声を掛けた。
「うるさい。娘の事を心配する親のどこが悪い」
とフレデリックは居直って反論した。
「まぁ、こんなところで立ち話もなんだ。館に案内しよう」
と副島八雲は三人を館に案内した。
三人が案内されたのは主殿と呼ばれる広い板間の部屋であった。上座に畳が一畳敷かれ、そこにフレデリックは座り、その両側の置き畳にシバとアキトが座った。
三人に対面するように下座に座ったのは、副島八雲を含めて執権の南條頼宗の二人だった。
副島八雲は改めて、
「このような場所でモルタリア帝国の皇帝をお出迎えするのをお許しくだされ」
と深々と頭を下げた。
「八雲殿、昔の様にフェリーと呼んでくだされ。そう堅苦しい挨拶は勘弁してください」
とフレデリックは慌てて懇願した。
「分かり申した。さすれば……娘御殿には健やかにお過ごしいただいて居る。ご安心召されよ」
と八雲は表情を緩めて言った。彼はフレデリックが娘会いたさに訪れた事を、最初から見破っていた。




