知られたくない魔法
「という事は魔導書が認めれば、この書はイササギの子孫以外にも、主になる可能性があると?」
とシバが聞いた。
「はい。その通りです。この魔導書はその時々によって自己判断を行います。必要と認めれば始祖の血脈以外の方にもその書を開きます。事実何度かそういう事がありました」
と姫巫女は言った。
「なるほど……ところで姫巫女様は、この魔導書の内容を知っているんですよね?」
「はい。勿論です。全て知っております。私は始祖イササギの後、この魔導書の主としてしばらく所持しておりましたし、魔法も書き足しております」
「なるほど……そういうことですかぁ……」
とシバは独り言のように呟くと、
「もしかして、この魔導書が頑なに僕に中身を見せなかったのは、内容がバカバカしすぎるから……だけではないですよね?」
と唐突にシバは姫巫女を問いただすように聞いた。
その瞬間、魔導書が『パタン』と音を立ててソフィアの手の上で閉じた。
「やっぱりそうか……でも、もう遅い……」
とシバの口元が軽く緩んだ。
「なぜそう思うのですか?」
と姫巫女は尋ねた。
――自分がどう見られているかは無頓着で分かっていなかったくせに、こういうところだけは異常に勘が働くんだよなぁ――
とアキトは無言で感心していた。彼にもシバが何を言わんとしているのかが、おおよそだが見当がついていた。
「おい。このしゃべる古本よ。俺を見くびるなよな」
とシバは魔導書を睨みつけて言った。
「俺の鑑定スキルをなめるな。閉じていた時ならまだしも、一度開いたお前の中身なんぞ、読まなくても解る」
「……」
魔導書は無言だった。
「本当の事を言うと、俺に見せたくない魔法がここには書かれているんだろう? それなのに俺の目の前で開くとは迂闊だったな」
とシバは言うと姫巫女とソフィアの顔を見比べた。
二人はシバの視線から目を伏せた。二人は何か知っている様子だった。
「お前が俺に知られたくなかったのは、究極の魔法『アルマゲドン』の魔法陣……だな。この魔法の最後の章に書かれている奴だ……。お前はこの魔法を俺たちだけには知られたくなかったんだろう? 違うか?」
とシバは聞いた。
「……そうだ。流石だな。その通りだ。お主たち二人が同時にこの魔法を行使すると、この地上から全ての物が消え失せる。そして今、この魔法はお前たちしか使えない……そんなものをおいそれと教える訳にはいかん」
と魔導書は悔しそうに答えた。
「バカほど魔力を喰うからな。この魔法は……」
とシバが呟くと
「そうだ。そんな魔法を知られるわけにはいかない……と、はじめは思っていた」
と魔導書は答えた。
「はじめは? なんだ? その言い草は……負け惜しみか?」
「負け惜しみではない。吾輩には、お主たちは既にこの地で『神の領域の火』を手に入れていることが分かっていた」
と魔導書は『最初の思惑とは変わってしまった』と言いたげな言葉を口にした。
「『神の領域の火』だと?」
しかしシバはその言葉をすぐに理解できずに聞き返した。
「それは『神之怒』の事を言っているのか?」
とシバの代わりに答えたのがアキトだった。彼にはすぐにその言葉の意味が理解できていた。




