姫巫女の語り
「話を続けますと……実はイササギと出会ってから私たちは二人で大陸に渡りました。今、この国では『冒険者イササギがこの国の始祖』となっていますが、その時は本人にその気持ちはありませんでしたし、冒険者でもありませんでした。
しかし大陸に渡って色々と他の国々を巡っている間に気が変わったのです。彼にはこの島々の将来が見えていたのです。この四つの島はこのままではこの大陸のどこかの国の属国になるか滅ぼされるかの二択しかない事を……そう、このままならいつかこの島の人々は、いずれかの国に征服されて住人は奴隷にされてしまうと……。その後、しばらく大陸を回った後、この島国に戻り始祖イササギは四つの島をまとめ上げました。
それは彼の力をもってすればそれほど難しい事ではありませんでした。
そして学校を作り文字を教え、街を作り、武士団を育成し強力な武器を作り軍事力を持ち、元々各々の島にあった土着の信仰をまとめました。その時に、私にこの国を護る守護の姫巫女になる事を命じました。
それ以降、この国全体を護る結界を私は張り続けることになります。この『トウイの国』があまり他の国との付き合いを積極的にしてこなかったのは、そういう始祖イササギの危惧から始まっています。
『時が来るまでは自重せよ』
と彼は口癖のように言っていました。イササギが生きている間にこの『トウイの国』はそれなりに力をつけましたが、自分亡き後に諸外国に対抗できる力があるとは彼自身も思ってはいなかったようです」
と姫巫女はそこまで語ると、イササギとの思い出が蘇ったのか
「ふぅ……」
と軽い溜息をついた。姫巫女の話はまだ続く。
「長寿のハイエルフ族に生まれた私は、イササギ亡き後も生き続けることになります。彼の意志を継ぎこの国の行く末を見守る事が私の使命です。そして彼の子孫に彼の考えや教えを伝えるのが使命だと思っています。ただ、彼が亡くなる際に私は言われました『余の死後にこの国の政治の事を我が子孫に聞かれても何も語らなくて良い。我が子孫達がまとまりを欠いても黙って見ていろ。世間の動きからは、耳を塞ぎ口を閉じて見ているだけにしていろ』と……。
要するに私に『政治やこの国の統治には関わらなくて良い』というイササギの気遣いだったのだと思います。なので私自身はこの国の政治とは距離を保ち見守ってきました。もっとも全く何も言わない訳にはいきませんでしたけど……」
と姫巫女はここで一息つくと
「そして『もしこの国が滅ぼされそうになったら、その時の王にこの魔導書を見せろ』と……」
と姫巫女はそう言って視線を魔導書に落とした。
「そんなにもこの国の存亡がかかっている時にこの『雑記帳』を見せろ! ですか? 自国の王を笑い殺すつもりですか?」
とシバが声を上げた。
「おい! 雑記帳ではない! 魔導書だ!」
と魔導書は、シバの言葉にすぐさま反応し叫んだ。
「何を言っている。過去の転移転生者の戯言と、異常に魔力を喰う魔法しか書いてないだろうが!」
とシバは見下したように言った。
「シバ殿、実は話はまだ先があります」
と姫巫女はシバの言葉に気分を害することも無く淡々と話をつづけた。




