必要のない魔法
「そういう訳でこの世界の結界には、そもそも引っかからないお二人のわけですし……この魔導書の言う通り、要らないと言えば要らないですよねえ……」
とソフィアは同情した様な視線を二人に投げかけた。
「あと『ライフのHPが無くなりかけた瞬間に時間を巻き戻す『絶対に死なない』魔法もお二人には要らないですよねぇ……」
「それは要るだろう?」
とアキトが意外そうに聞き返した。
「え? そうですか? じゃあ聞きますけど、誰がお二人を倒せるんですか? 教えて下さい。この世界の住人で、お二人をHPが枯渇するところまで追い込めるような人や魔獣は存在しますか? そもそもそんな経験ありますか?」
とソフィアは間髪容れずに真顔で聞いた。
「いや……それは……」
とシバとアキトは絶句した。
ソフィアの言う通りこの異世界最強チートのこの二人を、倒せる者も魔獣も魔王もこの世界には存在していなかった。
それはこの二人が一番よく知っていた。
そもそもそんなツワモノが存在していれば、この二人は暇を持て余して飛空艇の艇長なんぞやっていなかったはずである。嬉々としてそのツワモノに挑んでいたはずである。
余りにも強すぎて、やる気をなくした二人であった。
「だから言っただろう? お主らが吾輩を読む必要は無いと」
と魔導書は勝ち誇ったように言った。
「なんか腹立つわぁ……その言い方……やっぱり燃やしてやろうか?」
とシバが魔導書に向けて手をかざした。
「だ・か・ら……それは止めてくれぇぃ!!」
と魔導書は叫んだ。
「ダメですよ。短気を起こしては……」
ソフィアはシバを宥めた。
「分かっているよ」
とシバは笑って手を下ろした。本気で魔導書を灰にするつもりは無かったようだ。
「結局、お前が俺に見せたくなかったのは、余りにも内容がショボ過ぎて始祖の沽券にもかかわると思ったからだったんだな」
とシバは魔導書に向かって見下すように言った。
「まぁ……それは否定しない……」
と魔導書は小声で答えた。
「で、ソフィアには、まだ必要な魔法がここに書かれているわけだ」
というシバの言葉に魔導書は何の反応も言葉も返さなかった。
「……でも、案外転生者とか転移者とか、他にもこの異世界に来た人はいたんですねえ……」
とソフィアは改めて感心したように言った。
「結構いたなぁ。始祖様がこの世界に来てから千年も経つからな」
と今度は魔導書は気を取り直したように答えた。
「私はここに書かれた人たちの話がとっても共感できます。じっくりと読んでみたいです」
とソフィアは手にしていた魔導書を愛おしそうに撫でながら言った。
シバとアキトと出会う前まで、この異世界に転移転生してきた人間は自分だけだと思い、孤独を感じていた。それが今この魔導書で自分以外にも多くの人間がこの異世界に飛ばされてきていた事を知り、ソフィアはもっとこの人たちの事を知りたくなっていた。




