シバの提案
「物が物だけに見せびらかすという訳にもいかず、見せたのはほんの数人だ。勿論、帝には最初に見せたが今まで何の反応も無かった」
――スキノの鑑定力をもってしても判らないのに他の誰に見せる必要もないか――
とシバも納得したが、気になる人物が思い浮かんだので
「姫巫女様には?」
と聞いた。
「何故その名が出る? 姫巫女様……あのお方の手を煩わす事など考えた事も無かったわ」
とスキノは即座に否定した。
――姫巫女様自体が聖域みたいなものだからな……そもそもそれはあり得んか……――
とシバは姫巫女であれば結論が違ったかもしれないと思っていた。
またしばらくシバは考え込んだ。そして改めてスキノに
「この魔導書を借りてもいいか?」
と聞いた。
「何か心当たりでもあるのか?」
「ない事は無いが、もし俺の予想が当たっていたら、この魔導書はもうここには帰ってこられなくなるかもしれん……」
「どういう事だ?」
とスキノは聞き返した。
「この魔導書を見せたい奴がいる」
「ふむ……」
と今度はスキノが考え込んだ。
スキノにしてみれば、確かにその存在を知らなかったとはいえ、流石に聖域に在ったこの宝を『はいそうですか』と他人の手に委ねる訳にはいかなかった。ただ、『永遠氷穴の魔獣』が暴れ出さなければ、この魔導書もここで手にする事も、陽の目を見る事も無かったはずである。まだあの永遠氷穴の中でひっそりと誰にも知られずに眠っていたはずである。その魔獣を退治できたのも、今目の前にいるシバやその仲間たちの力があったからである。
暫しの沈黙の後
「そいつならこの魔導書を開くことが出来るかもしれんという訳だな」
「そうだ」
「という事は、もしかしたらその魔導書は、新しい持ち主の手に渡る可能性があるという事だな?」
とスキノはシバに確認するように聞いた。
「察しが良いな。まだ分からんが、その可能性は高い。この魔導書は持ち主を選ぶようだからな」
シバのその返答を聞いてスキノはまた考え込んだ。
そして意を決したように顔を上げると
「分かった。お主にその魔導書を預けよう」
とスキノはシバに言った。
「本当に良いのか? 見せる相手の名前も確認しなくても良いのか?」
と驚いて声を上げたのはスサノ帝だった。
「良い。誰もこの魔導書を開くことができないのであれば、ここにある意味は無い。それにあの『永遠氷穴の魔獣』が暴れ出し、結果、今回この魔導書が我々の目の前に現れたのも、何かの運命めいたものを感じる。それにシバが誰に見せるのかも予想がついている」
とスキノは言った。
「ふむ。お主がそう言うのであれば余は何も言う事はない」
とスサノ帝も納得したようだった。
その時唐突に
「良い判断だ。流石はイササギの流れを汲むものである」
と魔導書が言った。
「何故、我らの始祖の名をお前は知っている?」
とスキノは驚いて聞き返した。
「吾輩をこの世に生み出した創造主は、その始祖イササギである」
と魔導書は答えた。




