開かない魔導書
「ラシール帝国の皇帝オルムトは領土拡大欲求が強いからな。この島を狙っていたのかもしれんな……」
とシバが独り言のように言った。
「あり得ん話ではないな……ふむ。お主はその皇帝と面識はあるのか?」
とその言葉を聞き止めたスキノはシバに聞いた。他国とはあまり付き合いのないこの国の王たちは、他の国の王と面識は無かった。故にラシール帝国の事は噂程度にしか知らなかった。
「あるよ。一応、あの国はうちの商売相手でもあるしな。それ程深い付き合いではないが……」
とシバは答えた。
「商売相手だけではあるまい。あの国の軍隊と何度か一戦交えたであろう?」
とスサノ帝が口を挟んだ。
「まぁね。今回もここに来る前にあそこの軍艦を十隻ほど沈めて来たしな」
とシバは事も無げに言った。
「なんだと?」
と驚いたようにスキノが聞き返した。
「ま、今回は空賊のふりをしていたけどね。だからこっちも余計な詮索はしなかったけど、あれは間違いなくラシールの艦隊だったよ」
「そうなのか……あの戦艦に勝負を挑むとはラシールの奴等も怖いもの知らずだな」
とスキノが呆れたように言った。
「ちょっと待て、うちの艇は単なる飛空艇だからな。その辺の戦艦と一緒にするな」
とシバが釘をさすように言った。
「そうだったな。すまぬすまぬ」
と女王スキノは呆れた様な表情で謝った。
「それにしてもシバの言う通り、宝だけが目的ではなかったのかもしれぬの……認識を改める必要があるかもしれん」
とスサノ帝は考えを改める様に自分に言い聞かせた。
「それはそうだけど、今ここでそれを考えても仕方ないでしょう?」
とシバがスサノ帝に言った。
――今のラシールにこの国に攻め込む余裕はない。今は西側諸国との小競り合い、そしてモウキン国へ興味が移っているはず。いずれはこの国への侵攻もあるかもしれないが……その時の為の布石として『氷穴の魔獣』を怒らせたのであれば、果たしてこのタイミングでやるだろうか?――
とシバは考えていたが口には出さなかった。それよりも
「で、宝って何があったんだ?」
と聞いた。シバの興味はラシール帝国の陰謀よりも氷穴の奥にあった宝物にあった。
「そうだった。それはこれだ」
とスキノは執事から受け取ったものをテーブルに静かに置いた。
それは一冊の分厚い書籍だった。
「これは……魔導書か?」
シバはその書籍をじっと見つめて聞いた。
「そうだ」
「中を見たのか?」
「いや。見ていない」
とスキノは首を振った。
「何故?」
「見たくても本が開かないのだ」
と落胆したようにスキノは言った。
「開かないだと? それはどういうことだ? 見てもいいか?」
とシバはすぐには理解できずに不審な表情を見せた。
「勿論」
とスキノが答えるとシバはその魔導書を手に取った。
そして開こうとしたが、魔導書は開かなかった。
「こういう事か……全く開かんな」
とシバはやっとスキノの言葉が納得できた。
その瞬間
「惜しいな。中を見せてやりたいがお前さんではないんだな……」
とその魔導書から声がした。




