手合わせ
この一連のやり取りを見て
「済まないねえ。この王子、いつもこうなんだよ。性急というかイラチというか、思った事をすぐやらないと気が済まない性質なんだよ。悪い奴では無いんだけどねぇ……お前も言い方に少しは気をつけろよ……」
と重信がタケルに代わって頭を下げた。
そう言われたタケル王子は
「ぐっ……」
と声を発した後は何も言えなくなってしまった。どうやらそれなりに自覚はあったらしい。
「分かりました。こちらこそよろしくお願いします」
とソフィアは頭を下げた。
そう言いながら立ち会う前にソフィアはシバの姿を探し、目が合うとそのまま視線をタケルに移すしぐさをした。
その意味は
『このバカを徹底的にズコズコにして良いですか?』
だった。
――我が国を舐めとるな――
愛国心の強いソフィアは少し怒っていた。
――一応、王子だからね。相手をしてあげても良いだろう。まぁ、少しぐらいは花を持たせてあげても良いかもね――
とシバは、ソフィアの視線からそう汲み取り
『そこそこで相手をしてあげなさい』
と思いながら笑って頷いた。
『分かりました』
とソフィアは笑顔を返した。
――シバさんの許しも得た。とことんいったるでぇ――
……そこに齟齬があった。
立ち合いが始まった。
「それでは参る!」
とタケルが一歩足を進めようとした瞬間。タケルの木刀が宙を舞った。
ソフィアの一撃は、タケルの木刀を吹き飛ばした。初めてソフィアが真刀斎と手合わせをした時の様に木刀を吹き飛ばした。その時とは違い、今回はソフィアが吹き飛ばす方となった。
ソフィアはタケルが攻め込む寸前に、目にもとまらぬ速さで一瞬に距離を詰め、すれ違いざまに彼の木刀を下からすくい上げた。その結果、彼の木刀は天井まで舞った。
まわりで見ていた道場生はどよめいた。
シバも
「え?」
と驚いた。シバはソフィアの予想以上に容赦のない攻撃に言葉を失っていた。
何が起きたかすぐには理解できなかったタケルだが、ソフィアの姿が自分の背後にある事を知って
――なんなんだ? 今のは? 何が起きた?――
と状況は掴めていなかったが、直ぐに勝負が一瞬で着いた事だけは悟った。
「まだまだ。相手が女だと思って油断した」
とタケルは往生際の悪い台詞を吐いた。この余計なひとことはソフィアの逆鱗に触れた。
――本当にこういう台詞を吐く人が居るんだ。漫画の世界だけかと思っていたわ――
とソフィアは怒りながらも、違う意味で感動を覚えていた。
「では、もう一度どうぞ」
とソフィアは笑顔で答えたが、これは完全にタケルを煽っていた。
――あかん! あの笑顔は本気で怒てるわ――
とシバはソフィアの笑顔を見て自分の認識が甘かったことを悟った。
タケルは黙って木刀を拾うと、改めてソフィアに対面した。
今度は慎重に中段に構えてソフィアの隙を窺うように、摺り足で回り込もうとした。
しかし
――全く隙が無い……――
とタケルは焦った。勝負を挑んだは良いが、思った以上に相手は手強かった。




