フェリーとの思い出
「ところで皇女殿下に於かれましてはこの国の食事は、お口に合いましたかな?」
と執権の南條頼宗が聞いた。
この国では執権職は代々南條家が受け継ぎ、同じように将軍職は橘家が受け継いでいた。
「はい。この国の料理は何でも美味しくいただけます」
と満面の笑みを浮かべて言った。
「なるほど……お口に合いましたか……どおりで箸の使い方もお上手なわけだ」
と納得したようにうなずいた。
「はい」
とソフィアは答えながら
――元々、箸は使い慣れていましたからねぇ……それよりも日本食に飢えてましたから、ここは天国です――
と思っていた。
「これから皇女殿下はいつまでこの国に滞在される予定なのかな?」
と将軍職の橘義孝が聞いた。
「はい。もう少し真刀斎先生の元で修業を積んでから、改めて冒険に出たいと思っております」
とソフィアははっきりとした口調で答えた。
「このままずっと冒険者を続けるおつもりか?」
と橘義孝は重ねて聞いた。
「……そのつもりではいるのですが……」
とソフィアは答えてそこで返答に詰まった。彼女自身の気持ちとしてはこの言葉通りであるのだが、帝国の皇女としてそれが許されるのか自信が無かった。その上、父親である皇帝フレデリック三世には『士官学校に行く一年間の間だけ』という約束までしてしまっていた。
冒険者になるためのその場しのぎの言葉であったが、皇帝との約束である。この約束を違える事は許されないという事は重々承知していた。
返答に躊躇するソフィアを見て、
「込み入った事を聞いて申し訳ない」
と橘義孝は謝った。
「いえいえ。正直言うとまだ決めかねているという事です……本当にどうすれば良いのか……」
とソフィアはまだ迷っている事を正直に言った。
「ふ、ふふふふ……」
と突然スサノ帝が笑った。その場の全員がスサノ帝を見た。
「本当によく似た親子であるな」
と破顔してスサノ帝は言った。
「え?」
とソフィアは思わぬスサノ帝の反応に驚き戸惑った。
「皇女殿の父君も同じ事を言っておったな」
と昔を懐かしむような表情でスサノ帝は口を開いた。
「父がですか?」
とソフィアは驚いたように聞き返した。
「そうだ。確か、皇女殿の父君はその当時、皇太子になられて間がない頃であったな」
と言って確認するようにシバとアキトに視線を移した。
「そうでした。フェリーは『兄上が辺境伯になられてしまった』と嘆いていましたからね」
とシバが答えると
「そうそう。『俺は皇太子なんかになりたくない! 帝位なんか継ぎたくない!』と喚き散らしておりましたね」
とアキトも昔を懐かしむように何度も頷きながら言った。
「そうそう。本当に往生際の悪い態度でしたなぁ……」
と最後はシバが明らかに愉し気に言った。
「でも、それに引導を渡したのは、帝ではなかったでしたっけ?」
とシバが思い出したように話をスサノ帝に振った。




