和室にて
シバたち三人はこの後、和室に案内された。どうやらここでスサノ帝と食事を一緒にする事になるようだ。
その部屋には一枚板の大きな座卓が置かれており、その座卓を囲むように席が用意されていた。
上座にスサノ帝が座り、その下座に両脇を固める様に執権の南條頼宗、将軍職の橘義孝、その隣に別当の副島八雲。上座に対面するように真ん中にソフィア、その両脇をシバとアキトが座った。
「今日は本膳料理ではないのか……」
とシバが呟くと
「それにするとお主がいつも『旅館で宴会をしているような気分になる』とバカにするだろう?」
とスサノ帝が反応した。
「バカにはしていないですよ。ただ思った事を言っただけです」
とシバは否定したが、その言葉は何の言い訳にもなっていなかった。
話題を変える様にアキトが
「それにしても今日はこの国のお偉いさんが勢ぞろいですな」
と同席していた重鎮に話題を振った。
「そうだ。本来ならシバ! お主がもっと早く皇女殿下をお連れすべきだぞ」
と軽く詰め寄ったのが執権職の南條頼宗であった。シバとアキトはこのトウイの国の重鎮四人とは面識があった。
折角のアキトの気遣いも、火に油となってしまったようだ。
「それは八雲のダンナにも散々言われましたよ。反省してますって」
とシバは頭を掻きながら答えた。
その時、障子越しに
「失礼いたします」
という声と共に障子がすっと開いた。
「お食事をお持ちいたしました」
と女中が板張りの廊下で手をついて、様子をうかがうように言った。
シバは心の中で
――ナイスタイミング!!――
と叫んでいた。南條頼宗の小言から逃げられて、胸をなでおろしていた。
「うむ。運んでくれ」
と八雲が指示すると幾人かの女中が食事をもって部屋の中へと入って来た。
手際よく食事をテーブルに並べると、静かに部屋を出て行った。前もって料理を運んだ後は、直ぐに部屋を退出するように言われていたようであった。
テーブルの上のビール瓶をスサノ帝は手にすると、ソフィアにビールを勧めた。
「この場は無礼講でよろしいか? 余は堅苦しいのは好きではない」
とスサノ帝は言った。こういうところはシバと相通ずるものがあったと言えよう。
ソフィアは慌てたようにグラスを手にすると、両手でそれを差し出した。宮廷内での作法には長けたソフィアであったが、こういうお座敷接待は初めての経験だったので内心焦りまくっていた。
スサノ帝は
「この頃は西側諸国とも貿易が盛んになってのぉ。こういう酒も手に入るようになったのだ」
と笑顔を見せながらビールを注いだ。
「帝自らお注ぎいただけるとは恐悦至極でございます」
とソフィアは恐縮しながらグラスにビールを受けていた。
その様子を見ながらシバは
「そう言えばブリアイル王国連合とも通商が始まっていましたよね。『あの国の歴史はビールの歴史』と言われるぐらいビール好きが多いですからね。このビールもその流れですか?」
とカクセール伯爵の顔を思い浮かべながら八雲に聞いた。
「その通りじゃ。帝もこの酒がお気に召したようで、この頃はよくお召し上がりになられる」
と八雲は答えた。
「この世界には余の知らない事がまだ沢山あるようだ。これからはもっと世界に目を向けるべきかもしれん」
とシバと八雲のやり取りを聞いてスサノ帝は言った。あまり他国と交流をしてこなかったトウイの国ではあるが、交易の必要性は気が付いたらしい。
その時、すかさずソフィアがスサノ帝に返杯のビールを勧めた。
「帝、グラスをどうぞ」
「うむ」
というとスサノ帝はグラスを差し出しソフィアの酌を受けた。
シバとアキトもすかさず重鎮三人にビールを注いだ。
――異世界でお座敷接待するなんて……笑える。でも、あのまま転移せずにいたら今頃、会社の接待でこんな事をしていたのかもしれんなぁ。どこの世界に行ってもやる事は一緒かぁ……――
とシバは心の中で可笑しさを抑えていた。後で聞いたらアキトもその時同じ事を思っていたらしい。
暫くは和やかな雰囲気の中で食事が進んでいった。




