大王からの依頼
「ところでアキトはどうした? 今日はこの艇に乗っておらぬのか?」
と笑いをおさめたスサノ帝はシバに聞いた。
「アキトは渾深館で道場生を教えていますよ。あいつは案外面倒見が良いんですよ」
「成る程のぉ。で、お主は何もしておらんのか?」
「してますよ。こうやってどこぞの暇を持て余した大王の相手をさせられていますよ」
と不貞腐れたようにシバは答えた。
「わははは。そう言うな。『北の大地』で一緒にうまい酒でも飲もうではないか!」
とスサノ帝は愉快そうに笑った。それにしてもこの帝はよく笑う。それも豪快な笑い方である。
二十年前、スサノ帝はこの国を治める他の三人の王を従えて、この国を統一した大王である。それゆえ王ではなくスサノ帝と呼ばれる。他の三人の王はこのスサノ帝に忠誠を誓い、各々自らの領土を統治していた。
「ところで話は変わるが、モルタリア帝国の皇女殿下も今回、連れて来ておるそうだな?」
とスサノ帝は口調を改めて聞いた。
「ソフィアですか? 連れて来たというか、うちの艇に乗っている冒険者チームのメンバーですよ」
とシバは正直に答えた。
「なんと? あの帝国の皇女が一介の冒険者とな?」
とスサノ帝は声を上げて驚いた。飛空艇ミカサに乗艦している事は知っていたが、まさか冒険者として乗艦しているとは思ってもいなかった。
「そうですよ。ソフィアは、帝も御存じのフェリーの娘ですからね」
――フェリーも帝国の皇子で冒険者だっただろう? 似たモノ親子だよ――
とシバは心の中で毒づいていた。
「そうじゃったな。あの男の娘か……しかし、よくあれが娘が冒険者になる事を許したな?」
とスサノ帝はまだ信じられないような口調で聞いた。
「まぁ、本心では許してはいないでしょうけどね。流れ的に僕とアキトが一緒に居るならまだ安心だと諦めたようですよ」
とシバは一連の経緯を話した。
「なる程のぉ……我が息子もお主に預ければ良かったのぉ」
とスサノ帝はシバの顔を覗き込むように言った。
「止めて下さいよ。そんな事、冗談でもお断りしますから」
とシバは激しく首を振った。
「そんなに無下に断らなくても良いだろう? ところでアメノにはもう会ったのか?」
とスサノ帝は息子である第一王子の名を口にした。この第一王子も亡くなった炎杜迦炎と同じく、シバやアキトと同い年であった。
「ええ。ここに来てしばらくしてアメノから連絡を貰って会いましたよ。相変わらず生真面目ですよねぇ、彼は……」
とシバは親子を見比べるような視線でスサノ帝に答えた。
――この親からあんな真面目な優しげな息子が生まれるかね?――
と思いながら。
「まあ、あれが奴の取り柄と言えば取り柄だからな。母親似だからのぉ」
とスサノ帝は答えたが、少しそれが不満げでもあった。
「で、ソフィアがどうしました?」
とシバは話を戻した。
「そうであったわ。その皇女に会わせて貰えぬか?」
「へ? 良いですけど……わざわざ帝がお会いになりますか?」
と唐突な申し出にシバも驚きながら聞き返した。
その時、
「何を言う? 帝国の皇女殿下だぞ? 今でも遅い位である。そもそもだな。お主がこの国へ参った折に連れてくるのが筋ではないのか? 帝国の皇女殿下だぞ? 何度もお主に言って聞かせておろうが!?」
とスサノ帝に代わり、横から口を挟んだのは別当職の八雲だった。
「確かにそうですが……でも今ソフィアは単なる冒険者ですからねぇ……」
とシバは納得しかねる様子だった。
「そういう問題ではない。皇女の父親である現皇帝も帝と面識もあるというのに、その娘と会わないという道理は無い!」
と八雲は厳しくシバに詰め寄った。
――冒険者といえど、帝国の皇女殿下を無下にする事は出来ないか……これからもこういう機会が増えるんだろうなぁ――
とシバは考えを改めた。そしてうんざりした。
「分かりました。『北の大地』から帰ったら、館まで皇女殿下をお連れしますよ」
と半分不貞腐れたようにシバは答えた。
「うむ、よろしく頼む」
とスサノ帝は満足そうに頭を下げた。




